発達障害のある人が退職前にできる8つのこと 就労に向けてできる6つのことも解説
こんにちは。就労移行支援事業所・キズキビジネスカレッジ(KBC)です。
発達障害のあるあなたは、退職に関する以下のような悩みをお持ちではありませんか?
- 退職が正しい選択かわからない...
- 退職前にしておくべきことは?
- 発達障害が理由で退職した場合、再就職に向けてできることは?
退職は勇気のいる決断です。
特に発達障害のある人は、再就職できるのか不安に感じる場面も多いでしょう。
このコラムでは、キズキビジネスカレッジ(KBC)の知見と各種参考書籍に基づき、退職をご検討中の発達障害の人に、退職の前後にできること・しておきたいことについて解説します。
イメージが掴めるように、退職までの流れも解説しますので、進退にお悩みの発達障害のある人は、ぜひ参考にしてみてください。
私たちキズキビジネスカレッジ(KBC)は、退職を検討している発達障害のある人のための就労移行支援事業所です。
- 病気や障害があっても、KBCでは初任給は38万円も
- 通常52%の就職率が、KBCでは約83%
- 通常約1年半かかる就職内定が、KBCでは平均4ヶ月
神田・新宿・横浜・大阪に校舎があり、障害者手帳がなくても自治体の審査を経て利用することができます。遠方の方は、日常的にはオンラインで受講しながら(※お住まいの自治体が認めた場合)、「月に1回、対面での面談」を行います。詳しくは下記のボタンからお気軽にお問い合わせください。
目次
退職するかどうかは、焦らず、相談しながら考えていきましょう
最初に、発達障害に悩み、現在の職場を退職すべきか迷っているという方へ向けてお話しします。
いろいろな悩みを抱えながら、「退職しても大丈夫か」「間違った選択をしたくない」と思うことも多いでしょう。
発達障害の特性は人それぞれで異なりますし、加えて職場環境も違います。
そのため、一概に「こういう人は退職した方がいい(しない方がいい)」とは言い切れません。
ただ、共通して言えることは、「焦って結論を出さない方がよい」「発達障害や退職・転職などに詳しい人に相談した方がよい」ということです。
なぜなら、これから解説をしますが、発達障害に悩む方が退職前にできることはたくさんあるからです。
まずは身近な人や支援機関などに相談しながら、あなたの障害特性やそれに伴う困りごとを洗い出してください。
その上で、どういう仕事・働き方が合っているのかを考え、今のお勤め先が合っていないということであれば、退職・転職するのも一つの手段です。
今の職場でも配置転換や担当業務の変更などでお悩みが解消できるようであれば、そちらの方がいい場合もあるでしょう。
自分一人で「退職する」という結論を出さずに、人に相談して、じっくり考えてみてください。
発達障害のある人が退職前にできる8つのこと
この章では、こ発達障害のある人が退職前にできること・しておきたいことをご紹介します。
前提として大切なのは、退職に関する悩みを一人で抱え込まないことです。
これから解説するように、医師や周囲の人、支援機関など、あなたが相談できる相手はたくさんいます。
ぜひ、専門家の意見に耳を傾けながら、慎重に進退を考えるようにしてください。
①かかりつけ医に相談する
かかりつけ医がいるようでしたら、まずはそちらに相談するようにしましょう。
仕事の状況を説明することで、退職しなくても、無理なく働き続けるためのアドバイスを得られる場合があります。
「退職しない方がいい」と言うつもりはありませんが、「退職するしかない」と思い込んでいると、退職以外の選択肢が思い浮かばなくなるものです。
また、発達障害による特性よりも二次障害による抑うつ感などが強い人は、そちらの治療を進めることで、「つらさ」を解消できることがあります。
二次障害の状態によっては、治療のために休職することもあり得ます。
その場合は、しっかり休んで治療に専念することが大事です。
主治医の先生から診断書をもらい、職場にその旨を伝え、休職してから(二次障害を治してから)今後のことを決めるようにしましょう。
「退職したい」と思ったら、まずはかかりつけ医に相談してみてください。
②家族に相談する
家族に相談することも大切です。
実際に退職するかどうかは先の話としても、「退職が決まったとき」にいきなり告げるよりも、あらかじめ相談しておく方がよい結果に繋がります。
「実家を離れて一人暮らし」のような方でも、(家族仲が良好なら)実家に連絡・相談しておきましょう。
「心配させたくない」「自分の話だ」などと思うかもしれませんが、いきなり告げられる方が不安ですし、家族には家族の事情や思いがあります。
相談することで、「思わぬ選択肢や金銭的な援助を提案されて、心が軽くなった」などということもありえるでしょう。
逆に、配偶者やご両親に直前まで相談せずに退職(しようと)すると、話すタイミングを逸して、新たなストレスを抱え込んだり、口論になって関係悪化を招いたりする可能性があります。
実際に私の知人で、手続きをした後に家族へ事情を伝えたところ、猛反対にあい、退職を撤回することになった人がいました。
アドバイスを得るだけでなく、大切なご家族に無用な不安や心配を掛けないためにも、退職を検討中の方はできるだけ家族に相談するようにしましょう。
③産業医面談を受ける
職場の規模にもよりますが、かかりつけ医以外に、産業医の面談を受けることも退職までにできることの一つです。
産業医とは、労働者の健康管理について助言や指導を行う医師のことです。
労働安全衛生法に基づき、常時50人以上の労働者が在籍する事業所に1人以上、3,000人超の事業所では2人以上の産業医が配置されています。
以上の条件を満たしていれば、あなたの職場にも産業医がいるはずですので、確認してみてください。
「面談の結果が人事査定に影響するのではないか」と心配されるかもしれませんが、産業医は中立的な立場から診断を行いますので、ご安心ください。
産業医が職場の上司から説明を求められたとしても、個人情報保護の観点から、共有してよいかを原則ご本人に確認することになります。
料金なども発生しませんし、場合によっては上司も同席の上で、業務に関する具体的な相談をすることも可能ですので、利用してみることをオススメします。(参考:厚生労働省※PDF「産業医について」)
④各種の支援機関に協力を求める
4つ目は、「支援機関に協力を求める」です。
公民を問わず、発達障害がある人の就労を支援している機関は複数あります。
例えば、公的な団体や、公的な認可に基づく支援団体の例として、以下のようなものがあります。
- 発達障害者支援センター
- 就労移行支援事業所
- 地域障害者職業センター
- 障害者就業・生活支援センター
「発達障害者支援センター(全国の一覧はこちら)」は、発達障害のある人が安定した生活が営めるよう、総合的な支援を目的として設置されている支援所です。
就労だけでなく、生活面や教育など、発達障害に特化した相談を受け付けているのが特徴です。
「就労移行支援事業所」では、後で詳しく解説するように、さまざまな障害がある人に対して、定期面談や専門スキルの講習など、幅広い就労支援を行っています。
そして、「障害者職業センター(全国の一覧はこちら)」「障害者就業・生活支援センター(全国の一覧はこちら)」では、発達障害を含む障害者への専門的な職業サポートを実施しています。
これらの支援機関は、障害者手帳を取得していない人でも、通常は無料で利用可能です。
基本的にはお住まいの市区町村役所が窓口になっておりますので、どの支援機関が適切かわからない場合や詳細を聞きたい場合は、役所の総合窓口に相談してみてください。(参考:国立障害者リハビリテーションセンター「発達障害者支援センター・一覧|相談窓口の情報」、独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構「地域障害者職業センター」、厚生労働省※PDF「障害者就業・生活支援センター」)
⑤職場にツールを導入してみる
5つ目は、「職場にツールを導入してみる」です。
発達障害の特性ゆえに「仕事がうまくできない」ことで退職を考えているのであれば、それをカバーできるツールが役に立つかもしれません。
例えば、「聞く」ことに困難のあるLDの人であれば、日頃からICレコーダーを使用するといったことが考えられます。
また、最近では、発達障害のある人向けに開発されているツールもあります。
一例を挙げると、社会福祉法人SHIPの提供している「タスクペディア」や株式会社Welbyの開発した「AOZORA」は、ADHDの人の特性に合わせたタスク管理・スケジュール管理が可能になるツールとして知られています。
いずれも、当事者や専門医の監修を経ているので、安心してご利用いただけるはずです。
退職を検討する前に、最新のツールを導入することで業務を改善できないかどうかも、考えてみてください。
⑥配置転換を申請する
職場に配置転換を申請するというのも、有効な手段です。
発達障害がある人は、仕事や働き方によっては、特性を長所として活かすことができると言われています。
退職・転職をしなくとも、部署や業務内容が変わるだけで、あなたの特性に合った就労ができるかもしれません。
発達障害をオープンにしていないのであれば、「どのような仕事が苦手か・合っていないか」を論理的に説明できれば、通常は配置転換が前向きに検討されるはずです。
退職前に、配置転換で対処できないかを考えてみてください。
⑦休職を検討する
退職前に休職を検討することもオススメです。
退職を迷っている方だけでなく、すでに決断している方でも、休職を取って一度間を置くことで、心身を回復できるなど、さまざまなメリットが期待できます。
特に二次障害で「仕事を辞めたい」と感じている方には、休職は療養期間として有効でしょう。
一般的に、休職には医師の診断書が必要ですので、医師とよく相談した上で、休職を前向きに考えてみてください。
お勤め先によって、休職中の「給与支給の有無」や「適用期間」など、条件が異なりますので、その点もきちんと精査しましょう。
⑧貯蓄などの経済面を確認する
最後は「貯蓄などの経済面を確認する」です。
退職した場合、多くの人は転職活動に移るかと思います。
しかし、発達障害の有無にかかわらず、転職活動が長引くことも多々あります。
それを想定して、「退職後の生活費をどう工面するのか」というところまで考えておくことが大切です。
でないと、ご自身の経済状況が気に掛かって、あなたに合わない職場に焦って就職したり、不安から心の調子を崩したりすることになりかねません。
現在の貯蓄、退職金の有無・金額、ハローワークを通じた失業手当の予定・金額、今後の支出予定などをしっかり確認しましょう。
なお、今現在働いているからと言って、休職期間(失業期間)中の生活費を全て自分でなんとかしなくてはいけない、というものでもありません。
親・きょうだい・親戚、友人など、頼れそうな人に正直に援助を申し込むことは、恥ずかしいことではありません(もちろん、断られる可能性はありますが)。
特に二次障害としてうつ病が関係する方は、コラムで、受けられる経済的な支援を紹介しています。ご覧ください。
退職するまでの一般的な4つのステップ
続いて、実際に退職することになった際の、一般的な手続きや流れをご紹介します。
実際の手続き・流れはお勤め先によって異なるため、詳細は人事や総務の担当者に確認しましょう。
流れ①上司に退職を申し出る
退職の決心がついた方は、最初は「直属の上司」にその旨を伝えましょう。
休職中の方はメールでも構いませんので、まずは面談のアポイントメントを取ってください。
一般的には、同僚のいない静かな会議室などで話し合いの場を持つことになります。
面談では、退職理由を聞かれたり引き留められたりする可能性はありますが、退職の意思が変わらない場合、最終的には「所定の退職届の提出」を求められるかと思います。
退職届の作成・提出は、必要に応じて、「書類上の退職日」をいつにするか、「事実上の勤務終了日(次項の有給消化関係)」をいつにするか、業務引き継ぎをどのようにするか…といったことを関係者と調整しつつ、行うことになるでしょう。
退職届を提出して受理された時点で、退職そのものや、退職の時期などが確定します。
なお、上述した手続き・流れの中で、上司によるハラスメントなどが懸念される場合は、一対一での話し合いは避けた方がよいかもしれません。
不安な方は、人事担当者や支援機関に相談の上で他の人にも参加してもらったり、ICレコーダーなどの録音機器を用意したり、という対応が考えられます。
流れ②有給休暇を消化する
この項は、有給休暇が残っている方のための内容です。
有給休暇が残っていない場合は、次項までお進みください。
退職届が受理され、引継ぎが完了すれば、あとは有給休暇の消化に入るのが一般的です。
二次障害が重い場合などは、引継ぎもままならないうちに有給消化に入ることがあるかもしれません。
後ろめたさを感じる人もいるかもしれませんが、欠員による調整は管理職や人事担当者の仕事でもあるので、あまり気負わずにいることが大切です。
体調の回復を優先して、残りの有給休暇を消化するようにしましょう。
また、特に規模の大きな職場の場合、有給休暇の消化に入る前には、退職手続きのやり取りをしている人事担当者の連絡先を忘れずにメモしておいてください。
有給消化中には引き継ぎ関係の連絡を、退職後には後述する社会保険の切り替え手続きなど書類の発行を、人事担当者に依頼する可能性があるためです。
さて、世の中には「有給消化などさせない」という姿勢の会社なども、残念ながらあります。
「有給消化を認めない」ということは、申請の手続きが正しければ、本来的にはできません。(参考:ベリーベスト法律事務所「退職するのに有給消化を拒否された!労働基準監督署へ相談するべき?」)
ただ、そうした会社などを相手に有給消化を実行(しようと)すると、そのためのやりとりを通じて、あなたの心身に給料というメリット以上の負担がかかることがあるのです。
また、性格的に「どうしても、有給消化は申しわけなくてできない」と思う方もいるでしょう。
有給消化についてそのような不安がある場合は、あなた一人ではなく、前述した支援者を頼って対応することで、よりよい方向に進めることができると思います。
流れ③社会保険の変更手続きを行う
有給消化の開始前後から書類上の退職日までの間は、人事担当者とのやり取りを含めて、健康保険や厚生年金といった社会保険の手続きを行います。
基本的には、人事担当者からの案内に対応することで、今後のことも含めて手続きが進んでいきます。
ですが、職場によっては、退職に伴う保険資格の喪失や厚生年金の脱退までしか説明されず、その後のことは自分で調べる必要が生じることもあります。
ただ、人事担当者から詳細な説明があるにせよないにせよ、支援者も頼りながら、ある程度は自分で調べた上で、より自分に合った方向性を選んでいきましょう。
なお、お勤め先での勤務日数や労働時間によって、「元からご家族の扶養に入っている」「すでに国民健康保険に加入している」という方は、改めて手続きを行う必要がない場合もあります。
健康保険については、以下のいずれかになるはずです。
- 国民健康保険に切り替える(預貯金の状況によっては、一定期間支払額を減らすことも可能)
- 一定の条件のもとで、勤め先の健康保険を任意継続する
- 家族の扶養に入る
それぞれの保険料や給付内容を比較して、どれがよいかを検討していきましょう。
年金については、以下のようになると思います。
- 厚生年金から国民年金に切り替える(退職した場合、一定期間支払い額を減らすことも可能)
- 配偶者が支払う
それぞれ、市区町村町役所の窓口が担当ですので、なるべく早めに確認することをオススメします。
流れ④離職票の交付を依頼する
退職手続きの際には、お勤め先に「離職票の交付」を依頼しましょう。
離職票とは、「そのお勤め先を退職した」という証明のようなもので、退職者の求めに応じて、お勤め先がハローワークの所定書式に則って、作成・交付します。
離職票は、ハローワークを通じた雇用保険の失業給付(基本手当)を受給の際に必要な書類です。
退職したら、できれば日数を開けずに(10日以内が目安)、ハローワークに離職票を持参して、就職活動の開始や失業給付金の申請などの手続きを行いましょう。
ハローワークに行って、「退職したので、諸々の手続きを行いたい」と告げると、案内してもらえます。
失業給付金(いわゆる失業手当)は、申請から3か月後経ってから給付されます。
申請から3か月経つ前に就職した場合は、失業給付金の代わりに、再就職手当が給付されます。
ただし、各種給付金を受給のためには、「退職前の2年間で雇用保険の加入期間が12か月以上あること」などの条件があります。
失業給付や離職票の交付についても、前もって職場や管轄のハローワークに問い合わせて確認しておくのがよいでしょう。(参考:ハローワーク「基本手当について - ハローワークインターネットサービス」「就職促進給付」)
発達障害によって退職した方が就労に向けてできる6つのこと
最後に、この章では発達障害の特性に関連して退職された方向けに、就労に向けてできることを解説します。
繰り返し述べますが、大切なことは、一人で就職活動を進めるのではなく、「医師や支援機関などの専門家を頼る」ということです。
先述した各種の支援センターなどのように、あなたが相談できる相手は複数います。
ぜひ、こういった専門の支援機関の助けを借りながら、あなたに合ったお勤め先を見つけましょう。(以下参考:木津谷岳『これからの発達障害者「雇用」』)
①(二次障害がある場合)まずは治療を進める
二次障害がある人は、就職活動を行う前に、まずは優先して治療を進めるようにしてください。
不調のまま就職活動に入ると、そもそも体調が就活・就職できるほどではなかったり、乗り気になれなかったり、面接で歯切れのいい受け答えができなかったりと、大きなストレスを抱える可能性があります。
また、選考結果に振り回されて、メンタルの調子を悪化させる方もいるかもしれません。
医師に相談して、定期的に診断を受けながら、就労に向けた準備をゆっくりと進めていくようにしましょう。
②就労移行支援事業所を利用する
次にオススメしたいのが、就労移行支援事業所の利用です。
就労移行支援事業所では、発達障害などのある人が、就労に向けたサポートを受けることができます。
平成30年(2018年)時点で全国に3,503の事業所があり、運営は、公的な認可を受けたさまざまな団体が行っています。(参考:厚生労働省「平成30年社会福祉施設等調査の概況」)
就労移行支援の主な支援内容は、以下の5つです。
- 生活習慣改善のサポート
- メンタル面のケア
- 専門スキルの講習
- 実際の就職活動の支援
- 職場定着支援(事業所による)
特に③の「専門スキルの講習」の内容や雰囲気は、各事業所の個性が現れるところです。
基礎的なスキル(基礎のPC操作など)の獲得を重視しているところ、より専門的なスキル(ビジネス英会話など)の講習に注力をしているところ、各種資格(TOEICなど)の取得を支援しているところなど、さまざまです。
また、⑤の就労定着支援は、転職した後のサポートです。
転職後の状況に関する一般的な定期面談の他に、職場も交えて、業務内容や業務量の調整などの長く働き続けるためのサポートを受けられます。
2017年に行われた障害者職業総合センターの調査によると、定着支援を受けた人たちの1年後の職場定着率が80.0%であることに対し、受けなかった人たちの職場定着率は61.6%と、20%近い差が出ています。(出典:障害者職業総合支援センター※PDF「障害者の就業状況等に関する調査研究」)
いずれの事業所も、相談・見学は無料ですので、支援内容や雰囲気に興味を持った事業所があれば、詳細を問い合わせてみてください。
次項以下の内容についても、就労移行支援事業所を利用することで、より効率的に進めていくことができます。
③特性を理解するために自己分析をする
3つ目は「特性を理解するために自己分析をする」です。
発達障害のある人は、特性による向き・不向きや、得意・不得意が顕著に現れる傾向にあります。
不向き・不得意は、工夫によってカバーできる部分もある一方で、どうしてもカバーできない面もある、ということです(カバーできる部分については後述します)。
あなた自身が特性に対する自己理解を深めることで、どのような仕事や働き方が向いているのか(向いていないのか)がわかっていきます。
また、「何ができて・何ができないか」という特性理解は、実際に就職して働くときに、業務内容や業務量について職場の人と相談したり、周囲から理解を得たりする際の前提となるものです。
自分の特性を理解した上で、それをうまく説明できるようにしておくとよいでしょう。
自己分析の具体的な方法としては、「紙に書きだしてリスト化する」「相談先の支援員などからのフィードバックをもとに修正を重ねて、テンプレート化する」などが有効です。
特性を考える際には、「周囲の人から言われたこと」がカギになる場合も多いです。
自己分析とは言っても、一人で考え込むのではなく、ご家族やご友人、支援機関などを積極的に頼るようにしましょう。
④特性を仕事に活かせないかを考える
4つ目は、「特性を仕事に活かせないかを考える」です。
前に述べた「特性理解」の中から、「仕事に活かせそうな特性を抽出する」のが次のステップになります。
例えば、ASDやADHDの人は、特性のひとつである「こだわりの強さ」を活かす視点を持つことで、さらに自分に合った職務に就ける可能性があります。
発達障害の専門家として著名な福島学院大学大学院教授の星野仁彦先生は、ASDやADHDの人の職人的な「こだわり」が仕事に活かされることで、発達障害のある人でも素晴らしい業績が残せることがあると指摘しています。
ぜひ、あなたがこだわりを持っていることなど、特性と結びつけて仕事に活かせそうなものがないかを探してみてください。(参考:星野仁彦『発達障害に気づかない大人たち』)
⑤特性をカバーする習慣を身につける
5つ目は、「特性をカバーする習慣を身につける」です。
ADHDの「スケジュール管理やタスク管理が苦手」という特性や、ASDの「コミュニケーションの誤解が多い」といった特性は、どんな仕事であっても、業務におけるネックになることがあります。
業務内容や働き方によって、こうした特性はある程度発揮されずに済むかもしれませんが、それでも「特性をカバーする習慣を身につける」ことは必要です。
ASDであれば「具体的な指示を得るために質問する」、ADHDであれば「日頃からリスト化を徹底する」、LDであれば「文字や図を用いた説明をお願いする」など、特性をカバーする方法はたくさんあります。
ぜひ、取り入れやすい習慣から試していって、身につけてみてください。
発達障害の特性に関する仕事術については、以下のコラムで解説しています。ぜひご覧ください。
⑥雇用枠や働き方を変更する
6つ目は「雇用枠や働き方を変更する」です。
求人・雇用には、障害者を対象とする「障害者枠」というものがあります(障害者枠以外の求人・雇用は「一般枠」と言います)。
障害者枠では、発達障害の特性や程度に応じて、業務内容や業務量への配慮を得ながら働くことができます。
なお、通常、障害者枠で働くためには、障害者手帳の取得が必須です。
発達障害のある人の中には、退職後に、働き方を「一般枠」から「障害者枠」に切り替えたことで、「楽になった」という人もたくさんいます。
一方で、給与水準や昇進などのキャリア面では、一般枠よりも制限がある可能性が高いことも事実です。
障害者枠・一般枠以外の観点としては、いわゆる「9時17時」の固定勤務制もあれば、フレックス制での勤務もあれば、フリーランスとしての働き方などもあります。
雇用枠や就労形態には、それぞれ一長一短がありますので、「あなたに向いたもの」については、支援機関の専門家などに相談して、方向性を考えていきましょう。
退職の要因になりうる発達障害のある人の困り事5点
この章では、退職の要因になりうる「発達障害のある人の困り事」を紹介します。
併せて、代表的な発達障害である「ASD・ADHD・LD」の特性についても簡単に解説します。
あなたの特性理解と働き方を考える際の判断材料になりますので、退職を決断する前に、ご自身の状況と照らして確認してみましょう。(以下参考:宮尾益知『ASD(アスペルガー症候群)、ADHD、LD 職場の発達障害』)
困り事①ASD:職場での人間関係がうまくいかない
ASD(自閉症スペクトラム障害、Autism Spectrum Disorder)とは、社会性・コミュニケーション・想像力の3つの機能に支障が生じる発達障害です。
ASDの人が仕事で感じる困り事は「職場での人間関係がうまくいかない」というものです。
具体的には、以下のような困難を抱えやすいと言われています。
- 職場の状況や上下関係に無頓着で、TPOに合った行動が苦手
- 質問の意図や発言の狙いを察することができない
- ジェスチャーの意味や暗黙のルールを理解しづらい
したがって、処理能力はあっても、コミュニケーションに難があることで、人間関係がうまく築けず、「仕事を辞めたい」と感じる方が多いようです。
逆に言えば、一人で集中できる労働環境や、落ちついた職場であれば、無理なく働き続けられる可能性があります。(参考:本田秀夫『自閉症スペクトラム』、厚生労働省『No.1 職域で問題となる大人の自閉症スペクトラム障害』、太田晴久『職場の発達障害 自閉スペクトラム症編』)
困り事②ADHD:スケジュール管理や細かい仕事が苦手
ADHDは、正式名称を注意欠如・多動性障害(Attention-Deficit Hyperactivity Disorder)という、発達障害の一種です。
ADHDの人には、以下の2つの特性が見られるとされています。
- 不注意…ミスやスケジュールの先延ばしが多く、整理整頓がうまくできない
- 多動・衝動性…常に身体を動かしていないと落ちつかず、考えるよりも先に行動しやすい
特に仕事の現場で悩みの種になるのは、不注意性です。
ADHDの人は整理整頓がうまくできないので、スケジュール管理が甘くなる傾向があります。
また、ミスが多く、確認作業も苦手なことから、細かな仕事は合わないと言われています。
そのため、正確な処理が要求される仕事をしている場合は、資料の抜け落ちや、取引先とのダブルブッキングなどで責められやすく、「もう退職したい」と感じる方も多いようです。(参考:榊原洋一『図解 よくわかる大人のADHD』、日本精神神経学会『今村明先生に「ADHD」を訊く』)
困り事③LD:特定の情報の入出力ができない
LD(学習障害)とは、「読む・聞く・話す・書く・計算する・推論する」といった6つの能力の1つ以上に、習得や使用の困難がある発達障害です。
文部科学省の定義によると、「学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない」という条件が付きます。
LDの人が感じやすい仕事上の困り事は、「特定の情報入出力ができない」というものです。
例えば、「聞く」能力に学習障害のある人の場合、手元に資料がない状況で行われる打ち合わせや会議の場では、耳だけを頼りに情報を取り入れなくてはなりません。
結果として、議論を追うことが難しくなり、発言を求められてもうまく答えられず、「仕事ができない」と感じやすいようです。
困り事④共通:うつ病などの二次障害がつらい
いずれの発達障害にも見られる退職理由のひとつに、「うつ病などの二次障害がつらい」というものがあります。
二次障害とは、「発達障害の特性に伴うストレスが原因の、精神疾患など」のことです。
例えば、ASDの「意思疎通が苦手」という特性によって、職場でのコミュニケーションに困難があり、そのストレスによってうつ病や不安障害が発症した…というようなケースにおけるうつ病や不安障害ことです。
仕事にそこまで大きな支障がない軽度の発達障害であっても、ストレスが積み重なることで、二次障害としてのうつ病を発症し、退職を考えているという場合もあります。
中には、うつ病が元で心療内科にかかったところ、初めて発達障害であることを知ったという方もいます。
二次障害がある場合は、「もともとの発達障害の特性への対応」は大切ですが、「二次障害の治療」ももちろん重要です。
困り事⑤共通:発達障害を開示せずに働くのがつらい
最後は「発達障害を開示せずに働くのがつらい」というケースです。
職場で発達障害を公表せずに働いている方は、多くいらっしゃいます。
こうした方々は、発達障害の特性に伴うミスや問題を「能力がない」と判断されて、同僚や上司から適切な評価が得られないという状況に陥ることがあります。
その結果、そのつらさが高じて、退職を考えるようになったという方もいます。
このケースでは、次章でも述べるように、発達障害を開示して「障害者枠」で働く「オープン就労」に切り替えることにより、無理なく長く働き続けられる可能性があります。
まとめ:発達障害での退職は特に慎重に検討することが大切です
退職の要因になりうる発達障害のある人の困り事や、退職までの流れ、退職前後にできることを一挙に解説しました。
あなたの判断材料になる情報はありましたか?
繰り返しにはなりますが、発達障害のある人の就労には、専門家のサポートが不可欠です。
退職を検討中の方は、悩みを一人で抱えまずに、医師や支援機関の支援員などに相談してみてください。
一人で決断を下すのではなく、専門家の知見を借りながら、慎重に退職を検討するようにしましょう。
このコラムが、退職を検討している発達障害のある人の助けになったなら幸いです。
発達障害を持つ自分が、退職前にできることはありますか?
一般論として、以下の8点が挙げられます。(1)かかりつけ医に相談する、(2)家族に相談する、(3)産業医面談を受ける、(4)各種の支援機関に協力を求める、(5)職場にツールを導入してみる、(6)配置転換を申請する、(7)休職を検討する、(8)貯蓄などの経済面を確認する。詳細はこちらをご覧ください。
発達障害に関連して退職した後、就労(再就職)に向けてできることはありますか?
一般論として、以下の6点が考えられます。(1)(二次障害がある場合)まずは治療を進める、(2)就労移行支援事業所を利用する、(3)特性を理解するために自己分析をする、(4)特性を仕事に活かせないかを考える、(5)特性をカバーする習慣を身につける、(6)雇用枠や働き方を変更する。詳細はこちらをご覧ください。
監修キズキ代表 安田祐輔
発達障害(ASD/ADHD)当事者。特性に関連して、大学新卒時の職場環境に馴染めず、うつ病になり退職、引きこもり生活へ。
その後、不登校などの方のための学習塾「キズキ共育塾」を設立。また、「かつての自分と同じように苦しんでいる人たちの助けになりたい」という思いから、発達障害やうつ病などの方々のための「キズキビジネスカレッジ」を開校。一人ひとりの「適職発見」や「ビジネスキャリア構築」のサポートを行う。
【著書ピックアップ】
『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(2021年12月、翔泳社)』
Amazon
翔泳社公式
【略歴】
2011年 キズキ共育塾開塾(2024年10月現在11校)
2015年 株式会社キズキ設立
2019年 キズキビジネスカレッジ開校(2024年10月現在6校)
【その他著書など(一部)】
『学校に居場所がないと感じる人のための 未来が変わる勉強法(KADOKAWA)』『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(翔泳社)』『暗闇でも走る(講談社)』
日経新聞インタビュー『働けたのは4カ月 発達障害の僕がやり直せた理由』
現代ビジネス執筆記事一覧
【メディア出演(一部)】
2022年 NHK総合「日曜討論」(テーマ:「子ども・若者の声 社会や政治にどう届ける?」/野田聖子こども政策担当大臣などとともに)
サイト運営キズキビジネスカレッジ(KBC)
うつ・発達障害などの方のための、就労移行支援事業所。就労継続をゴールに、あなたに本当に合っているスキルと仕事を一緒に探し、ビジネスキャリアを築く就労移行支援サービスを提供します。2024年10月現在、首都圏・関西に6校舎を展開しています。トップページはこちら→