発達障害で職歴なしの人が就職するコツ5選|受けられる支援も解説します
こんにちは、就労移行支援事業所・キズキビジネスカレッジ(KBC)の寺田淳平です。
発達障害のあるあなたは、職歴がないことで就職活動がうまく進まずに悩んではいませんか。
確かに、職歴がない人の採用を考えるとき、人事担当者は慎重になります。
応募する側としても、面接で実績や強みをアピールするのが難しく感じられる時がありますよね。
しかし、適切な支援を受けながら対策を練れば、就職活動を成功させることは充分に可能です。
そこで今回は、発達障害で職歴なしという方に向けて、就職するためのコツを徹底解説いたします。
3,500人規模の職場で人事を担当していた私の視点から、あなたに合ったお勤め先の見つけ方や、受けられる支援についても併せて解説します。
発達障害で職歴がないという方は、ぜひ参考にしてみてください。
私たちキズキビジネスカレッジ(KBC)は、職歴のない発達障害のある人のための就労移行支援事業所です。
- 病気や障害があっても、KBCでは初任給は38万円も
- 通常52%の就職率が、KBCでは約83%
- 通常約1年半かかる就職内定が、KBCでは平均4ヶ月
新宿・横浜・大阪に校舎があり、障害者手帳がなくても自治体の審査を経て利用することができます。遠方の方は、日常的にはオンラインで受講しながら(※お住まいの自治体が認めた場合)、「月に1回、対面での面談」を行います。詳しくは下記のボタンからお気軽にお問い合わせください。
目次
発達障害で職歴なしの人の就職活動での困難3選
発達障害で職歴なしの人が就職活動で直面しがちな困難には、どのようなものがあるのでしょうか?
「発達障害のどの特性が目立つのか」によって、直面する困難の詳細は変わってきますが、この章では特性にかかわらず、総じて直面しやすいとされている困難を3つ紹介します。
困難①自分の能力に自信が持てない
1つ目は「自分の能力に自信が持てない」というものです。
発達障害のある人であっても、特性や状況によっては、成果を大きく発揮できる場合があります。
そうした成果を具体的な実績や職歴として示せる場合には、就職活動でも自信を持って自己PRをすることができるでしょう。
しかし、発達障害があり、なおかつ職歴がないという方は、就労経験がないことで、「自分がどの程度働けるのか」「仕事に活かしうる能力があるのか」という点に疑問を感じるかもしれません。
このような自分の能力に対する疑念から、なかなか自信が持てずに、就職活動が困難に思われる方もいるようです。
困難②履歴書の空白が気になる
2つ目は「履歴書の空白が気になる」です。
これは発達障害に限らず、職歴を持たない人が直面しやすい困難です。
もちろん、就職においては、「履歴書だけがその人の評価につながる」というわけではありません。
ですが、人事担当であった私の経験を振り返ると、学校卒業後、就労していない期間が長引いている場合には、その方の年齢と経歴欄の余白が多少気にかかることもありました。
もしかすると、応募者の側でも、「履歴書に書けることが少ない」点を気にされる方は少なくないでしょう。
しかし、後の章で述べるように、アピールポイントや自己PRの欄が充実していれば、人事はそちらを評価しますので、ご安心ください。
困難③面接で何を話せばよいかわからない
3つ目は「面接で何を話せばよいかわからない」です。
履歴書の職歴欄が空白になっている場合、面接時に「職歴はなしということで間違いありませんか?」と、記入漏れではないかを確認されることがあります。
場合によっては、応募者の業務遂行能力を少しでも推し量るために、「何かアルバイトや家事手伝いのようなことをした経験は?」といった質問をする面接官もいるでしょう。
そうしたとき、明確な職歴がない方は、「この経験は話すべきだろうか」「評価してもらえる経験と言えるのだろうか」と迷うことがあるかもしれません。
その結果、「何を話せばよいかがわからなくなる」ことがあると思います。
特に、ASDの人は、先述したように、コミュニケーションにおける特性が目立つ場合があります。
「職歴がないと伝えたのに、どうして同じような質問をしてくるのか理解できない」と、面接官の意図がわからずに、混乱することもあるかもしれません。
また、単純に職務経験として話すべきことがないものの、「特にありません」と答えるのは気が引けるというケースも考えられるでしょう。
このように、「面接で何を話せばよいかわからない」というのは、発達障害で職歴なしの人が直面しやすい困難のひとつと言えます。
発達障害で職歴がなくても希望は持てる?~発達障害者の就職状況~
発達障害で職歴がないという人の中には、「就職活動に希望を持てない」と感じる方が少なからずいるようです。
しかし、発達障害で職歴なしの状態からでも、就職することは充分可能です。
その理由として、第一に、発達障害を抱える人の採用枠が増加傾向にあることが挙げられます。
2018年4月の障害者雇用促進法の改正以来、発達障害を含む精神障害者が雇用義務の対象となり、法定雇用率も民間企業の場合で2.0%から2.2%に上昇しました。
この民間企業の法定雇用率は、2021年3月までに、さらに2.3%へ引きあがることが決定されています。(参考:厚生労働省『障害者の法定雇用率の引き上げについて』)
つまり、発達障害を抱える人の雇用数を増やす方向で、法改正が続いているのです。
また、「職歴なし」という人に限って言えば、「職歴なし」の人の職場定着率は「職歴あり」の人よりも「高い」というデータがあります。
発達障害に限らない障害者全体の数値にはなりますが、障害者職業総合センターが2017年に行った調査によると、企業に就職した障害者のうち、「前職なし」(つまり職歴なし)の人の1年後の職場定着率は「83.4%」となっています。(参考:障害者職業総合センター『障害者の就業状況等に関する調査研究』)
しかし、「前職あり」を含む全体の職場定着率は「58.4%」と、「前職なしのみの場合」と比較して「25%」も差があるのです。
これには様々な要因が考えられますが、人事を担当していた私自身の経験も踏まえると、以下のような点が考えられるのではないでしょうか。
- 「職歴なし」の人は前職の経験がないからこそ、最初の就職先でできるだけ多くのことを吸収しようと前向きになれる
- 「せっかく就職できたのだから、頑張って仕事に慣れよう」と思える
いずれにせよ、採用側は「採用するからには長く働いてほしい」と思うのが普通です。
そのため、「職を転々としている人よりは、職歴なしの人の方が頑張ってくれそうだ(定着してくれそうだ)」という考えを持つ人事担当者は少なくありません。
まとめると、発達障害のある人の雇用枠数が増えていることに加えて、「職歴なし」でも職場定着を期待する採用側が少なからずいるのです。
あなたの特性にあったお勤め先を探すことができれば、就職することは充分可能ですので、ご安心ください。
発達障害で職歴なしの人が就職するコツ5選
この章では、発達障害で職歴なしの人が就職するコツを、具体的に紹介していきます。
前提として大切なのは、医師や支援機関の専門家に協力を求めることです。
発達障害を抱えているだけでなく、特に、職歴がないということでお困りならば、就労面のサポートに特化している支援機関に頼るのがオススメです。
以下に解説するコツを実践しつつ、適切に専門家を頼りながら、就職活動を進めていくとよいでしょう。
コツ①専門の支援機関を利用する
1点目は「専門の支援機関を利用する」です。
公・民を問わず、発達障害を抱える方の就労をサポートしている機関はたくさんあります。
特に、就職活動をしているのに就職先が決まらず、その原因が自分でもわからないまま、職歴のない状態が続いている人は、支援機関に相談することで、一人では気付かなかった原因に思い至るケースが少なくありません。
具体的な支援機関の種類については次の章で解説しますが、機関によっては、履歴書の書き方の指導といった、就職活動に直に結びつく支援の他に、日常生活のポイントや自己管理のコツなどを得られるところもあります。
基本的には、発達障害に理解のある支援員が対応しますので、お悩みの方は支援機関に相談してみてください。
コツ②特性を理解する
2点目は「特性を理解する」です。
発達障害の人は、特性による向き・不向きや、得意・不得意が顕著に現れる傾向にあります。
中でも、「できないこと」については、そもそも発達障害が脳の機能の偏りから生じていることもあり、努力や工夫だけでは、どうしてもカバーできない面があります。
そのため、まずはあなた自身が、特性に対する自己理解を深めることが大切です。
自己理解が深まれば、面接の場などで、あなたの特性をより詳しく知ってもらうための話題ができますので、職歴が無くてアピールにお困りの方には、特に重要になります。
また、「何ができて・何ができないか」という特性理解は、実際に就職して働くときに、業務内容や業務量について職場の人と相談したり、自分を理解してもらったりする際の前提となるものです。
そのため、まずは自分の特性を理解した上で、もう一歩先に進みたいという方は、それをうまく説明できるようにしておくとよいでしょう。
具体的には、「紙に書きだしてリスト化する」「後述する機関の支援員などに文章を見てもらいながら修正を重ねて、テンプレート化する」などが有効ですので、試してみてください。
また、特性を考える際には、あなたが普段感じていることの他に、「周囲の人から言われたこと」もヒントになることが多いです。
そして、「専門家」の観点も参考になります。
ですので、ご家族やご友人、次項「専門の支援機関」などを積極的に頼るようにしましょう。
コツ③強みを仕事と結びつけて考える
3点目は「強みを仕事と結びつけて考える」です。
この項の前提となるのは、1点目で述べた「特性理解」です。
そこからさらに「強み」を抽出し、「仕事に活かせないかを考える」ことで、よりあなたに合った就職先が見えてくる可能性が高まります。
職歴がないため、履歴書に書くべきことがないという方は、「強み」を多く発見し、それらを自己PR欄に書くことで、アピールポイントにすることもできます。
また、ASDやADHDの人は、「こだわり」を活かすといった視点を持つことも重要です。
発達障害の専門家として著名な福島学院大学大学院教授の星野仁彦先生は、ASDやADHDの人の職人的な「こだわり」が仕事に活かされることで、発達障害の人でも素晴らしい業績が残せることがあると指摘しています。(参考:星野仁彦『発達障害に気づかない大人たち』)
ぜひ、1章で解説した各発達障害の特性を参考にしながら、「強み」や「こだわり」を仕事と結びつけられないか、考えてみてください。
コツ④職業に結びつくスキルを身につける
4点目は「職業に結びつくスキルを身につける」です。
これは特に、自分の能力に自信が持てないという発達障害の方にオススメです。
また、職歴がない状態が続いていて、仕事ができるかどうかわからないという方にも、実践的な職業訓練・実習を行うことで、就職後のイメージが付きやすくなるというメリットがあります。
職業に結びつくスキルを身につけたい場合、後述する「就労移行支援事業所」のようなところ頼れます(就労移行支援施設については、次章で簡単に説明します)。
そうした施設では、一般的なビジネスマナー、PC・文章作成などの基本スキル、簿記・会計・マーケティングなどの専門スキルを身につけるための講習などが受けられます。
また、後で合わせて述べる「職業訓練校」のように、一日の時間割を組んであったり、学びの成果を発表する「技能祭」を催したりと、学校と同様の形態を取っているところもあります。
職業に結びつくスキルを身につけるための講習は、一回限りではなく、継続的に行う場合が多いです。
基本的には、入門コースから始められるカリキュラムになっていますので、安心して訓練を受けることができるでしょう。
どんな職業訓練施設があるかは、支援機関と合わせて、後でご紹介します。
職歴がなくて能力にも自信が持てないという方は、そうしたスキルを身につけてみてはいかがでしょうか。
コツ⑤経歴以外にアピールできる過去の出来事を書きだす
最後のコツは「経歴以外にアピールできる過去の出来事を書きだす」です。
職歴がない場合、人事担当者は職務経験以外のところに、あなたの人柄を掴む手がかりを求めます。
例えば、「学生時代に頑張ったことは何か」「昔から継続して取り組んでいることはあるか」「過去の失敗をどのように挽回したか・挽回しようと努力したか」といったことです。
そのため、些細なことでも構いませんので、経歴以外の過去の出来事を一度思いだして、整理してみるとよいでしょう。
具体的には、「中学生のとき」「高校生のとき」など、時間に区切りを付けて、まずはその頃に何に取り組んでいたのかを書きだしてみてください。
もしかすると、あなた一人で思いだせることには限りがあるかもしれません。
その場合は、ご家族やご友人、小さい頃からあなたを見てきた医師などの助けを借りるのもよいでしょう。
具体的な例としては、「学生時代から日記やブログを書き続けている」など、あなたの個人的な趣味・習慣であっても、他人の目から見れば「継続性がある」と解釈できる場合もありますので、専門機関の支援員などに意見を聞いてみることは有効です。
ぜひ、過去の出来事や、あなたが何気なく続けていることを書きだしてみてください。
発達障害で職歴がないという人が利用できる支援機関5選
この章では、発達障害で職歴がないという人が利用したい支援機関を、5つ紹介します。
いずれの支援機関も、発達障害に伴う日常的な悩みだけでなく、就労に特化した相談も受け付けている点に特長があります。
もし、どの支援機関がふさわしいかわからないという方は、お住いの自治体の障害福祉担当課などに問い合わせてみるとよいでしょう。
①就労移行支援事業所
就労移行支援事業所では、病気や障害と向き合いながら一般企業への就職を目指す方向けに、障害者総合支援法に基づいて行われる障害福祉サービスを提供しています。
利用にあたっては、職歴の有無は問われません。
就労移行支援事業の対象となるのは、以下の条件を満たす方です。(参考:厚生労働省『就労移行支援事業』)
- 原則18歳から65歳未満であること
- 一般企業への就職または仕事での独立を希望していること
- 精神障害、発達障害、身体障害、知的障害や難病を抱えていること
障害者手帳は必須ではなく、専門医による診断書があればサービスを受けることができます。
具体的な支援内容は事業所によって異なりますが、あなたの障害特性に合わせた「個別支援計画」に基づいて、職業相談からメンタル面の相談、コミュニケーションの訓練や専門スキルの習得、インターン先から就職先の紹介までと、幅広いサポートを行っています。
また、前に述べた「就労定着支援」をあわせて実施している事業所もあります。
相談は無料ですので、支援内容に興味を抱いた事業所に一度、詳細をお問い合わせいただくとよいでしょう。
私たちキズキビジネスカレッジ(KBC)も、就労移行支援事業所の一つです。
②ハローワーク
発達障害のある人は、お住いの都道府県に設置されたハローワークにて、就労支援を受けることができます。
ハローワークでは、障害者としての求職登録を行った方を対象に、専門の相談員がそれぞれの障害特性や希望職種に応じて、職業相談や職業紹介、職場適応指導を実施しています。(参考:厚生労働省『ハローワークにおける障害者の就労支援』)
また、求人者と求職者が一堂に会する「就職面接会」や、事業主と3カ月の有期雇用契約を締結して働く「障害者トライアル雇用」を実施している点も特徴的です。
その他にも、公共職業訓練への斡旋や、ジョブコーチ支援、後述する地域障害者職業センターとの提携など、サービスの範囲は多岐に渡ります。
なお、支援を受ける際には、障害者手帳の有無は問いませんが、診断書や医師の意見書などの提示が必要となる場合があります。
興味をお持ちの方は、ぜひ居住区のハローワークに問い合わせてみてください(全国の一覧はこちらです)。
③発達障害者支援センター
発達障害者支援センターは、就労に限らず、発達障害の早期発見と早期支援を目的として、症状に悩む当事者や家族の生活をサポートする支援機関です。
確定診断が下りていなくても、発達障害の可能性がある方であれば、窓口での相談が可能です。
特に、精神保健福祉士や社会福祉士などが在籍している場合は、より「発達障害に特化したサポート」を受けられる点に特長があります。
具体的な支援内容は自治体ごとに異なりますが、就労支援事業としては、ハローワークなどの関連機関と連携した求人に関する情報提供や、就業先への障害特性に関する助言などを行っています。
窓口は、各都道府県や指定の事業所に設置されていますので、支援をご希望の方は以下の参考リンクからお近くの相談窓口を探してみるとよいでしょう(全国の一覧はこちらです)。
④地域障害者職業センター
地域障害者職業センターでは、発達障害に限らず、障害者一人ひとりのニーズに応じて、職業評価、職業指導、職業訓練などの専門的な職業リハビリテーションサービスを提供しています。
運営は、「独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構」が行っており、全国47都道府県に設置されています。
また、当事者だけでなく、事業主に対しても障害者の雇用管理に関する相談・援助を実施しています(全国の一覧はこちらです)。
⑤職業能力開発訓練校など
一般の職業能力開発校や障害者職業能力開発校では、発達障害者を対象とした訓練コースを設置し、障害特性に配慮した技能訓練「ハロートレーニング(障害者訓練)」を実施しています。
運営主体は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構や、民間の教育訓練機関など、様々ですが、いずれも職業訓練を中心とする就労支援です。
また、ハローワークが公益財団法人など(例:東京しごと財団)と連携して、企業やNPO法人等に訓練を委託しているケースもあります。
訓練の内容は、実際の職場環境を活用した実践的なコースから、在宅でもできる「e-ラーニング」を用いたコースまで、多岐に渡ります。
それぞれのコースによって対象となる条件などが異なりますので、関心をお持ちの方は運営主体の相談窓口に詳細を確認してみてください。(参考:厚生労働省『ハロートレーニング(障害者訓練)』、東京都障害者職業能力開発校『委託訓練』)
改めて、発達障害とは?~種類別の強み~
ここまでは、発達障害で職歴のない人に向けて、就職するためのコツを紹介してきました。
この章では、発達障害の概要について説明します。
発達障害とは、先天的な脳の機能の偏りによって、社会生活やコミュニケーションに困難が生じている状態のことです。
2013年に刊行されたアメリカ精神医学会の定める診断基準「DSM-V」によると、主な発達障害として以下の3つを挙げることができます。
発達障害の症状の中には、程度は異なりますが、非発達障害の人にも見られる症状があるため、専門医でないと判断が難しいです。
中には、診断基準を満たすほど特性が強くないことから、確定診断は下りないものの、社会生活で困りごとを抱えている「グレーゾーン」と呼ばれる人もいます。
まだ発達障害を「疑っている」段階の方は、以下の各発達障害の特性を参照しつつ、まずは専門医のもとで検査を受けることをオススメいたします。(参考: 村上由香『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に暮らすための本』)
ADHD(注意欠陥・多動性障害)
ADHDは、正式名称を注意欠如・多動性障害(Attention-Deficit Hyperactivity Disorder)という、発達障害の一種です。
特性の程度や現れ方には個人差がありますが、ADHDには大きく分けて「不注意」と「多動・衝動性」の2つの特性が見られます。
不注意の特性は、「忘れ物やケアレスミスが多くなりやすい」「整理整頓が苦手」といった傾向で現れます。
また、多動・衝動性は、「気が散りやすい」「優先順位を付けられず先延ばししやすい」といった傾向に見ることができます。
しかし、一見、困り事につながることが多いように思われるADHDの特性にも、以下のような「強み」を見出せます。
- 発想力に富んでいてアイディアが豊富
- 好奇心旺盛で新しいことにチャレンジできる
- 興味のある分野には没頭することができる
- 決断力があるのでスピーディーに物事を判断できる
- 感覚に優れていて周囲の環境に敏感
後に紹介するASD・LDともに、発達障害は病気とは異なり、あくまでその特性が目立ちやすいというだけなのです。
上記のように、特性の中に「強み」を見つけ、それを活かすことができますので、ご安心ください。
なお、ADHDの人は、上記の強みを活かせる場面を想定しながら仕事を探すと、活躍の機会が広がると考えられています。(参考:日本精神神経学会『今村先生に『ADHD』を訊く』、榊原洋一『図解よくわかる大人のADHD』)
ASD(自閉症スペクトラム障害)
ASD(Autism Spectrum Disorder、自閉症スペクトラム障害)とは、社会性・コミュニケーション・想像力の3つにおいて特性が目立つ発達障害です。
これらの特性は、主にコミュニケーションの場面で、以下の形で表れることがあります。
- 場の状況や上下関係に気が回りづらく、TPOに合わせた行動が難しい
- 質問の意図、暗黙知、比喩、冗談などを理解しづらい
- 報告、連絡、相談が必要な場面の見極めが難しい
その他にも、特定の関心分野や決まった順序に強い「こだわり」を見せたり、急に予定が変わると混乱したりする点に特徴があります。
しかし、ASDの人の特性は、以下のような「強み」として捉えることもできます。(参考:本田秀夫『自閉症スペクトラム』)
- 関心分野に高い集中力を発揮できる
- 特定領域の記憶力に長けている
- 規則に従順で規範意識が強い
- 文字情報の処理に優れる
- 論理的な思考が得意
後述するように、上記のような「こだわり・凹凸の強さ」とマッチさせられるかが、ASDの人の就職活動のカギとなります。
LD(学習障害)
LD(学習障害)とは、「読む・聞く・話す・書く・計算する・推論する」といった6つの能力の1つ以上に、習得や使用の困難がある発達障害です。
ただし、文部科学省の定義によると、「学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない」という条件が付きます。
「読む・聞く・話す・書く・計算する・推論する」のうち、どれに困難を覚えるのかは、各々の特性により異なるため一概には言えません。
しかし、「特定の情報処理が難しい」という点は、いずれの特性にも共通しています。
例えば、読字障害の場合は「文字を判読しづらい」、聞く障害の場合は「口頭の説明や案内を理解しづらい」といったケースが挙げられます。
こうした個々の情報処理が苦手な一方で、苦手な領域での配慮を得ることができれば、障害はそこまで大きな壁にならないと考えることもできます。
例えば読字障害がある場合でも、業務内容を図で示してもらえれば、問題なく内容を理解することができます。
このように、特定の情報処理に関する配慮を受けられる環境を探すことが、就職活動では重要になります。(参考:宮尾益知『ASD(アスペルガー症候群)、ADHD、LD 職場の発達障害』、ダイヤモンド・オンライン『発達障害の人に向く職業、向かない職業は何か』)
まとめ:発達障害で職歴なしの人でも就職することは可能です
それぞれの発達障害の強みから、職歴なしの人が直面しやすい困難、就職のコツ、頼れる支援機関までを解説してきましたが、就職活動のイメージは付いたでしょうか?
繰り返しにはなりますが、大切なのは、周囲の専門家を適切に頼ることです。
単に発達障害に詳しい人だけでなく、就労面でのサポートもできる専門家・支援員の協力を仰ぎましょう。
あなたの悩みに対して、メンタル面のサポートだけなく、具体的なアドバイスも与えてくれるはずです。
周りの助けも借りながら、これまでに解説してきた「就職するコツ」を実践してみてください。
このコラムが、発達障害で職歴がないことで悩んでいる方の助けになれば幸いです。
監修キズキ代表 安田祐輔
発達障害(ASD/ADHD)当事者。特性に関連して、大学新卒時の職場環境に馴染めず、うつ病になり退職、引きこもり生活へ。
その後、不登校などの方のための学習塾「キズキ共育塾」を設立。また、「かつての自分と同じように苦しんでいる人たちの助けになりたい」という思いから、発達障害やうつ病などの方々のための「キズキビジネスカレッジ」を開校。一人ひとりの「適職発見」や「ビジネスキャリア構築」のサポートを行う。
【著書ピックアップ】
『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(2021年12月、翔泳社)』
Amazon
翔泳社公式
【略歴】
2011年 キズキ共育塾開塾(2023年7月現在10校)
2015年 株式会社キズキ設立
2019年 キズキビジネスカレッジ開校(2022年7月現在4校)
【その他著書など(一部)】
『学校に居場所がないと感じる人のための 未来が変わる勉強法(KADOKAWA)』『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(翔泳社)』『暗闇でも走る(講談社)』
日経新聞インタビュー『働けたのは4カ月 発達障害の僕がやり直せた理由』
現代ビジネス執筆記事一覧
【メディア出演(一部)】
2022年 NHK総合「日曜討論」(テーマ:「子ども・若者の声 社会や政治にどう届ける?」/野田聖子こども政策担当大臣などとともに)
執筆寺田淳平
てらだ・じゅんぺい。
高校2年の春から半年ほど不登校を経験。保健室登校をしながら卒業し、慶應義塾大学に入学。同大学卒業後の就職先(3,500人規模)で人事業務に従事する中、うつ病を発症し約10か月休職。寛解・職場復帰後、勤務を2年継続したのち現職のフリーライターに。
2019年に一般財団法人職業技能振興会の認定資格「企業中間管理職ケアストレスカウンセラー」を取得。
サイト運営キズキビジネスカレッジ(KBC)
うつ・発達障害などの方のための、就労移行支援事業所。就労継続をゴールに、あなたに本当に合っているスキルと仕事を一緒に探し、ビジネスキャリアを築く就労移行支援サービスを提供します。トップページはこちら→
発達障害で職歴がないため、履歴書を書けません。
一般論として、履歴書に空白(書けない部分)があっても、充実した「アピールポイントや自己PR欄」があれば大丈夫です(充実した書き方は支援機関で学べます)。履歴書以外のポイントも含めて、就職のためのコツはこちらをご覧ください。
発達障害で職歴がない自分が利用できる支援機関を知りたいです。
代表的な例として、次の5点が挙げられます。「就労移行支援事業所」「ハローワーク」「発達障害者支援センター」「地域障害者職業センター」「職業能力開発訓練校など」。詳細はこちらをご覧ください。