ASDのある大人ができる職場での対処法5選 ASDのある同僚がいる人にお願いしたいことを解説 | キズキビジネスカレッジ  

ASDのある大人ができる職場での対処法5選 ASDのある同僚がいる人にお願いしたいことを解説

こんにちは。就労移行支援事業所・キズキビジネスカレッジ(KBC)です。

ASDのある大人のあなたは、職場での人間関係や仕事のことで困ってはいませんか?

2013年にアメリカ精神医学会が定めた精神障害の診察基準『DSM-5』においてASDが規定されて以来、大人のASDが広く知られるようになりました。

最近では、確定診断が下りないものの、ASDの傾向に悩む発達障害グレーゾーンのある大人の存在も認知されつつあります。

このコラムでは、特性に悩むASDのある大人に向けて、職場での対処法、ASDのある同僚がいる人にお願いしたいことについて解説します

ASDのある大人が仕事で抱えやすい困難

ASDのある大人が仕事で抱えやすい困難として、以下が考えられます。

  • 報告・連絡・相談などのコミュニケーションを上手くできない
  • ルール・マナー・暗黙の了解がわからない
  • 自分の体調や状態がわかりづらい
  • 感覚過敏で疲れやすい
  • 予定が急変するとパニックを起こす
  • やるべき仕事がわからない
  • 面接で何をどう話せばいいのかわからない
  • こだわりの強さが周囲に悪影響を与える
  • 仕事が長続きしない

ASDのある人が仕事で抱えやすい困難については、以下のコラムで解説しています。ぜひご覧ください。

ASDのある大人の仕事上の強み

ASDのある大人の仕事上の強みとして、以下が考えられます。

  • 特定領域の記憶力に長けている
  • 関心分野に高い集中力を発揮できる
  • 規則・ルールに従順で規範意識が強い
  • 論理的な思考が得意

ASDのある人の仕事上の強みについては、以下のコラムで解説しています。ぜひご覧ください。

ASDのある大人に向いている仕事・向いてない仕事

ASDのある大人には、以下のような仕事が向いていると考えられます。

ASDのある大人に向いてる仕事
  • 経理事務
  • 会計士
  • 法務
  • 専門事務
  • 設備点検
  • トラック運転手
  • プログラマー
  • ソフトウェアなどのテスター
  • デバッガー
  • ゲームクリエーター
  • 校正・校閲
  • テクニカルライター・専門的な技術に関する文章を書くライター
  • 研究者
  • 数学者
  • 設計技術者
  • 工学系デザイナー
  • CADオペレーター
  • フリーランスのデザイナー・ライター
  • アニメーター
  • カメラマン
  • 駅員
  • 動物の調教師
  • ライン作業
  • 軽作業
  • 清掃員
  • ルーティンワーク・定型的な業務が可能な仕事

ASDのある大人には、以下のような仕事が向いていないと考えられます。

ASDのある大人に向いてない仕事
  • ウェイターなどの接客業
  • 自動車ディーラーなどの販売代理店
  • 営業職
  • コールセンター、案内係などの窓口対応業務
  • 総務職
  • 秘書

ASDのある人に向いてる仕事や向いてない仕事については、以下のコラムで解説しています。ぜひご覧ください。

ASDのある大人ができる仕事術・仕事を続けるコツ

ASDのある大人ができる仕事術として、以下が考えられます。

  • 具体的な指示を求める
  • 情報伝達の方法を変えるよう依頼する
  • アラーム機能を活用する
  • ノイズキャンセル機能のあるイヤホンを使う
  • あなた専用のマニュアルをつくる

また、ASDのある大人が仕事を続けるコツとして、以下が考えられます。

  • 雇用枠を再検討する
  • バイトから始めることも検討する
  • 医療機関に相談する
  • 就労支援機関を利用する

ASDのある人ができる仕事術、仕事を続けるコツについては、以下のコラムで解説しています。ぜひご覧ください。

ASDのある大人が同僚にいる人にお願いしたいこと

ASDのある大人が同僚にいる人の中には、接し方や指示の出し方がわからずに、悩むことがあるかと思います。

特に、ASDの特性は、コミュニケーション全般に関わります。日頃のやり取りにも困惑する場合があるでしょう。

しかし、大人のASDに限らず、発達障害は生まれつきの脳の機能の偏りに原因があるため、本人の努力だけではカバーできない場合があるのです。

それゆえ、コミュニケーションをうまく取るためには、歩み寄ることが必要となります。

まずは、ASDのある同僚の特性を理解することから始めましょう。

コミュニケーションの癖という観点で言えば、一般的に、大人のASDのある人は、以下のような傾向があると言われています。(参考:木津谷岳『これからの発達障害者「雇用」』

  • 時間や場所の指定など、具体的すぎるくらいの指示だと安心する
  • 柔軟な対応や受け答えよりも、定型的な応答や繰り返しの方が仕事しやすい
  • 口頭での伝達よりも、図説の方が理解しやすい場合がある

以上の傾向に注意して、よりよいコミュニケーションの方法を探ってみてください。

その上で、協働したり指示を与えたりするときには、できないことよりもできることに着目し、その人の特性にあわせたマニュアルを作るなどの対策をとると効果的です。

その人にあったマニュアルを作ることができれば、互いに負担なく仕事に臨め、成果にも結びつきやすくなるでしょう。

同僚の特性を理解して、その人にあった仕事やマニュアルをカスタマイズするようにしてください。

改めて、大人のASDとは?

この章では、「大人のASD」について改めて解説します。既にご存知かもしれませんが、これまでに紹介した内容の理解も深まると思いますので、ご覧ください。(参考:『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』、宮尾益知『ASD(アスペルガー症候群)、ADHD、LD 職場の発達障害』、姫野桂『発達障害グレーゾーン』、厚生労働省「ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について」

①ASDの概要

ASDとは、「自閉スペクトラム症、自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder)」を意味する発達障害の1種です。

ASDには多くの特性がありますが、その中でも下記の2点がよく見られるものとして挙げられます。

  1. 社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的な欠陥
  2. 行動、興味、または活動の限定された反復的な様式

他に、感覚過敏(光や音や刺激への敏感さが目立つ)、発達性協調運動障害(不器用さが目立つ)などの特性がある人もいます。

なお、「スペクトラム」というのは、特性に様々なグラデーションがある、という意味です。一口に「ASD」と言っても、その特性の現れ方はひとりひとり異なります。

②ASDという名称・分類について

ASDという名称・分類が使用されはじめたのは、2013年に、アメリカ精神医学会が前掲の『DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引』を定めてからです。

それよりも昔には、「自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」などという名称・分類であり、診断基準も現在とは異なっていました。

かつての分類では、「言語発達に遅れのある場合を自閉症」、「知能が定型の人と同等で言語発達の遅れがないケースをアスペルガー症候群」と区分して判断する傾向がありました。

一方、ASDという分類では、厳密な区分ではなく、「地続きの障害(=スペクトラム)」としてとらえようとしています。

なお、現在も「正式な医学用語」以外の場面(日常会話や法令名など)では、アスペルガー症候群などの旧名称・分類が残っていることもあります。

③ASDによる具体的な困難について

ASDの特性は、具体的には次のような形・傾向で現れることがあります(例であり、「ASDの人には必ずこのような傾向がある」「このような傾向があれば必ずASDである」というものではありません)。

  • 人と目線が合いにくい
  • 場の状況や上下関係に無頓着である
  • 名前を呼ばれても反応しない
  • 一方的に言葉をまくしたてる
  • 会話による意思疎通がうまくできず、コミュニケーションの齟齬が生じやすい
  • 他人の発言をそのまま繰り返す
  • 相手の身振りの意味、意見・気持ちなどを察しづらい
  • 自分の考えと別の可能性を想定しづらい(相手の立場に立って考えることが苦手)
  • 質問の意図や発言の狙いを理解しづらい
  • 比喩や冗談を理解しづらい
  • 表情から気持ちを察しづらい
  • 自分だけのルールにこだわる
  • 決まった順序や道順にこだわる
  • 予定が急変するとパニックになる(パターン化した行動をする方が落ちついた生活を送ることができる)

④ASDの診断は医師だけが可能

「自分が(ある人が)ASDかどうか」の診断は、医師による問診や心理士が実施する心理検査を中心に行われます。

逆に言うと、医師以外には「ASDかどうか」の診断・判断はできません。

あなたが(ある人が)「発達障害かどうか」をハッキリさせたいのであれば病院を受診してみることをオススメします。

「診断を受けるのが不安」と思う人は、発達障害者のサポートを行う団体(各都道府県にある発達障害者支援センターなど)に「病院に行くべきかどうか」「診断をつけるメリットや注意点は何か」などを相談することができます。

⑤ASDの医学的な診断基準

下記は、2013年にアメリカ精神医学会がまとめた『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』(精神障害の診察基準などを記した書籍)に挙げられているASDの診断基準を抜粋・一部編集したものです。

次のような診断基準に当てはまればASDの可能性があります(あくまで可能性です。「どの程度なら『当てはまる』と言えるか、他の病気や障害の可能性はないかなども含めて、「ある人がASDかどうか」は、医師だけが判断できます)。

A.複数の状況で社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的欠陥がある
  1. 相互の対人的-情緒的関係の欠落で、例えば、対人的に異常な近づき方や通常の会話のやり取りのできないことといったものから、興味、情動、または感情を共有することの少なさ、社会的相互反応を開始したり応じたりすることができないことに及ぶ
  2. 対人的相互反応で非言語的コミュニケーション行動を用いることの欠陥、例えば、まとまりのわるい言語的、非言語的コミュニケーションから、アイコンタクトと身振りの異常、または身振りの理解やその使用の欠陥、顔の表情や非言語的コミュニケーションの完全な欠陥に及ぶ
  3. 人間関係を発展させ、維持し、それを理解することの欠陥で、例えば、さまざまな社会的状況に合った行動に調整することの困難さから、想像上の遊びを他者と一緒にしたり友人を作ることの困難さ、または仲間に対する興味の欠如に及ぶ
B.行動、興味、または活動の限定された反復的な様式が2つ以上ある
  1. 情動的または反復的な身体の運動、ものの使用、または会(例:おもちゃを一列に並べたり物を叩いたりするなどの単調な常同行動、反響言語、独特な言い回し)
  2. 同一性への固執、習慣への頑ななこだわり、または言語的、非言語的な儀式的行動様式(例:小さな変化に対する極度の苦痛、移行することの困難さ、柔軟性に欠ける思考様式、儀式のようなあいさつの習慣、毎日同じ道順をたどったり、同じ食物を食べたりすることへの要求)
  3. 強度または対象において異常なほど、きわめて限定され執着する興味(例:一般的ではない対象への強い愛着または没頭、過度に限局したまたは固執した興味)
  4. 感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ、または環境の感覚的側面に対する並外れた興味(例:痛みや体温に無関心のように見える、特定の音または触感に逆の反応をする、対象を過度に嗅いだり触れたりする、光または動きを見ることに熱中する)

⑥いわゆる「大人のASD」とは

「大人のASD」という言葉を聞くことがあるかもしれません。「大人のASD」とは、医学的な定義がある言葉ではありません。次のような状態を指す俗語です。

  1. 学童期には目立った特性や困難が見られなかった、またはその診断等を受けることはなかったものの、成人してから仕事の場などでその特性が顕在化し、ASDの診断を受けることになった例
  2. 子どもの頃からASDの診断を受けていた人が大人になった状態

1に関連して、発達障害は生まれつきのものであり、「大人になって(大人になるにつれて)発達障害になった」ということではありません。その上で、大人になって受けた検査でASDであることが初めて判明したというケースは少なくないようです。

⑦大人のASDの「グレーゾーン」とは?

ASDの傾向が確認されるものの、確定診断が下りるほどではないほどの状態・人のことを俗に「(ASDの)グレーゾーン」と言います

グレーゾーンの場合、確定診断がないことから利用できる公的なサービスが限定されることがあります(例:障害者手帳を取得できないため障害者手帳が必須なサービスを利用できない)。

ただし、グレーゾーンの人でも「発達障害者支援センター」のようなサポート団体への相談は可能です。

確定診断があってもなくても、またASDに関係してもしなくても「発達障害に関する悩み事」は専門的な知識を持つ人たちに相談した人が対策や解決策を見つけやすくなるでしょう。

⑧ASD以外の発達障害

発達障害はその特徴によって、いくつかのグループに分けられています。

ASD以外の主な発達障害には、ADHD(注意欠如・多動性障害)、SLD(限局性学習障害)などがあります。

ASDとADHDの主な違いは、対人関係でのコミュニケーション能力の差にあらわれます。

ASDの場合

他人の身振りの意味などを察することや、状況の推測・暗黙の了解を理解しにくいことが多いです。運動が苦手なことも多いです。

ADHDの場合

ASDの人と比べると、コミュニケーションに大きな齟齬が生じたり、会話のやり取りや身振りの意味の理解に不自由さが生じたりするということは少ないです。
一方で、書類の記入間違いや物忘れといったミスが多いです。

ASD・ADHD・SLDの複数が併存する人もいます。気になる人は、下記の参考記事をご覧ください。

まとめ:大人のASDでも工夫次第で仕事は続けられます!

まとめ:大人のASDでも工夫次第で仕事は続けられます!

大人のASDの特性から、職場でできる対処法、職業の向き・不向きまでを解説してきましたが、役立ちそうな情報はありましたか?

前提となるのは、周囲の人を頼るという姿勢です

ここで言う「周囲の人」とは、かかりつけ医に限らず、同僚やご家族、支援機関の専門家などのことです。

大人のASDの人は、特にコミュニケーションの面で苦労しやすいため、自分一人で抱え込むのではなく、周囲に協力を求めることが大切になってくるのです。

できるだけ、周りの人に悩みや困りごとを相談するようにしましょう

このコラムが大人のASDで就労に悩む人の助けになれば幸いです。

よくある質問(1)

ASDのある大人が職場で実践できる対処法はありますか?

一般論として、次の5点が考えられます。「具体的な指示をお願いする」「情報媒体を変えてもらう」「時間管理にアラーム機能を用いる」「イヤホンなどのグッズを利用する」「就労支援を受ける」。詳細はこちらをご覧ください。

よくある質問(2)

ASDのある大人に向いている職業はありますか?

一般論として、次の4種類が挙げられます。「プログラミングなどのIT系」「経理」「事務」「法務」(「実際のあなた」に向いているかどうかは、もちろん個別の事情によって異なります)。詳細はこちらをご覧ください。

監修志村哲祥

しむら・あきよし。
医師・医学博士・精神保健指定医・認定産業医。東京医科大学精神医学分野睡眠健康研究ユニットリーダー 兼任准教授、株式会社こどもみらいR&D統括。 臨床医として精神科疾患や睡眠障害の治療を行い、また、多くの企業の産業医を務める。大学では睡眠・精神・公衆衛生の研究を行っており、概日リズムと生産性、生活習慣と睡眠、職域や学校での睡眠指導による生産性の改善等の研究の第一人者。

【著書など(一部)】
子どもの睡眠ガイドブック(朝倉書店)』『プライマリ・ケア医のための睡眠障害-スクリーニングと治療・連携(南山堂)』
他、学術論文多数

日経新聞の執筆・インタビュー記事一覧
時事メディカルインタビュー「在宅で心身ストレス軽減~働き方を見直す契機に」

監修キズキ代表 安田祐輔

発達障害(ASD/ADHD)当事者。特性に関連して、大学新卒時の職場環境に馴染めず、うつ病になり退職、引きこもり生活へ。
その後、不登校などの方のための学習塾「キズキ共育塾」を設立。また、「かつての自分と同じように苦しんでいる人たちの助けになりたい」という思いから、発達障害やうつ病などの方々のための「キズキビジネスカレッジ」を開校。一人ひとりの「適職発見」や「ビジネスキャリア構築」のサポートを行う。

【著書ピックアップ】
ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(2021年12月、翔泳社)』

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翔泳社公式 【略歴】
2011年 キズキ共育塾開塾(2023年7月現在10校)
2015年 株式会社キズキ設立
2019年 キズキビジネスカレッジ開校(2022年7月現在4校)

【その他著書など(一部)】
学校に居場所がないと感じる人のための 未来が変わる勉強法(KADOKAWA)』『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(翔泳社)』『暗闇でも走る(講談社)』

日経新聞インタビュー『働けたのは4カ月 発達障害の僕がやり直せた理由』
現代ビジネス執筆記事一覧

【メディア出演(一部)】
2022年 NHK総合「日曜討論」(テーマ:「子ども・若者の声 社会や政治にどう届ける?」/野田聖子こども政策担当大臣などとともに)

監修角南百合子

すなみ・ゆりこ。
臨床心理士/公認心理師/株式会社こどもみらい

執筆寺田淳平

てらだ・じゅんぺい。
高校2年の春から半年ほど不登校を経験。保健室登校をしながら卒業し、慶應義塾大学に入学。同大学卒業後の就職先(3,500人規模)で人事業務に従事する中、うつ病を発症し約10か月休職。寛解・職場復帰後、勤務を2年継続したのち現職のフリーライターに。
2019年に一般財団法人職業技能振興会の認定資格「企業中間管理職ケアストレスカウンセラー」を取得。

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