ASDのある人が就職を成功させるコツ7選 就職先を探す際のポイントを解説
こんにちは。就労移行支援事業所・キズキビジネスカレッジ(KBC)です。
ASDのあるあなたは、新卒・転職を問わず、なかなか就職が決まらずに、悩んではいませんか?
ASDのある人の中には、その特性ゆえに就職活動で苦労されるケースが少なくありません。
しかし、さまざまな支援を利用しながら、自身の特性を理解した上で就職活動を進めれば、あなたに合った職場を見つけられる可能性が高まります。
このコラムでは、ASDのある人が就職を成功させるコツや就職先を探す際のポイント、就職活動で抱えやすい困難について解説します。
私たちキズキビジネスカレッジ(KBC)は、就職を検討しているASDのある人のための就労移行支援事業所です。
- 病気や障害があっても、KBCでは初任給は38万円も
- 通常52%の就職率が、KBCでは約83%
- 通常約1年半かかる就職内定が、KBCでは平均4ヶ月
新宿・横浜・大阪に校舎があり、障害者手帳がなくても自治体の審査を経て利用することができます。遠方の方は、日常的にはオンラインで受講しながら(※お住まいの自治体が認めた場合)、「月に1回、対面での面談」を行います。詳しくは下記のボタンからお気軽にお問い合わせください。
目次
ASDのある人が就職を成功させるコツ7選
この章では、ASDのある人が就職を成功させるコツについて解説します。
解説するコツを実践することで、実際のあなたに向いてる仕事や就活方法などが見つかっていくと思います。
かかりつけの医師や専門家、支援機関に相談できる人ほど就職活動は成功しやすくなります。周囲の人と一緒に確認しながら見ていきましょう。(参考:本田秀夫『自閉症スペクトラムがよくわかる本』、對馬陽一郎『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に働くための本』、木津谷岳『これからの発達障害者「雇用」』)
コツ①かかりつけの医師に相談する
就職活動をはじめる際、まずはかかりつけの医師に相談しましょう。 前提として、就職活動中に生じる悩みを、一人で抱え込まないことです。
ASDの二次障害がある場合は、まず二次障害の治療に専念してください。
二次障害とは、発達障害や発達障害グレーゾーンの傾向・特性に伴って発生する精神障害やひきこもりなどの二次的な困難や問題のことです。(参考:齊藤万比古『発達障害が引き起こす二次障害へのケアとサポート』、小栗正幸『発達障害児の思春期と二次障害予防のシナリオ』)
ASDのある人は社会性・コミュニケーションに困難が生じやすいため、職場などの環境に馴染めず、うつ病などを患うことがあります。それが就職活動にまで影響している可能性が高いと言われています。
その結果、心的外傷後ストレス障害(PTSD)のような症状やうつ病を患い、それが日常生活や就職活動にまで影響してくる場合があります。
二次障害には主に以下のようなものがあります。
- 適応障害:明らかなストレス要因を機に情緒不安定や抑うつ、身体症状が続く
- 不安:漠然とした不安が続く全般性不安障害、対人場面で緊張が出る社交不安障害
- 強迫性障害:不快感を伴ctう考えや行動をやめられない強迫観念や強迫行為が続く
- 心的外傷後ストレス障害(PTSD):生死に関わるようなショックな出来事の後で、恐怖や無力感が持続し、体験の想起や記憶がとつぜん思いだされる「フラッシュバック」が起こる
二次障害の治療をしていない段階で就職活動を進めると、就職が成功しづらいだけでなく、症状が悪化する危険性があります。
就職活動をはじめるときには、自分だけで判断せずに、かかりつけの医師の診断を受けてください。あなたの特性や現状に適したアドバイスが得られます。二次障害がないかを確認し、必要に応じて治療を進めるとよいでしょう。
コツ②支援機関を利用する
ASDのある人が就職を成功させる一番のコツは、就職について専門家や支援機関に相談することです。
ASDのある人が就職活動を進めようとしても、「なにから手をつけていいかわからない」という状態に陥りがちです。そういった場合、第三者の人や支援者の客観的な意見が特に大切になってきます。ASDに理解のある支援機関を利用することで、就職活動を有利に進められるようになります。
ASDのある人向けに、福祉サービスを提供する支援機関はたくさんあります。中には就労面に特に力を入れているところがあります。それらの支援機関は実績も事例も豊富なため、きっとあなたに合ったアドバイスをしてくれるはずです。各支援機関に相談しながら検討することで、より効果的に進めることができるでしょう。
例えば、就労移行支援事業所であれば、就職先やインターン先の紹介だけでなく、定期面談による精神的なケア、特性理解の手助け、就職先を探す手伝い、ESの書き方や面接の受け方などの講習、専門的なスキルの講習なども受けることができます。また、最低0円からサービスを利用することが可能です。
どの支援機関が適切かわからないと言う場合は、お住まいの自治体の障害福祉を担当する部署・窓口に相談してみてください。
就労移行支援事業所の詳細については、以下のコラムで解説しています。ぜひご覧ください。
ASDのある人が利用できる支援機関については、以下のコラムで解説しています。ぜひご覧ください。
コツ③自分の特性を理解する
3つ目のコツは、自分の特性を理解することです。
就職活動をする前に、何ができて、何ができないかに着目して、障害特性への自己理解を深めることが大切です。
ASDのある人は、特性による向き・不向きや、得意・不得意が顕著に現れると言われています。不向きなことや不得意のことは、努力や工夫だけではカバーしきれない場合があります。
そして、実際の特性は人によって異なります。ASDのある人には向いてないとされる仕事でも、あなたには向いてる仕事である可能性はもちろんあります。まずはあなた自身が、特性に対する自己理解を深めることが大切です。
例えば、感覚過敏がある人は、その特性から周囲の人から離れた職場環境などを必要とする場合があります。どのような条件下であればパフォーマンスを上げられるのかを考える上で、自分の特性を理解することは重要になってくるのです。
特性を理解した上で、あなたの特性に合う業務や就職先を探しましょう。
自分は何が得意・不得意なのか、何に興味があるのか、どのような業務ができそうなのかを、紙に書きだすなどして、一度、整理してみるとよいでしょう。自分の特性への理解が深まれば、面接の場などで、あなたの特性をより詳しく知ってもらうための説明ができるでしょう。もちろん、エントリーシートの作成などにも役立つはずです。
自分の特性を理解する際は、専門家や支援機関以外に、家族や友達などから意見をもらうことも効果的です。
加えて、仕事の場でもっと活躍したい人は、できることや特性を活かすといった視点を意識するようにしてください。
福島学院大学大学院教授の星野仁彦氏は、発達障害のある人の職人的なこだわりを仕事に活かせれば、発達障害のない人と同じか、それ以上に素晴らしい業績を残すことがあると指摘しています。(参考:星野仁彦『発達障害に気づかない大人たち〈職場編〉』)
ぜひ、自分の特性理解を深めて、その特性を活かす方法を考えてみてください。特性を活かせそうな仕事が見つかれば、楽しみながら継続して働くことができるでしょう。
コツ④雇用枠を検討する
自分に合った仕事を見つけたい人は、雇用枠をじっくり検討しましょう。
雇用枠には、大きくわけて、障害者雇用と一般雇用の2種類があります。
障害者雇用とは、障害のある人を対象とした雇用枠のことです。障害の特徴や内容に合わせて安心して働けるようにするため、いわゆる一般雇用とは就労条件が異なります。
一般雇用とは、障害者雇用以外の雇用枠のことです。障害の有無にかかわらず誰でも応募することが可能です。
また、就職活動・就労方法も、オープン就労とクローズ就労の2種類があります。
オープン就労とは、病気や障害などを開示して就職活動・就労をすることです。
クローズ就労とは、病気や障害などを開示せずに就職活動・就労をすることです。
障害者枠を選択肢に入れた就職活動では、以下のように柔軟な求人探し・エントリーが可能です。
- 障害者雇用の求人に限ってエントリーする
- 基本的には障害者雇用の求人にエントリーしながら、一般雇用の求人にもエントリーする
- 基本的には一般雇用の求人にエントリーしながら、障害者雇用の求人にもエントリーする
どちらの雇用枠、就職活動・就労方法を選択するかをよく考えることで、無理なく長く働き続けることができます。
ASDの特性には程度があるため、人によっては一般雇用での就職が難しい場合があります。ご自身の特性、経済状況、生活と仕事の優先順位などを総合的に考えて判断しましょう。個別の求人ごとに条件などを見て、支援機関などと相談しながら検討するとよいでしょう。
障害者雇用、オープン就労、クローズ就労については、以下のコラムで解説しています。ぜひご覧ください。
コツ⑤特性への対策を身につける
ASDの特性をカバーする対策を身につけることも大切です。面接で特性対策を聞かれることもありますし、実際に働く場面や私生活でも役に立つでしょう。
特に面接の場では、具体的な困りごとと、その対策法を伝えた方が好印象です。
ASDのある人ができる工夫の例には、以下の方法があります。
- 曖昧な指示で混乱しないように、具体的な指示を得るための質問をする習慣をつける
- 体調やストレスへの自覚の薄さを補うために、アラームで、通常の休憩時間に追加して休憩時間を設ける
- 説明を受ける際には、口頭ではなく文字や絵図の利用を求める
以上の対策を身につけることは、実際の仕事で役立つだけでなく、就職活動でも特性を補うために努力をしているというアピールポイントにできるためオススメです。
コツ⑥カスタマイズ就業を検討する
就職活動を進める場合、カスタマイズ就労を検討してみてください。(参考:障害者職業総合センター「カスタマイズ就業マニュアル」)
カスタマイズ就業とは、あなたの特性や得意なこと、できることを職場に伝えた上で、それにあわせてカスタマイズされた業務を遂行する就労形態のことです。
カスタマイズ就業は、支援機関などによる職場訪問から始まります。支援機関が職場の担当者から業務内容を聞いて、その人の特性を活かした仕事の提案をすることで話が進みます。
そのため、就労支援機関の協力が必要不可欠になってきます。
カスタマイズ就業では、支援期間から仕事の提案がなされた後に、実際にASDがある求職者が試験的に簡単な仕事をしてみたりと、丁寧な調整期間を経てから就労にはいるため、職場定着が進みやすいと言われています。
コツ⑦アルバイトから始めてみる
正規雇用で就職できる職場がなかなか決まらない場合、アルバイトなどの非正規雇用から始めてみるのも一つのコツです。
絶対に、すぐに正規雇用で働くと気負わずに、まずはアルバイトからスタートすることで、働くこと自体に徐々に慣れていくことができるでしょう。
アルバイトで興味のある業界・職種・働き方を試すうちに、あなたの向き・不向きもわかっていきます。あなたに合った業種・働き方がわかれば、その分野での正規雇用を求めて、ステップアップすることも可能です。職場によっては、長く働くうちに、正規雇用への打診があるかもしれません。
アルバイトであれば、失敗しても、不向きがわかったとポジティブに捉えやすいかと思います。就職先が見つからないというASDのある人は、ぜひ検討してみてください。
そして、アルバイトと並行的に支援機関を利用することで、あなたに向いた職場は見つかりやすくなるでしょう。
ASDのある人が就職先を探す際のポイント7点
この章では、ASDのある人が就職先を探す際のポイントについて解説します。(参考:星野仁彦『発達障害に気づかない大人たち〈職場編〉』、木津谷岳『これからの発達障害者「雇用」』)
ただし、こちらも一般論です。実際のあなたが検討するべき軸は、支援団体などと話すことで、具体的にわかっていくはずです。
ポイント①ルールやマニュアルに沿って働けそうか
規範意識の強いASDのある人は、ルールやマニュアルに沿った仕事がマッチしやすいです。
原則を適用することで処理できる業務は適性が高いと思います。厳密さや細やかさが高評価される場合もあります。規則やマニュアルが整備されているかは確認したいポイントです。
ポイント②専門性やこだわりを活かせそうか
自分の関心があることや、こだわりを活かせる職業に就くのもオススメです。
ASDのある人は、興味の強い事柄に対しては徹底的に知識を収集したり、細かな情報まで記憶したりすることが得意と言われています。他の人が見過ごしがちなことも丁寧に拾って対処できるため、専門職やプロフェッショナルとして評価されやすいです。
ポイント③視覚的・聴覚的な処理能力を活かせそうか
ASDのある人は、図面やデザインなどの視覚情報が記憶に残りやすく、理解や把握もしやすいことがあります。また、文字や文書での説明の方が頭に入りやすいこともあります。
ASDのある人が仕事を探すときには、リアルタイムでの声でのやりとりが多い仕事よりも視覚的な処理がメインの仕事を意識して探すのもよいでしょう。
一方で、口頭での説明などの聴覚的な情報の処理を得意とする人もいます。その場合、前段とは逆に、音声情報でのやりとりが多い仕事などを意識して探すといいかもしれません。(参考:一橋大学「自閉症スペクトラム障害」
ポイント④臨機応変さを求められないか
苦手な仕事をできるだけ避けるという視点も必要です。
ASDのある人は、想定外の事態やマニュアルを逸脱した事柄への対応が不得手です。柔軟性を求められない仕事を探すことがポイントになります。
ある程度は臨機応変に対応しなくてはならない仕事であっても、サポート者がいるかどうか、交代要員がいるかなどは確認しておきたいところです。
ポイント⑤対人折衝が少ないか
ASDのある人の主な困難は、社会性やコミュニケーションに関係するため、対人折衝が少ない仕事の方が向いてます。
取引先との交渉や部署間の調整が多い仕事の場合、ストレスを感じやすい傾向があります。人とのコミュニケーションがあまり多くなく、マイペースに進められる仕事の方が向いてるでしょう。
ポイント⑥長く働き続けられそうか
ASDのある人に限りませんが、仕事を探す際には、長く働き続けられるかどうか、つまり、不本意な短期離職につながらないかどうかというポイントも大切です。
長く働き続ける上では、障害への配慮が行き届いた職場を見つけることが重要です。
2018年4月の障害者雇用促進法の改正により、ASDを含む精神障害のある人が雇用義務の対象となりました。また、2021年3月の改正で、法定雇用率も民間企業の場合で2.2%から2.3%、国・地方公共団体で2.5%から2.6%に引き上げられました。(参考:障害者職業総合支援センター「障害者の就業状況等に関する調査研究」)
そして今後、民間企業の法定雇用率は、2024年4月からは2.5%、2026年7月からは2.7%へと段階的に引き上げられることが決まっています。(参考:厚生労働省「令和5年度からの障害者雇用率の設定等について)
しかし、雇用枠は増えているものの、ASDのある人の就労には職場定着という課題が残ると言われています。
障害者職業総合センターによると、就職から1年以内に離職する発達障害のある人の割合は、約30%にのぼります。(参考:障害者職業総合センター「障害者の就業状況等に関する調査研究」)
就労定着支援を利用した発達障害のある人の1年後の職場定着率が約80.0%に対し、受けなかった人たちの職場定着率は約61.6%と、20%近い差が出ています。
この割合は、就労年数が長くなるにつれて、上昇するであろうと言われています。長く働き続けられる職場を見つけましょう。
ポイント⑦障害の特性に理解があるか
最後のコツは、障害の特性に理解があるかを見極めるということです。
障害に理解のある就職先かどうかを見分けるポイントは以下の2つです。
- 障害に対する研修制度が充実している
- 福利厚生制度が整備されている
障害の特性に理解がある職場ほど、障害やメンタルヘルスへの対応・配慮をテーマにした研修を定期的に行っている可能性が高いです。
以上の特徴のある職場を選べば、病気・障害のある人の苦労に寄り添った働き方を実現できる可能性が高いはずです。働きやすい就職先を探すためにもチェックしてみてください。
補足:法定雇用率と合理的配慮について
障害者雇用促進法では、事業主が雇い入れる労働者の全体人数に対して、一定の割合で障害のある人を雇用することが義務づけられています。ASDのある人もその対象です。
この事業主に義務づけられている労働者の全体人数に対する障害のある人の雇用率のことを、法定雇用率と言います。(参考:厚生労働省「障害者雇用促進法制の整備について」、厚生労働省「事業主の方へ」)
また、2021年の障害者差別解消法改正に伴い、事業者が、過重な負担にならない範囲で、できうる限りの合理的配慮の実施を努力をすることが義務となりました。
合理的配慮とは、障害のある人が障害のない人と同じように生活し、活動できる均等な機会を確保するために必要な配慮のことです。障害のある人が業務上で支障があったときに改善するための措置を取ることも合理的配慮に含まれます。(参考:e-Gov法令検索「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成二十五年法律第六十五号)」、政府広報オンライン「事業者による障害のある人への「合理的配慮の提供」が義務化」、内閣府「合理的配慮の提供が義務化されます!」)
障害者雇用で就労するのと同様に、一般雇用で就労する場合でも、合理的配慮を受けることは可能です。
ただし、どこまでの配慮が、合理的配慮とされるかは曖昧な部分もあります。また、一部の民間企業などの場合は、障害のある人からの応募・勤務が現実的には十分に想定されていないこともあります。
そうした部分も、支援機関に相談することで、適切な配慮を一緒に考えられるでしょう。
ASDのある人が就職活動で抱えやすい困難4選
ASDのある人は、その特性が原因となって、就職活動の場面で困難を抱えることがあります。
この章では、ASDのある人が就職活動で抱えやすい困難について解説します。(参考:宮尾益知『ASD(アスペルガー症候群)、ADHD、LD 大人の発達障害 日常生活編』、宮尾益知『ASD(アスペルガー症候群)、ADHD、LD 職場の発達障害』、備瀬哲弘『大人の自閉スペクトラム症』、太田晴久『職場の発達障害 自閉スペクトラム症編』、岡田俊『発達障害のある子と家族によりそう 安心サポートBOOK 小学生編』、梅永雄二『大人のアスペルガーがわかる』)
困難①履歴書でアピールできる強みを書けない
就職活動の際には、エントリーシートや履歴書の中で、アピールポイントを書くよう求められることが少なくありません。
こうした要求には、エントリー先の職場で活かせそうな点をアピールするようにという意味が込められています。
しかし、ASDのある人は、そうした言外の意味や要求の真意を読み取り、適切に答えるというのが苦手です。
それゆえ、履歴書の中でアピールできる強みを書けないと悩むことが多いようです。
こうした悩みの対策としては、自分の強みを書きだしたものを支援者に確認してもらい、あらかじめ定型的な問答集を作成するという工夫が効果的です。
逆に、企業側としても、アスペルガー症候群(現:ASD)のある人の障害者雇用での採用面接の際に、アピールポイントを尋ねたがために求職者を困らせたり、就職とは無関係な話を引き出したという事例は多く見られます。
対策としては、ESでありそうなお題や実際のお題について、支援者と一緒に問答集をつくるようにしてみてください。
自分の強みや弱みを第三者に確認してもらい、問題ない内容の回答候補をつくっておくことで、回答候補の中からその会社や業種の内容に合うものをひとつを選んで書くようにすると、ESを書くときに困らずに済むはずです。
困難②面接でコミュニケーションをうまくできない
2つ目は、面接でコミュニケーションをうまくできないという困難です。
ASDのある人が最も直面しやすい困難は、コミュニケーションや対人関係に関するものと言われています。
そのため、面接などの場面でも、コミュニケーション上の困難を感じやすいです。
よくある事例に、面接の冒頭で「会場までどうやって来ましたか?」という質問に対して、一日のうちどこから話しはじめていいかがわからなくなるというケースがあります。
面接担当者がこのような質問をする狙いとして、簡単な質問からはじめて緊張を解きほぐすアイスブレイクの意味合いが強く、詳細な回答を求めていない場合が多いものです。
したがって、回答例としては、「○○駅で■■線に乗り、そのまま◆◆駅で降りて、そこから徒歩で参りました」のような、簡単な答えで大丈夫です。
しかし、ASDのある人は、「朝の何時に起きて支度をして、○時に家を出て、徒歩○分のバス停に行き、○番のバスに乗って…」と、延々と話すことがあります。
このような困難の対策として、最初の回答は5〜10秒程度で行う、早口は避けるなどのルールや条件を明確に定めるという方法があります。
多くの場合10秒程度までであれば、相手の発言を抜け落ちなく記憶できるとされています。逆にその時間を大きく超える量を一方的に一度に話すと、充分に理解されないだけでなく、「相手の反応や理解も考えずに話す、コミュニケーション能力に欠けている人間だ」と判断されることもあるかもしれません。
端的すぎる場合でも、要点を得ていれば、面接相手から最低限のコミュニケーションが取れると判断されうるため、話が長くなるよりもルールを守ることを優先した方がよいでしょう。
また、履歴書などと同様、よくある質問について第三者・協力者と受け答えの練習を行うこともオススメします。
困難③自分にあいそうな職業が見つからない
就職活動中に、自分に合いそうな職業が見つからないというASDのある人もいます。
仕事をする上では、職場での人間関係を良好に保つ意味でも、ある程度のコミュニケーション能力が求められます。
そうした対人スキルが必要とされない職業も存在しますが、種類が限られるため、求人数も少なくなりがちです。
それゆえ、コミュニケーションに困難を抱えるASDのある人は、就職活動中に、「自分に合いそうな仕事が見つからない」「そもそも向いている仕事なんて無いのではないか」という悩みを抱えやすいのです。
困難④どこに相談をしていいかわからない
4つ目の困難は、どこに相談していいかわからない点です。
ASDのある人は、定期的に病院やクリニックに通院していることもあるでしょう。
しかし、特性に伴う悩みならともかく就職活動の悩みは医師に話す事柄ではないと考えていることが少なくないようです。
コミュニケーションが苦手なことから、困り事を抱えていても、どこにどう相談していいかわからないと、やむなく単独で就職活動に取り組んでしまうケースもあります。
このような場合は、まずはASDの特性に理解のある支援機関に相談するのがよいでしょう。
ASDのある人が就職活動でアピールできる強み
ASDのある人が就職活動でアピールできる強みとして、以下が考えられます。
- 特定領域の記憶力に長けている
- 関心分野に高い集中力を発揮できる
- 規則・ルールに従順で規範意識が強い
- 論理的な思考が得意
ASDのある人の仕事上の強みについては、以下のコラムで解説しています。ぜひご覧ください。
ASDのある人に向いている仕事・向いてない仕事
ASDのある人には、以下のような仕事が向いていると考えられます。
- 経理事務
- 会計士
- 法務
- 専門事務
- 設備点検
- トラック運転手
- プログラマー
- ソフトウェアなどのテスター
- デバッガー
- ゲームクリエーター
- 校正・校閲
- テクニカルライター・専門的な技術に関する文章を書くライター
- 研究者
- 数学者
- 設計技術者
- 工学系デザイナー
- CADオペレーター
- フリーランスのデザイナー・ライター
- アニメーター
- カメラマン
- 駅員
- 動物の調教師
- ライン作業
- 軽作業
- 清掃員
- ルーティンワーク・定型的な業務が可能な仕事
ASDのある人には、以下のような仕事が向いていないと考えられます。
- ウェイターなどの接客業
- 自動車ディーラーなどの販売代理店
- 営業職
- コールセンター、案内係などの窓口対応業務
- 総務職
- 秘書
ASDのある人に向いてる仕事や向いてない仕事については、以下のコラムで解説しています。ぜひご覧ください。
改めて、ASDとは?
この章では、ASDについて改めて解説します。既にご存知かもしれませんが、これまでに紹介した内容の理解も深まると思いますので、ご覧ください。(参考:『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』、宮尾益知『ASD(アスペルガー症候群)、ADHD、LD 職場の発達障害』、姫野桂『発達障害グレーゾーン』、厚生労働省「ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について」)
①ASDの概要
ASDとは、「自閉スペクトラム症、自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder)」を意味する発達障害の1種です。
ASDには多くの特性がありますが、その中でも下記の2点がよく見られるものとして挙げられます。
- 社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的な欠陥
- 行動、興味、または活動の限定された反復的な様式
他に、感覚過敏(光や音や刺激への敏感さが目立つ)、発達性協調運動障害(不器用さが目立つ)などの特性がある人もいます。
なお、「スペクトラム」というのは、特性に様々なグラデーションがある、という意味です。一口に「ASD」と言っても、その特性の現れ方はひとりひとり異なります。
②ASDという名称・分類について
ASDという名称・分類が使用されはじめたのは、2013年に、アメリカ精神医学会が前掲の『DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引』を定めてからです。
それよりも昔には、「自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」などという名称・分類であり、診断基準も現在とは異なっていました。
かつての分類では、「言語発達に遅れのある場合を自閉症」、「知能が定型の人と同等で言語発達の遅れがないケースをアスペルガー症候群」と区分して判断する傾向がありました。
一方、ASDという分類では、厳密な区分ではなく、「地続きの障害(=スペクトラム)」としてとらえようとしています。
なお、現在も「正式な医学用語」以外の場面(日常会話や法令名など)では、アスペルガー症候群などの旧名称・分類が残っていることもあります。
③ASDによる具体的な困難について
ASDの特性は、具体的には次のような形・傾向で現れることがあります(例であり、「ASDの人には必ずこのような傾向がある」「このような傾向があれば必ずASDである」というものではありません)。
- 人と目線が合いにくい
- 場の状況や上下関係に無頓着である
- 名前を呼ばれても反応しない
- 一方的に言葉をまくしたてる
- 会話による意思疎通がうまくできず、コミュニケーションの齟齬が生じやすい
- 他人の発言をそのまま繰り返す
- 相手の身振りの意味、意見・気持ちなどを察しづらい
- 自分の考えと別の可能性を想定しづらい(相手の立場に立って考えることが苦手)
- 質問の意図や発言の狙いを理解しづらい
- 比喩や冗談を理解しづらい
- 表情から気持ちを察しづらい
- 自分だけのルールにこだわる
- 決まった順序や道順にこだわる
- 予定が急変するとパニックになる(パターン化した行動をする方が落ちついた生活を送ることができる)
④ASDの診断は医師だけが可能
「自分が(ある人が)ASDかどうか」の診断は、医師による問診や心理士が実施する心理検査を中心に行われます。
逆に言うと、医師以外には「ASDかどうか」の診断・判断はできません。
あなたが(ある人が)「ASDかどうか」をハッキリさせたいのであれば病院を受診してみることをオススメします。
「診断を受けるのが不安」と思う人は、発達障害者のサポートを行う団体(各都道府県にある発達障害者支援センターなど)に「病院に行くべきかどうか」「診断をつけるメリットや注意点は何か」などを相談することができます。
⑤ASDの医学的な診断基準
下記は、2013年にアメリカ精神医学会がまとめた『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』(精神障害の診察基準などを記した書籍)に挙げられているASDの診断基準を抜粋・一部編集したものです。
次のような診断基準に当てはまればASDの可能性があります(あくまで可能性です。「どの程度なら『当てはまる』と言えるか、他の病気や障害の可能性はないかなども含めて、「ある人がASDかどうか」は、医師だけが判断できます)。
- 相互の対人的-情緒的関係の欠落で、例えば、対人的に異常な近づき方や通常の会話のやり取りのできないことといったものから、興味、情動、または感情を共有することの少なさ、社会的相互反応を開始したり応じたりすることができないことに及ぶ
- 対人的相互反応で非言語的コミュニケーション行動を用いることの欠陥、例えば、まとまりのわるい言語的、非言語的コミュニケーションから、アイコンタクトと身振りの異常、または身振りの理解やその使用の欠陥、顔の表情や非言語的コミュニケーションの完全な欠陥に及ぶ
- 人間関係を発展させ、維持し、それを理解することの欠陥で、例えば、さまざまな社会的状況に合った行動に調整することの困難さから、想像上の遊びを他者と一緒にしたり友人を作ることの困難さ、または仲間に対する興味の欠如に及ぶ
- 情動的または反復的な身体の運動、ものの使用、または会(例:おもちゃを一列に並べたり物を叩いたりするなどの単調な常同行動、反響言語、独特な言い回し)
- 同一性への固執、習慣への頑ななこだわり、または言語的、非言語的な儀式的行動様式(例:小さな変化に対する極度の苦痛、移行することの困難さ、柔軟性に欠ける思考様式、儀式のようなあいさつの習慣、毎日同じ道順をたどったり、同じ食物を食べたりすることへの要求)
- 強度または対象において異常なほど、きわめて限定され執着する興味(例:一般的ではない対象への強い愛着または没頭、過度に限局したまたは固執した興味)
- 感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ、または環境の感覚的側面に対する並外れた興味(例:痛みや体温に無関心のように見える、特定の音または触感に逆の反応をする、対象を過度に嗅いだり触れたりする、光または動きを見ることに熱中する)
⑥いわゆる「大人のASD」とは
「大人のASD」という言葉を聞くことがあるかもしれません。「大人のASD」とは、医学的な定義がある言葉ではありません。次のような状態を指す俗語です。
- 学童期には目立った特性や困難が見られなかった、またはその診断等を受けることはなかったものの、成人してから仕事の場などでその特性が顕在化し、ASDの診断を受けることになった例
- 子どもの頃からASDの診断を受けていた人が大人になった状態
1に関連して、発達障害は生まれつきのものであり、「大人になって(大人になるにつれて)発達障害になった」ということではありません。その上で、大人になって受けた検査でASDであることが初めて判明したというケースは少なくないようです。
⑦ASDの「グレーゾーン」とは?
ASDの傾向が確認されるものの、確定診断が下りるほどではないほどの状態・人のことを俗に「(ASDの)グレーゾーン」と言います。
グレーゾーンの場合、確定診断がないことから利用できる公的なサービスが限定されることがあります(例:障害者手帳を取得できないため障害者手帳が必須なサービスを利用できない)。
ただし、グレーゾーンの人でも「発達障害者支援センター」のようなサポート団体への相談は可能です。
確定診断があってもなくても、またASDに関係してもしなくても「発達障害に関する悩み事」は専門的な知識を持つ人たちに相談した人が対策や解決策を見つけやすくなるでしょう。
⑧ASD以外の発達障害
発達障害はその特徴によって、いくつかのグループに分けられています。
ASD以外の主な発達障害には、ADHD(注意欠如・多動性障害)、SLD(限局性学習障害)などがあります。
ASDとADHDの主な違いは、対人関係でのコミュニケーション能力の差にあらわれます。
他人の身振りの意味などを察することや、状況の推測・暗黙の了解を理解しにくいことが多いです。運動が苦手なことも多いです。
ASDの人と比べると、コミュニケーションに大きな齟齬が生じたり、会話のやり取りや身振りの意味の理解に不自由さが生じたりするということは少ないです。
一方で、書類の記入間違いや物忘れといったミスが多いです。
ASD・ADHD・SLDの複数が併存する人もいます。気になる人は、下記の参考記事をご覧ください。
まとめ:就職活動を有利に進めるためには、「周囲の助けを借りる」ようにしましょう
就職活動を開始するにあたって、覚えておいていただきたいのは、悩みを一人で抱え込まないということです。
できるだけ、ご家族やご友人、かかりつけ医に悩みを相談するようにしましょう。
また、ASDの特性に理解のある、専門機関の支援員も頼ってみてください。
あなたの特性や状況に即したアドバイスがもらえるはずです。
周囲の助けを上手に借りることが、就職活動を有利に進める一番のコツだということを、忘れないようにしましょう。
ASDのある自分が就職活動でアピールしやすい強みを知りたいです。
一般論として、次の5点が挙げられます(個人差はもちろんあります)。(1)文字情報の処理に優れる、(2)特定領域の記憶力に長けている、(3)関心分野に高い集中力を発揮できる、(4)規則に従順で規範意識が強い(5)論理的な思考が得意。詳細はこちらをご覧ください。
ASDのある自分に向いている仕事を知りたいです。
一般論として、次のような職種が向いている可能性があります(個人差や職場による差はもちろんあります)。(1)プログラミングなどのIT系、(2)経理、(3)事務、(4)法務。詳細はこちらをご覧ください。
監修志村哲祥
しむら・あきよし。
医師・医学博士・精神保健指定医・認定産業医。東京医科大学精神医学分野睡眠健康研究ユニットリーダー 兼任准教授、株式会社こどもみらいR&D統括。
臨床医として精神科疾患や睡眠障害の治療を行い、また、多くの企業の産業医を務める。大学では睡眠・精神・公衆衛生の研究を行っており、概日リズムと生産性、生活習慣と睡眠、職域や学校での睡眠指導による生産性の改善等の研究の第一人者。
【著書など(一部)】
『子どもの睡眠ガイドブック(朝倉書店)』『プライマリ・ケア医のための睡眠障害-スクリーニングと治療・連携(南山堂)』
他、学術論文多数
日経新聞の執筆・インタビュー記事一覧
時事メディカルインタビュー「在宅で心身ストレス軽減~働き方を見直す契機に」
監修キズキ代表 安田祐輔
発達障害(ASD/ADHD)当事者。特性に関連して、大学新卒時の職場環境に馴染めず、うつ病になり退職、引きこもり生活へ。
その後、不登校などの方のための学習塾「キズキ共育塾」を設立。また、「かつての自分と同じように苦しんでいる人たちの助けになりたい」という思いから、発達障害やうつ病などの方々のための「キズキビジネスカレッジ」を開校。一人ひとりの「適職発見」や「ビジネスキャリア構築」のサポートを行う。
【著書ピックアップ】
『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(2021年12月、翔泳社)』
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翔泳社公式
【略歴】
2011年 キズキ共育塾開塾(2023年7月現在10校)
2015年 株式会社キズキ設立
2019年 キズキビジネスカレッジ開校(2022年7月現在4校)
【その他著書など(一部)】
『学校に居場所がないと感じる人のための 未来が変わる勉強法(KADOKAWA)』『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(翔泳社)』『暗闇でも走る(講談社)』
日経新聞インタビュー『働けたのは4カ月 発達障害の僕がやり直せた理由』
現代ビジネス執筆記事一覧
【メディア出演(一部)】
2022年 NHK総合「日曜討論」(テーマ:「子ども・若者の声 社会や政治にどう届ける?」/野田聖子こども政策担当大臣などとともに)
監修角南百合子
すなみ・ゆりこ。
臨床心理士/公認心理師/株式会社こどもみらい。
執筆寺田淳平
てらだ・じゅんぺい。
高校2年の春から半年ほど不登校を経験。保健室登校をしながら卒業し、慶應義塾大学に入学。同大学卒業後の就職先(3,500人規模)で人事業務に従事する中、うつ病を発症し約10か月休職。寛解・職場復帰後、勤務を2年継続したのち現職のフリーライターに。
2019年に一般財団法人職業技能振興会の認定資格「企業中間管理職ケアストレスカウンセラー」を取得。
サイト運営キズキビジネスカレッジ(KBC)
うつ・発達障害などの方のための、就労移行支援事業所。就労継続をゴールに、あなたに本当に合っているスキルと仕事を一緒に探し、ビジネスキャリアを築く就労移行支援サービスを提供します。トップページはこちら→