発達障害の大人が実践したい仕事術5選 仕事選びのポイントや仕事をやめたいときに確認することを解説 | キズキビジネスカレッジ  

発達障害の大人が実践したい仕事術5選 仕事選びのポイントや仕事をやめたいときに確認することを解説

こんにちは、就労移行支援事業所・キズキビジネスカレッジ(KBC)の寺田淳平です。

近年、話題を集めている大人の発達障害。

その種類は様々です。では、仕事を進める上での対策には、どのようなものがあるのでしょうか?

本コラムでは、発達障害の大人が実践したい仕事術や仕事選びのポイント、大人の発達障害で仕事をやめたいと思ったら確認することを細かく解説します。

3,500人規模の勤務先で人事を担当していた私の視点から、発達障害の当事者だけでなく、発達障害で悩む同僚をお持ちの方にも役立つ知識をご紹介いたします。

大人の発達障害で仕事に悩んでいるという方は、ぜひ一度読んでみてください。

私たちキズキビジネスカレッジ(KBC)は、発達障害のある大人のための就労移行支援事業所です。

  • 病気や障害があっても、KBCでは初任給は38万円も
  • 通常52%の就職率が、KBCでは約83%
  • 通常約1年半かかる就職内定が、KBCでは平均4ヶ月

神田・新宿・横浜・大阪に校舎があり、障害者手帳がなくても自治体の審査を経て利用することができます。遠方の方は、日常的にはオンラインで受講しながら(※お住まいの自治体が認めた場合)、「月に1回、対面での面談」を行います。詳しくは下記のボタンからお気軽にお問い合わせください。

発達障害の大人が実践したい仕事術5選

ここからは具体的に、発達障害で悩む大人が実践したい仕事術を紹介いたします。(参考:宮尾益知『ASD(アスペルガー症候群)、ADHD、LD 職場の発達障害』、太田晴久『職場の発達障害 自閉スペクトラム症編』、星野仁彦『発達障害に気づかない大人たち』、田中康雄『大人のAD/HD』)

実行しやすいものを5つ厳選しました。

発達障害の人は、自身の特性を理解した上で適切な仕事術を取り入れることで、仕事での困難を減らすことができます。

とはいえ、仕事の多くはひとりで行うものではないため、周囲の助けがどうしても必要になります。

ひとりで仕事上の困難を解決するのではなく、上司や同僚に協力を仰ぐことが大切です。

取り入れられそうなものを見つけたら、職場の人とできるだけ共有するようにしてください。

また、工夫をしてもどうしても不向きな職種は残念ながらあります。今の職種が向いていても落ち込まず、前向きに次の一歩を探していきましょう。

仕事術①徹底的にリスト化する

仕事術①徹底的にリスト化する

1つ目は「徹底的にリスト化する」です。

これは特に、ADHDの人に有効な仕事術です。

ミスや忘れ物をしやすいADHDの人は、自分のすべきことを失念することが多いです。

こうした抜け落ちは、タスクを徹底的にリスト化することで、ある程度は回避できます。

タスクを紙に書きだして、完了したら、線を引いて消す習慣をつけるようにしましょう。

また、自分の業務や進める仕事の順序をリストアップすることは、ASDの人にも有効です。

ASDの人は、自分で定めた手順や順序を守ろうという「こだわり」があります。

そのため、自分が落ちついて業務に取り組むための手順や順序などを紙に書き出し、同僚と共有することで、自分の特性を周囲の人により深く伝えた上で、仕事に集中できるようになります。

ぜひ、一日のスケジュールの中に、「徹底的にリスト化する」時間を作ってみてください。

仕事術②具体的な指示をお願いする

仕事術②具体的な指示をお願いする

仕事術の2点目は「具体的な指示をお願いする」です。

これは特に、ASDの人向けの仕事術になります。

仕事をするときには、「適宜」「よしなに」といった自由裁量を含む言葉を用いられることがあります。しかし、ASDの人はこういったあいまいな表現をされると混乱することがあります。

反対に、「この資料を何部印刷して、何時何分に何階のA会議室に持ってきてください」といった、具体的すぎるくらいの指示の方が安心できるのです。

日頃から、「あいまいな表現ではなく、具体的な指示が欲しい」とお願いすれば、ぐっと仕事がしやすくなるでしょう。

仕事術③アラーム機能で休憩時間を作る

仕事術③アラーム機能で休憩時間を作る

3つ目の仕事術は「アラーム機能で休憩時間を作る」です。

こちらも特に、ASDの人に効果的な仕事術です。

ASDの人は、自分の関心分野などには高い集中力を発揮できるため、何時間も続けて作業をする「過集中」という症状を引き起こしやすい傾向にあります。

また、ASDの特徴として、「自分の体調や疲労に気づきにくい」傾向があるため、すっかりダウンするまで作業することも少なくありません。

こういった事態を避けるには、集中していても気付けるように、あらかじめアラームを設定して、休憩時間を作るという仕事術が有効です。

なお、ASDの人ほどではありませんが、過集中の傾向はADHDの人にも見られます。

発達障害の専門家として著名な、福島学院大学大学院教授の星野仁彦先生は、「ADHDの人に見られる独創性が過集中と合わさることで、優れた成果をあげられる」ということを指摘しています。

ASDの人もADHDの人も、過集中に伴う極度の疲労を避けるために、「アラーム機能で休憩時間を作る」ように意識するとよいでしょう。

仕事術④整理整頓の時間を設定する

仕事術④整理整頓の時間を設定する

4つ目は「整理整頓の時間を設定する」です。

最初に挙げた「リスト化」が、これからすべきことや業務などの「思考の整理整頓」だとすると、この整理整頓は、机の上や書類などの「物の整理整頓」と捉えてください。

これは、ADHDの人に特に効果がある仕事術です。

ADHDの人のミスや忘れ物、紛失などは、机の上などにある物の整理ができていないことに、原因の一端があります。

仕事に夢中になって駆け回るうちに、自身の所有物を整理できなくなるのです。

これは、一日スケジュールの中に、あらかじめ「整理整頓だけをする時間」を作ることで緩和できます。

ADHDの人はぜひ一度、整理整頓の時間を設定してみてください。

仕事術⑤文字や図を用いた説明を求める

仕事術⑤文字や図を用いた説明を求める

最後の仕事術は「文字や図を用いた説明を求める」です。

これは主に、LDの人が意識してほしい仕事術です。

LDの人は、会議の場などで、苦手とする情報形式で次々に説明されると、議論についていけずに置いていかれることがあります。

これは、受け手側のLDの人にはどうしようもないことですので、日頃から自分がインプットしやすい文字や図を用いた説明をお願いする必要があります。

またLDの人と同様に、ASDの人の中には、文字や音声情報だと理解しづらい傾向を持つ人が多くいます。そうした人にとっても、「図を用いた説明を求める」といった対応は有効です。

なお、受け手側としてLDの人ができることに、先述した電卓のような「電子機器を取り入れる」というものがあります。

最近では、文書の自動読み上げ機能なども格段に進歩しています。こういった科学技術を仕事の場に活かすのも、ひとつの手段でしょう。

発達障害を持つ大人の仕事選びのポイント3点

この章では、発達障害を持つ大人の方が、仕事選びをする際に重視してほしいポイントを3つご紹介します。

これまでと同様に、仕事選びの際も、あなたの状況をよく知っている主治医や支援機関を頼りながら進めていくというのが、大前提です。

その点に留意して、仕事選びのポイントを確認していきましょう。

ポイント①長く働き続けられそうか

ポイント①長く働き続けられそうか

仕事選びの際の一番のポイントは、「長く働き続けられそうか」です。

2018年4月の障害者雇用促進法の改正以来、発達障害を含む精神障害者が雇用義務の対象になりました。

さらに、障害者雇用の法定雇用率も民間企業の場合で2.0%から2.2%と、雇用枠は年々増え続けているものの、発達障害を持つ人にはある課題が残っています。

それは「職場定着」です。

障害者職業総合センターの発表した「障害者の就業状況等に関する調査研究」によると、就職から1年以内に離職する発達障害者の割合は、「約30%」にのぼります。(参考:障害者職業総合支援センター『障害者の就業状況等に関する調査研究』)

この離職率は、月日が経つにつれて、さらに上昇していくと考えられます。

そのため、発達障害に限った話ではないのですが、「長く働き続けられそうか」という視点で、仕事選びをすることが重要なポイントになるのです。

職場定着をする際には、先述した就労移行支援事業所による「定着支援」を受けるのが有効と言われています。

先ほどの障害者職業総合支援センターの調査研究によると、定着支援を受けた人とそうでない人で、1年後の職場定着率に「20%」近い差が出ています。

そのため、長く働き続けられそうかを考える際には、併せて支援機関にも相談し、定着支援を受けられるかどうかを検討するとよいでしょう。

ポイント②自分の特性を活かせそうか

ポイント②自分の特性を活かせそうか

ポイントの2点目は「自分の特性を活かせそうか」です。

発達障害の人が仕事選びをする際には、まず自分の特性を洗い出すことが大切です。

「何ができて、何ができないのか」、あるいは「何が得意で、何が苦手なのか」の自己理解を深めた上で、その特性に合った仕事選びが必要になってきます。

例えばASDの人であれば、コミュニケーションが重視される接客業や人事部門など、どうしても「できないこと」を軸にして仕事選びをする傾向があります。しかし、長く働き続けるためには、「特性を活かす」という視点も重要でしょう。

発達障害の人が自分の特性にあった職に就くことができれば、障害を持っていない人以上に活躍することも充分可能です。

ぜひ「自分の特性を活かせそうか」という視点で仕事を探してみてください。

ポイント③障害に理解のある職場か

ポイント③障害に理解のある職場か

最後のポイントは、「障害に理解のある職場か」どうかです。

改正障害者雇用促進法の適用で障害者の法定雇用率が2.2%に引き上げられたことにより、障害を持つ従業員への配慮が重視されるようになりました。

それに伴い、コンプライアンスの一環として障害者への配慮をアピールする職場が増えつつあります

障害に理解のある職場かどうかを見分けるポイントは、以下の2つです。

  1. 研修制度が充実しているかどうか
  2. 福利厚生制度が整備されているかどうか

従業員への健康意識が高い職場ほど、障害やメンタルヘルスなどを意識した研修制度を取り入れています。

こうした職場であれば、オープン就労、クローズ就労を問わず、困難を抱えている人にどのような配慮をすべきかを理解していることが多いため、仕事がしやすくなるでしょう(オープン就労とクローズ就労の詳細はこちら)。

また、福利厚生も従業員への配慮の一環です。

もし休職制度などが整っていなければ、障害者への理解や心身の健康に関心が薄いと考えてよいかもしれません。

長く働き続けるためには、障害に理解のある職場かどうかを見極めることが大切です。

大人の発達障害で仕事をやめたいと思ったら確認すること3点

上述の仕事術を取り入れてみても、大人の発達障害による困難を軽減できず、「仕事をやめたい」と思う人がいるかもしれません。

また、工夫では補えないほど「向いていない職種」もあるでしょう。

この項目では、そうした人向けに、「仕事をやめたいと思ったら確認すること」をご紹介します。(参考:木津谷岳『これからの発達障害者「雇用」』)

仕事術の項目の冒頭でも述べたように、大切なのは「周囲を適切に頼ること」です。

仕事をやめることになった場合も、あるいはやめた後も、周りの人とのコミュニケーションはどうしても必要になります。

仕事をやめたいと思っている人は、一人で抱え込まずに、支援者にも相談しながら、以下の点を確認していきましょう。

確認①医師や支援機関に相談済みであるか

確認①医師や支援機関に相談済みであるか

まずは、仕事をやめることについて、「医師や支援機関に相談済みであるか」を確認してください。

状況を説明することで、退職しなくても、無理なく仕事を続けるためのアドバイスをもらえる場合があります。

発達障害の人の就労を助ける専門機関であれば、あなたと職場の間に入って、働きやすい方法を模索する手伝いも可能です。

一例を挙げると、国の法律に基づいて設置されている「就労移行支援事業所」では、日常生活のアドバイスから定期面談による精神面のケア、仕事に役立つ専門的なスキルの講習などの福祉サービスを、最低0円から提供しています(私たち、キズキビジネスカレッジ(KBC)もその一つです)。

就労移行支援事業所の詳しい情報については、下記コラムにまとめてあります。興味のある方はあわせてご参照ください。

また、発達障害を抱えている人は、うつ病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)といった「二次障害」を併発している場合があります。

発達障害の人は、コミュニケーションや事務処理に困難があるため、集団生活に馴染みづらく、いじめ被害を受けたり、疎外感を感じたりしやすいことから、精神疾患を抱える人が少なくありません。

仕事をやめるときには、社会保険の切り替えなど、退職に伴う手続きが多々ありますので、こうした二次障害を抱えた状態では、つらく感じられるかと思います。

そのため、主治医の先生から診断書をもらい、休職を取って、二次障害を治してから今後のことを決める方が得策な場合もあります。

仕事をやめたいと思ったら、まずは他に有効な方法がないか、医師や支援機関に相談してみてください。

確認②配置転換で解決するか

確認②配置転換で解決するか

2点目の確認事項は「配置転換で解決するか」です。

これは主に、上司や人事部門への確認になります。

発達障害を持つ人が無理なく働くためには、特性を良く理解した上で、その特性にあった業務をすることが特に大切です。

そのため、今の仕事や職場が合わないと感じていても、「異動や配置転換によって別の部署へいったら、特性と見事にマッチして働きやすくなった」というケースは多く見られます。

まずは、上司などの周囲の人に、あなたの抱えている困難を話したうえで、配置転換をしてもらえないかを相談してみましょう

もし、発達障害があることを言わずに就労している場合であれば、単に「こういう業務がどうしても苦手で、反対にこういう業務の方が得意だから異動できないか」と伝えれば大丈夫です。

異動によってその人のパフォーマンスがあがれば、勤め先全体の利益にもつながるため、きちんと理由を説明すれば考慮してもらえる可能性は高いです。

仕事をやめるのは、「配置転換を提案したうえで解決するか」を確認してからでも、遅くはありません。

ただし、先述した二次障害などがひどく、どうしても仕事を続けられないときには、すぐに辞めた方がいいケースもあります。

あくまでも、主治医のアドバイスを第一に考えるようにしましょう。

確認③雇用枠を変えたら楽になるか

確認③雇用枠を変えたら楽になるか

最後の確認事項は、「雇用枠を変えたら楽になるか」どうかです。

発達障害の人の就労を考える際には、障害を開示して働く「オープン就労」か、障害を隠したまま働く「クローズ就労」か、という点が大きな問題になります。

特にクローズ就労をしている人は、障害があるにも関わらず、非障害者と同じパフォーマンスを要求されるため、無理をする傾向があります。

そのため、仕事をやめて、「一般枠」での雇用から「障害者枠」での雇用に切り替えることで、楽になるケースがあるのです。

しかし、もし障害者枠で働くオープン就労をしている人で、仕事をやめたいと考えている場合には、転職の際に雇用枠を変えることによる改善を期待しづらいため、短絡的に仕事をやめるのはあまりオススメできません。

それよりは、先述した支援機関などに相談して、今の職場でも無理なく働き続ける方法がないかを模索する方がよいでしょう。

なお、オープン就労とクローズ就労のメリット・デメリットなどは、コラム下記にまとめています。よろしければ一緒に読んでみてください。

発達障害の同僚を持つ人へ:職場でできる配慮について

発達障害の同僚を持つ人へ:職場でできる配慮について

最後に、当事者の方ではなく、発達障害の同僚を持つ方向けに、職場でできる配慮について解説させていただきます。

まず前提として大切なのは、障害によって生じている症状を「本人の努力不足のせいにしない」という点です。

冒頭で解説したように、発達障害は脳の処理機能に偏りが生じる、脳の「構造上の特性」です。

そのため、本人の努力次第ではどうにもならない面があり、ある程度は「仕方ない」と受け入れざるを得ない場合があります。

その上で配慮として必要なのは、「何ができて、何ができないのかを理解した上でコミュニケーションを取る」ということです。

例えば、ADHDの人に最後の確認作業を任せたり、細かな計算を伴う資料作成などをお願いしたりしても、その症状によって、確認漏れや多少の計算ミスが出る可能性もあります。

その分、作業スピードが速い場合が多いため、ミスが生じることを見越して一次チェックをお願いし、丹念な二次チェックは別の人がするなど、仕事の割り振りや順序、配置を工夫することでパフォーマンスに大きな差が出ます。

発達障害を持つ人には、ある面が苦手な一方で、別の側面の能力が突出して高かったり、無理なく作業し続けられたりすることも少なくありません。

そのため、適切な配置をすることができれば、「普通に働く」ことも、「定型発達者以上の働きを見せる」ことも少なくありません。

単に苦手な面を知るだけでなく、どの業務をお願いすれば「マッチするのか」を考えるようにしましょう。

そうしたポジティブな配慮は、職場全体のパフォーマンスの向上にもつながるはずです。

改めて、大人の発達障害とは?:仕事上の困難を種類別に解説

発達障害とは、「生まれつき脳の機能の発達に偏りがあるため、生活や仕事の場での言動に障害が生じている状態」を指します。

こうした発達障害の生活との関わりは、以下の2つのケースに分かれます。

  • 幼い頃から症状が現れ、成長するにつれて、対処法が身についていくケース
  • 子どものうちは症状がさほど問題視されなかったものの、成長していくうちに生活に困難を感じるようになってから気付くケース

この中で、「大人の発達障害」は、どちらかと言うと「後者のケース」にあたります。

特に就職して仕事をするようになってから、コミュニケーションのずれやミスが続くことによって、障害を自覚することが多いと言われています。

こうした「大人の発達障害」が注目を集めるようになったのは、2013年頃です。

もともと、発達障害は、幼少期に特有のものと考えられていました。

しかし、2013年にアメリカ精神医学会の定める『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』において、初めて成人のADHDが規定されたことで、仕事の進め方や就職活動に悩む「大人の発達障害」が認知されるようになったのです。

そのため、「大人の発達障害」と「仕事上の困難」は、切っても切れない関係にあると言ってよいでしょう。

そこで、この章では、主要な大人の発達障害3種類を解説した上で、それぞれの仕事上の困難をご紹介いたします。(参考:こころの情報サイト『発達障害(神経発達症)』、アメリカ精神医学会『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』、岩波明『大人のADHD:もっとも身近な発達障害』)

ASD:同僚や上司とうまくコミュニケーションが取れない

ASD:同僚や上司とうまくコミュニケーションが取れない

ASD(自閉症スペクトラム障害、Autism Spectrum Disorder)とは、社会性・コミュニケーション・想像力の3つの特性に困難が生じる、発達障害の一種です。(参考:本田秀夫『自閉症スペクトラム』、厚生労働省『No.1 職域で問題となる大人の自閉症スペクトラム障害』、太田晴久『職場の発達障害 自閉スペクトラム症編』、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)『What is Autism Spectrum Disorder?』)

2013年まで、ASDは、自閉症とアスペルガー症候群に分かれていましたが、先述した『DSM-5』にて、自閉症スペクトラムとしてまとめられたことで、認知されるようになりました。

「スペクトラム」とは、自閉症とアスペルガー症候群の症状をはっきり区別するのではなく、地続きの「連続体」として捉えようという考えを反映した言葉です。

しかし、一般的には、言語発達に遅れのある場合を「自閉症」、知能が定型の人と同等で言語発達の遅れがない場合を「アスペルガー症候群」と判断しているのが現状です。

こうしたASDの人には、以下のような特徴が見られます。

  • 場の状況や上下関係に無頓着
  • 名前を呼ばれても反応しない
  • 相手の身振りの意味を察することができない
  • 質問の意図や発言の狙いがわからない
  • 自分だけのルールにこだわる

上記の特徴から、ASDの人は「同僚や上司とうまくコミュニケーションが取れない」という仕事上の困難を抱えやすいです。

例えば、よく挙がるケースとして、「目上の人に友達のように話しかける」というものがあります。

仕事の現場では、取引先・上司・先輩社員など、様々な上下関係が存在します。ASDの人はそれらの関係を意識することが苦手です。

そのため、社会通念上、失礼にあたるような態度や言葉遣いを指摘されても、ASDの人はそれらを意識できず、関係をどんどん悪化させる事例が多いのです。

上記のような仕事上の困難がある一方で、ASDの人は「特定分野への記憶力や情報処理がきわめて高く、静かな環境であれば集中力を発揮して活躍できる」という長所があります。

「同僚や上司とうまくコミュニケーションが取れない」という弱みが前面に出にくい、落ちついた環境で働けるかどうかが、活躍するためのカギになってくるでしょう。

ADHD:仕事のミスや先延ばしが多い

ADHD:仕事のミスや先延ばしが多い

ADHDは、正式名称を注意欠如・多動性障害(Attention-Deficit Hyperactivity Disorder)という、発達障害の一種です。(参考:榊原洋一『図解 よくわかる大人のADHD』)

ADHDの人には、以下の3つの特徴が見られます。

  • 不注意…ミスやスケジュールの先延ばしが多く、確認作業が苦手
  • 多動性…貧乏ゆすりなど、常に身体を動かしていないと落ちつかない
  • 衝動性…考えるよりも先に行動するため、待つことが得意ではない

上記の特性のうち、多動性の症状は、大人になるにつれて収まっていくことが知られています。

一方で、大人になっても仕事上の困難の中心となるのが、「仕事のミスや先延ばしが多い」という不注意性の症状です。

そのため、経理部のように、ミスやスケジュール管理が厳しい部署は向いておらず、不注意を一種の「怠慢」と受け取られやすいため、仕事に困難を感じる人が多いと言われています。

こうした細かな作業が苦手な一方で、人とコミュニケーションを取るような接客業や、フットワークを活かせる営業職などは、ADHDの人の得意とするところです。

「ミスやスケジュール管理に寛容な仕事に就けるかどうか」が、仕事上の困難を軽減するポイントになるでしょう。

LD:特定の情報理解が難しい

LD:特定の情報理解が難しい

LD(学習障害)とは、「読む・聞く・話す・書く・計算する・推論する」といった6つの能力の1つ以上に、習得や使用の困難がある発達障害です。

ただし、文部科学省の定義によると、「学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない」という条件が付きます。

LDの人は、学童期の段階で症状を自覚しているケースが多いです。

しかし、仕事をするようになってから診断を受けて、そこで初めて気付く人もいるため、大人の発達障害として問題視されることがあります。

LDの人が抱える仕事上の困難は、やはり「特定の情報理解が難しい」というものです。

「読む・聞く・話す・書く・計算する・推論する」のうち、どの情報が苦手なのかは、それぞれの人の特性によります。

さて例えば、「書く・計算する」については、PCのキーボードや電卓といったツールが日常的に用いられている職場では、あまり問題になることはないでしょう。

他の「読む・聞く・話す・推論する」についても、「苦手な情報経路をツールで補助する、または形式を変える」といった工夫をすれば、仕事上の困難を減らすことができます。

まとめ:大人の発達障害でも工夫次第で仕事は続けられます

まとめ:大人の発達障害でも工夫次第で仕事は続けられます

ここまで大人の発達障害に悩む人が実践できる仕事術から、仕事術のポイントまでを解説してきました。

仕事術というと、個人でできるものが多くなりますが、発達障害の人がまず実践したいのは、「自分の特性を理解した上で、周りに協力を求めること」です。

繰り返しになりますが、一人で抱え込まずに周囲の人に相談してみてください。

それは、あなたの障害の助けになるだけでなく、ストレスを軽減することにもつながります。

このコラムをお読みになった発達障害のある人の仕事の悩みが、少しでも解消されることを祈っています。

よくある質問(1)

発達障害の大人が実践できる仕事術・工夫を知りたいです。

例として、次の5点が挙げられます。「徹底的にリスト化する」「具体的な指示をお願いする」「アラーム機能で休憩時間を作る」「整理整頓の時間を設定する」「文字や図を用いた説明を求める」。詳細はこちらをご覧ください

よくある質問(2)

発達障害の大人が仕事を選ぶ際のポイントはありますか?

一般論として、次の3点が考えられます。「長く働き続けられそうか」「自分の特性を活かせそうか」「障害に理解のある職場か」。詳細はこちらをご覧ください。

監修キズキ代表 安田祐輔

発達障害(ASD/ADHD)当事者。特性に関連して、大学新卒時の職場環境に馴染めず、うつ病になり退職、引きこもり生活へ。
その後、不登校などの方のための学習塾「キズキ共育塾」を設立。また、「かつての自分と同じように苦しんでいる人たちの助けになりたい」という思いから、発達障害やうつ病などの方々のための「キズキビジネスカレッジ」を開校。一人ひとりの「適職発見」や「ビジネスキャリア構築」のサポートを行う。

【著書ピックアップ】
ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(2021年12月、翔泳社)』

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翔泳社公式 【略歴】
2011年 キズキ共育塾開塾(2024年10月現在11校)
2015年 株式会社キズキ設立
2019年 キズキビジネスカレッジ開校(2024年10月現在6校)

【その他著書など(一部)】
学校に居場所がないと感じる人のための 未来が変わる勉強法(KADOKAWA)』『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(翔泳社)』『暗闇でも走る(講談社)』

日経新聞インタビュー『働けたのは4カ月 発達障害の僕がやり直せた理由』
現代ビジネス執筆記事一覧

【メディア出演(一部)】
2022年 NHK総合「日曜討論」(テーマ:「子ども・若者の声 社会や政治にどう届ける?」/野田聖子こども政策担当大臣などとともに)

執筆寺田淳平

てらだ・じゅんぺい。
高校2年の春から半年ほど不登校を経験。保健室登校をしながら卒業し、慶應義塾大学に入学。同大学卒業後の就職先(3,500人規模)で人事業務に従事する中、うつ病を発症し約10か月休職。寛解・職場復帰後、勤務を2年継続したのち現職のフリーライターに。
2019年に一般財団法人職業技能振興会の認定資格「企業中間管理職ケアストレスカウンセラー」を取得。

サイト運営キズキビジネスカレッジ(KBC)

うつ・発達障害などの方のための、就労移行支援事業所。就労継続をゴールに、あなたに本当に合っているスキルと仕事を一緒に探し、ビジネスキャリアを築く就労移行支援サービスを提供します。2024年10月現在、首都圏・関西に6校舎を展開しています。トップページはこちら→

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