発達障害で働けない人が頼れる4つの支援 特性別に向いている職業もご紹介
こんにちは。就労移行支援事業所・キズキビジネスカレッジ(KBC)の寺田淳平です。
発達障害で「働けない」状態にあるあなたは、以下のような悩みを抱えていませんか?
- 発達障害で働けないときにできることは?
- どのような支援を受ければいいのか?
- 発達障害で働けない自分でもできる職業は?
上記は発達障害に悩む社会人の方が感じやすい疑問かと思います。
そこで今回は、発達障害で働けないという方が受けられる支援と、就労に向けてできることを解説します。
特性ごとに向いている職業も合わせて紹介しますので、発達障害でお困りの方はぜひ一度、読んでみてください。
私たちキズキビジネスカレッジ(KBC)は、働けないと悩む発達障害のある人のための就労移行支援事業所です。
- 病気や障害があっても、KBCでは初任給は38万円も
- 通常52%の就職率が、KBCでは約83%
- 通常約1年半かかる就職内定が、KBCでは平均4ヶ月
神田・新宿・横浜・大阪に校舎があり、障害者手帳がなくても自治体の審査を経て利用することができます。遠方の方は、日常的にはオンラインで受講しながら(※お住まいの自治体が認めた場合)、「月に1回、対面での面談」を行います。詳しくは下記のボタンからお気軽にお問い合わせください。
目次
発達障害で働けない人が頼れる4つの支援
この章では、発達障害で働けないと感じている方が頼れる支援を紹介します。
いずれの支援についても、基本的には、発達障害であることを証明する「診断書」の提出が必要です。
病院にもよりますが、通常、診断書を発行してもらうためには、複数回の通院・診察が必要になりますので、支援を受けたいという方は、早い段階で診断を受けることをオススメします。
①障害者手帳の取得
1つ目の支援として、「障害者手帳の取得」により得られるサポートがあります。
発達障害のある人が取得しうる障害者手帳は、「精神障害者保健福祉手帳」です。
精神障害者保健福祉手帳は、通常は、うつ病や統合失調症などの精神疾患によって、社会生活に困難を抱えている人に交付される手帳です。
一見すると発達障害と結びつかないように思われるかもしれませんが、先述したように、発達障害には二次障害を伴う場合があります。
それゆえ、精神疾患に伴って、精神障害者保健福祉手帳を取得する方もいるというのが現状です。
また、近年では、精神疾患のない発達障害のある人の手帳取得も見られます。
精神障害者保健福祉手帳があると、1級~3級の障害等級に応じて、以下のような支援を受けられるようになります。
- 自立支援医療制度による医療費の自己負担額軽減(通常の3分の1に軽減)
- 税金の控除(所得税、住民税のほか、場合に応じて贈与税なども)
- 公共サービス割引(公共交通機関の運賃や上下水道料金の割引)
基本的に、窓口はお住まいの自治体の障害福祉課になりますので、担当者に支援の詳細を問い合わせるのがよいでしょう。
また、「取得すべきかどうか迷う」という方は、後述する支援機関に相談してみるのも一つの手段です。(参考:厚生労働省「自立支援医療」、国税庁「No.1160 障害者控除」、国税庁「障害者と税」)
障害者手帳を取得するメリットの詳細は、下記コラムをご覧ください。
- 厚生労働省「障害者手帳」
②専門の支援機関の利用
2つ目は「専門の支援機関の利用」です。
発達障害でお悩みの方が頼れる専門の支援機関は、公・民を問わずたくさんあります。
具体的には、以下の支援センターが挙げられます。
- 発達障害者支援センター
- 精神保健福祉センター(うつ病などの精神疾患を伴う場合)
- 地域障害者職業センター
- 障害者就業・生活支援センター
「発達障害者支援センター」では、確定診断が下りていなくても、発達障害の傾向に伴う困難があれば相談を受け付けていますので、グレーゾーンの人にもオススメです。
また、「地域障害者職業センター」と「障害者就業・生活支援センター」では、就職に関するお悩みや職業相談を受け付けているので、働けないことでお困りの方に向いているかもしれません。
それぞれ、全国の一覧は下記からご覧ください。
- 発達障害者支援センター■国立障害者リハビリテーションセンター「発達障害者支援センター・一覧」
- 精神保健福祉センター■厚生労働省「全国の精神保健福祉センター」
- 地域障害者職業センター■独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「地域障害者職業センター」
- 障害者就業・生活支援センター■厚生労働省「障害者就業・生活支援センターについて」
サービス内容にもよりますが、いずれの支援機関も、基本的には無料で利用できます。
お近くの施設を探して、気になるところがあれば問い合わせてみてください。
どの支援機関に頼るのがよいかがわからないという場合には、居住地の自治体の障害福祉課に問い合わせてみましょう。
③就労移行支援の利用
就労移行支援事業所では、前の章でも解説したように、一般企業への就職を目指す発達障害や病気のある人に向けて、就労移行支援を実施しています。
就労移行支援の主な支援内容は、以下の5つです。
- 生活習慣改善のサポート
- メンタル面のケア
- 専門スキルの講習
- 実際の就職活動の支援
- 職場定着支援(事業所による)
事業所によっては、専門スキルの講習に注力をしているところもあり、業務で活かせる技能だけでなく、資格の取得までサポートを得られる場合も少なくありません。
実際の就職活動の支援では、履歴書の添削や模擬面接のみならず、就職先やインターン先の候補を提示してもらうことが可能です。
また、事業所によっては、就労移行支援と一体となって、就職後の職場定着の支援を行っているところもあります。
職場定着の具体的な支援内容としては、一般的な定期面談の他に、就職先での業務内容や業務量の調整などのサポートが受けられます。
実際、障害者職業総合支援センターの調査研究によれば、職場定着支援を受けた人とそうでない人で、1年後の職場定着率に20%近い差が出ています。(出典元:障害者職業総合支援センター「障害者の就業状況等に関する調査研究」)
相談は無料ですので、お近くの事業所をいくつか見つけてみて、支援内容に興味を抱いた事業所に一度、詳細を問い合わせてみることをオススメします。
④就労継続支援A型/B型での就労
一般企業の一般枠では働けないという発達障害者の人には、「就労継続支援A型/B型での就労」という選択肢もあります。
就労継続支援とは、現時点で一般企業への就職が難しい障害者の人に、事務業務や軽作業等の実業務の機会の提供や必要な能力の向上を行う職業訓練サービスを意味します。
「就労移行支援」と名前が似ていますが、異なるサービスです。
就労移行支援との主な違いの概要は、以下になります。
就労移行支援 | 就労継続支援 | |
---|---|---|
対象 | 病気や障害を抱える方 | 就職が困難または不安を持つ、障害者などの方 |
目的 | 就職・独立のための支援 | 配慮のある職場での就労と能力向上 |
利用期間 | 最長24か月 | なし |
工賃(賃金) | なし | あり |
就労継続支援には「A型」と「B型」がありますが、利用できる「障害」に差はありません。
その上で、就労継続支援のA型とB型の違いは、主には「年齢制限」と「雇用契約」の有無であり、その結果、利用人数や賃金にも違いがあります。(以下出典:厚生労働省:「平成29年度 障害者の就労支援対策の状況」)
A型 | B型 | |
---|---|---|
年齢制限 | 65歳未満(ただし例外あり) | なし |
雇用契約 | あり | なし |
利用者人数 | 約6.9万人 | 約24万人 |
平均月給 | 74,085円 | 15,603円 |
ご興味がある方は、お近くの就労継続支援事業所を探してみましょう。
発達障害で働けない人が就労に向けてできる7つのこと
この章では、発達障害で働けない人が就労に向けてできることを、詳しく解説していきます。
前提として大切なのは、発達障害の悩みを一人で抱え込まないことです。
自力で解決しようとしても、良い案が思いつかず、さらにストレスを溜め込む場合があります。
専門家や周囲の人に相談してみて初めて見つかる解決策もあるのです。
ぜひ、人の助けを借りることも意識しながら、以下に解説することを実践していってください。
①医師やカウンセラーに相談する
発達障害のある人は、「まずはかかりつけ医を持ち、定期的に相談する」ようにしましょう。
継続的に診てもらっている先生であれば、あなたの特性や、調子の波に合わせた適切なアドバイスをくれるはずです。
また、医師による診察だけでなく、1時間などの単位でじっくり話を聴いてもらえる、カウンセラーに相談するのも一つの手段です。
特に、発達障害のある人のカウンセリング実績がある臨床心理士などは、発達障害に伴う「働けない」という悩みに対しても、丁寧に耳を傾けてくれるでしょう。
発達障害に対応できる臨床心理士をお探しの方は、日本臨床心理士会が運営している「臨床心理士に出会うには」というサイトから調べられますので、ぜひ活用してみてください。
②焦らず治療に専念する(二次障害がある場合)
二次障害がある人は「焦らず治療に専念する」ことが大切です。
経済状況や環境によっては、「早く働かないと」と焦る気持ちはよくわかります。
しかし、そうした焦燥感がご自身へのプレッシャーになって、ますますうつ病などを悪化させる場合もあるのです。
二次障害のある人は「働けない」と考えるのではなく、できるだけ「いまは自分にとって休む時期だ」「今後のために必要な時間だ」と捉えるようにしましょう。
なお、経済面での不安がある方は、前述した「障害者手帳の取得」による医療費の軽減や、退職後の失業手当の受給などを通じて、サポートを受けることも可能です。
その際は、お住まいの自治体の障害福祉担当課や、専門の支援機関に相談することをオススメします。
③就労移行支援事業所に通所する
3つ目は「就労移行支援事業所に通所する」です。
就労移行支援事業所とは、障害や病気のある人のために就職支援を行う、公的な認可を受けた団体のことです。
発達障害の人も、就労移行支援事業所を利用できます。
入所対象となるのは、以下の条件を満たす人です。
- 原則18歳から65歳未満であること
- 一般企業への就職または仕事での独立を希望していること
- 精神障害、発達障害、身体障害、知的障害や難病を抱えていること
利用にあたって、職歴の有無は問われませんし、現状は働けない状態の人でも、支援を受けることができます。
障害者手帳は必須ではなく、専門医による診断書があれば、基本は通所可能です。
支援の詳細は事業所ごとに異なりますが、どこも共通して、あなたの特性に合わせた「個別支援計画」に基づき、次のような幅広いサポートを行っています。
- 仕事のアドバイス
- メンタル面の相談
- コミュニケーションの訓練
- 就職・転職に必要なスキルの習得
- 就職先の紹介
相談・見学は無料ですので、支援内容に興味を抱いた事業所が見つかりましたら、一度問い合わせてみることをオススメします。(私たちキズキビジネスカレッジもその一つです)
就労移行支援の詳細は、下記コラムにまとめてあります。併せてご覧いただくと参考になるかと思います。
- 厚生労働省「就労移行支援事業」
④雇用枠や働き方を変更する
4つ目は「雇用枠や働き方を変更する」です。
求人・雇用の中には、「障害者枠」というものがあります。
障害者枠とは、文字どおり「障害者を対象とする求人・雇用枠」のことです(障害者枠ではない求人・雇用のことは「一般枠」と言います)。
障害者枠では、発達障害の特性や程度に応じて、業務内容や業務量への配慮を得ながら働くことができます(ただし、通常は障害者手帳の取得が必須です)。
これまで「一般枠」で働いてきた発達障害の人は、「障害者枠」に移ることで、就労のつらさを軽減できるかもしれません。
実際に一般枠で「もう働けない」と感じた方が、雇用枠を変更したところ、「無理なく働けるようになった」という例は少なくありません。
一方で、障害者枠は、一般枠に比べると、給与水準や昇進などのキャリア面において、満足のいく待遇を得られない可能性があります。
あなたの発達障害の特性や程度、経済状況、生活と仕事の優先順位などを総合的に考えて判断することが大切です。
また、特性によっては「9時17時」などの固定勤務制よりも、勤務時間に融通を利かせられるフレックス制や、フリーランスでの就労の方が向いているという人もいます。
雇用枠や働き方には、それぞれ一長一短がありますので、変更を本気で考える際には、就労移行支援事業所など、支援機関の専門家に相談すると良いでしょう。
⑤職業訓練を受ける
発達障害に伴って、ご自身の能力やスキルに自信が持てず、働けないと感じているのであれば、「職業訓練を受ける」のも一つの手段です。
実践的な職業訓練・実習を行うことで、スキルが身に付くだけでなく、働いているときのイメージが掴みやすくなります。
訓練を受けられる機関の中には、「職業訓練校」のように、一日の時間割を組んであったり、学びの成果を発表する「技能祭」を催したりと、学校と同様の形態を取っているところもあります。
業務に直結する専門スキルの講習は、一回限りではなく、継続的に行う場合が多いです。
通常は入門コースから始められるカリキュラムになっていますので、ご安心ください。
気になる方は、お近くに職業訓練校があるかどうかを探してみましょう。
また、お住まいの都道府県に設置されている「ハローワーク」でも、公共職業訓練への斡旋や、事業主と3か月の有期雇用契約を締結して働く「障害者トライアル雇用」を実施していますので、こちらも気になる方はハローワークに確認してみましょう。
- 東京労働局「ハロートレーニング(職業訓練)について」
⑥特性をカバーする習慣を身につける
発達障害に伴って働けないと感じているなら、「特性をカバーする習慣を身につける」ことも重要です。
ADHDであれば「忘れ物を減らすためにバッグをひとつにまとめる」「タスク管理のためにリスト化を徹底する」など、生活・仕事の両面で役立つ習慣を身につけてはいかがでしょうか?
ASDであれば「休憩するタイミングを掴むためにアラームを設定して時間管理する」などが有効です。
あなたのことをよく知っているご家族や、支援機関の専門員とともに、あなたに合った習慣を探してみてください。
特に、ADHDの人の工夫やASDの人の人の工夫に関するお話は、下記コラムに書いています。気になる方はご覧ください。
⑦まずはアルバイトから始めてみる
働けないと感じている方は「まずはアルバイトから始めてみる」のもよいでしょう。
「絶対に正規雇用で働く」と気負わずに、まずはアルバイトから開始することで、働くこと自体に慣れていくというのも、有効な方法のひとつです。
職業の向き・不向き、あなたに合った働き方などを確認する意味でも、アルバイトという選択肢は役に立つでしょう。
「今現在、アルバイトで生活できるか」といった視点や、将来的・長期的な収入・生活プランなどを検討することは大切です。
ただ、それを踏まえた上で、アルバイトを通じてあなたに合った業種・働き方がわかれば、その分野での正規雇用を求めて、ステップアップすることもできます。
お勤め先によっては、働いているうちに正規雇用への打診があるかもしれません。
アルバイトであれば、失敗しても、「不向きがわかった」とポジティブに捉えやすいかと思いますので、いま「働けない」という方は、検討してみてください。
発達障害で働けないという方へ:特性別に向いていると考えられる職業
最後に、この章では、発達障害の人に向いていると考えられる職業を、特性別に紹介します。
ただし、向いている・向いていないは、各人の特性や性格によっても異なります。
それゆえ、ここで挙げる職業が、必ずしもあなたに向いているとは限りません。
ご紹介する内容は、「発達障害でも向いている仕事はある」という安心材料にしていただいた上で、実際のお仕事探しの際には、あなたの特性に詳しい医師や支援者にアドバイスをもらいながら、就職活動をすることをオススメします。
ADHDの人に向いている職業
ADHDの人に向いている職業は、その特性の程度にあわせて以下の2つに分類できます。
- 不注意性が強い人
- 多動・衝動性が強い人
種類別に向いている職業は以下の通りです。
①不注意性が強い場合
ADHDの人が、不注意によるミスや抜け落ちをしやすい理由の一端は、「アイディアが次々に思い浮かぶ」ところにあると言われています。
それゆえ「発想力と独創性に富んでいる」ADHDの人には、以下のような職業が向いていると考えられます。
- デザイナー
- アニメーター
- イラストレーター
上記の職業であれば、強みである発想力・独創性を活かすことができるかもしれません。
②多動・衝動性が強い場合
一方、多動・衝動性が強い人は、特定の場所に留まって作業をするよりも、行動力や好奇心を活かせる職業が向いていると言われています。
具体的には、以下の職業が該当するでしょう。
- 営業職
- ジャーナリスト
- カメラマン
- 起業家
上記の職業であれば、比較的、行動力を活かして仕事に取り組むことができるかもしれません。
ただし、営業職であっても事務仕事が付随するなど、ADHDの人が必ずしも得意でない業務が発生する場合もあります。
そうした業務に対応するためには、これまでに紹介した「特性をカバーする習慣」を身につけることが重要になります。
ASDの人に向いている職業
ASDの人に向いている職業を考える上で大切なのは、以下の2点に着目することです。
- 静かな環境で、ひとりで仕事ができるか
- 規則やマニュアルに沿って進められるか
上記の観点から、ASDの人に向いていると考えられる職業として、以下が挙げられます。
- プログラミングなどのIT系
- 経理職
- 事務職
- 法務職
このような職業であれば、臨機応変な対応が求められたりトラブルが生じたりしない限り、ASDの人でも働きやすいかと思われます。
ただし、裁量の範囲があまりにも広く、曖昧な指示が多い場合は、パニックを起こす可能性もありますので注意してください。
ADHD・ASDともに「こだわり」が強い人に向いている職業
ADHD・ASDともに、特性上、特定の分野への「こだわり」が強い人がいます。
「こだわり」が強い人には、以下のような、専門性の高い職業が向いているとも考えられます。
- プログラマー
- エンジニア
- 研究者
発達障害の人の関心分野と職種の専門性がマッチしたときには、素晴らしい成果を発揮できると言われています。
例えば、発達障害に関する著書を多く残している福島学院大学大学院教授の星野仁彦先生は、専門的な資格を取ることでなれる専門的技術職こそがADHDの人の一番の適職だと明言しています。(参考:星野仁彦『発達障害に気づかない大人たち〈職場編〉』)
とはいえ、興味が持てる分野は人によって異なりますので、上記の3つの職業が必ずしも適職であるとは限りません。
関心分野への専門知識や技能を活かして、作曲家や音楽家などの芸術方面へ進むという人も少なからずいます。
代表的な3つの発達障害
ここまでは、発達障害で働けないという方が受けられる支援と、就労に向けてできることを解説してきました。
この章では改めて、発達障害について簡単に説明します。
「発達障害」とは、先天的な脳の機能の偏りによって、社会生活やコミュニケーションに困難が生じている状態を言います。
2013年に刊行されたアメリカ精神医学会の定める診断基準「DSM-V」によると、主な発達障害の種類として、以下の3つを挙げることができます。
最近では、職場でのコミュニケーションに悩んで、病院で検査を受けたところ、初めてASDであることがわかったという方など、いわゆる「大人の発達障害」のケースも珍しくありません。
また、人によっては、発達障害の傾向はあるものの確定診断が下りない「グレーゾーン」と呼ばれる層の人もいます。
「発達障害かどうか」の判断は専門医でないと難しいため、「自分が発達障害かどうかを疑っている」段階の人は、以下の各発達障害の特性を参照しつつ、まずは病院で検査を受けることをオススメします。(参考:村上由美『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に暮らすための本』、姫野桂『発達障害グレーゾーン』)
なお、発達障害は病気とは異なり、あくまで「目立つ特性がある」というだけです。
日常生活などにおける「困難」は、過ごし方の工夫などで対策できますので、ご安心ください(人によっては、投薬などが効果的なこともあります)。
ADHD(注意欠陥・多動性障害)
ADHDは、正式名称を注意欠如・多動性障害(Attention-Deficit Hyperactivity Disorder)という、発達障害の一種です。
特性の程度や現れ方には個人差がありますが、ADHDには大きく分けて「不注意」と「多動・衝動性」の2つの特性が見られます。
具体的な困難としては、以下が挙げられます。
- 忘れ物や記入漏れなどのミスが多い
- 確認作業がうまくいかない
- 整理整頓が苦手で物を失くすことが多い
- 気が散りやすく、貧乏ゆすりなど常に身体を動かしていないと落ちつかない
- 他人の意見に耳を傾ける前に発言したり行動したりする
- 優先順位をつけることが苦手で、場当たり的になりやすく、締切を守りづらい
ASD(自閉症スペクトラム障害)
ASD(Autism Spectrum Disorder、自閉症スペクトラム障害)とは、社会性・コミュニケーション・想像力の3つにおいて特性が目立つ発達障害です。
具体的には、以下のような特性が目立ちやすいと言われています。
- 場の状況や上下関係に気が回りづらく、TPOに合わせた行動が難しい
- 話を聞いていないと誤解されやすい
- 質問の意図、身振り、比喩、冗談などを理解しづらい
- 報告、連絡、相談がうまくできない
- 決まった順序に強いこだわりを見せる
- 予定が変わるとパニックになりやすい
- 暗黙のルールなど明示されてない決まりに疎い
その他にも、ASDには聴覚過敏などの「感覚過敏」を併せ持つ人が少なくありません。
LD(学習障害)
LD(学習障害)とは、「読む・聞く・話す・書く・計算する・推論する」といった6つの能力の1つ以上に、習得や使用の困難がある発達障害です。
文部科学省の定義によると、「学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない」という条件が付きます。
「読む・聞く・話す・書く・計算する・推論する」のうち、どれに困難を覚えるのかは、各々の特性により異なりますので、一概には言えません。
しかし、「特定の情報処理が難しい」という困難に共通点があります。
例えば、読字障害の場合は「会議資料がうまく読めない」、聞く障害の場合は「プレゼンや打ちあわせの内容を聴き取りづらい」という状態が認められます。
ご紹介したような特徴から、LDは、その他の発達障害に比べると、初等教育が始まる段階で症状を自覚しているケースが少なくありません。
発達障害で働けない人の3つの困りごと
まずは、発達障害で働けない人が感じやすい困りごとを見ていきましょう。
①特性のために業務の遂行が難しい
1つ目は「特性のために業務の遂行が難しい」です。
先述したように、ADHDであれば「ミスや確認作業の不手際が多い」、ASDであれば「意思疎通がうまく図れない」など、発達障害には業務に支障を来たしうる様々な特性があります。
もちろん、ある程度は、ご自身の工夫でカバーすることも可能です。
しかし、発達障害は「先天的な脳の機能の偏り」が原因と考えられているため、努力だけで全てを補うことは難しいとも言われます。
それゆえ、「がんばってはみたものの業務遂行が難しい」と感じて「働けない」と思う人が多いようです。
②うつ病などの「二次障害」で働けない
「うつ病などの『二次障害』で働けない」というのも、よく聞く困りごとです。
発達障害の人は、特性上、生活や仕事での困難が多く、ストレスを抱えやすいと考えられています。
特に、仕事の現場では正確な処理やコミュニケーションを求められますので、うまく対応できなければ、上司からの注意や叱責を受けることもあるでしょう。
こうした発達障害に伴って生じる疲労・ストレスの結果、うつ病などの精神疾患を患っている状態を「二次障害」と呼びます。
二次障害のある人は、発達障害の特性に加えて、憂うつ感や倦怠感に悩まされることになるため、「もう働けない」と感じる方が少なくないようです。
なお、二次障害が直接的な要因になって「働けない」場合は、「発達障害の特性への対応」の前に・または合わせて、その二次障害の治療を行うことをオススメします。
③どこに(誰に)相談していいかわからない
最後は「どこに(誰に)相談していいかわからない」という困りごとです。
とりわけ、発達障害であることを公表せずに働いている方は、「働けない」と思っても周囲の人に打ち明けることができず、悩むケースが少なくありません。
また、先述した発達障害グレーゾーンの方も、確定診断が下りていないことから、医師に相談していいものかどうか、迷うことが多いでしょう。
こうした困りごとを抱えている方は、最初の章で紹介したように、専門の支援機関に相談することができますので、ご安心ください。
まとめ:発達障害で働けない人が受けられる支援・できることはたくさんあります
発達障害で働けない人向けに、よくある困りごとから、受けられる支援、働けなくてもできること、向いている職業などを解説してきましたが、次のステップに進むためのヒントは見つかりましたか?
繰り返しにはなりますが、大切なのは、発達障害の悩みを一人で抱え込まないことです。
医師やご家族、支援機関など、あなたが相談できる相手はたくさんいます。
ぜひ「働けない」と思い詰めずに、周囲の人を頼ってみてくさい。
このコラムが、発達障害での就労に悩むあなたの助けになれば幸いです。
発達障害で働けない自分が、就職・労働に向けてできることを知りたいです。
一般論として、次の7点が考えられます。(1)医師やカウンセラーに相談、(2)焦らず治療に専念(二次障害がある場合)、(3)就労移行支援事業所に通所、(4)雇用枠や働き方を変更、(5)職業訓練、(6)特性をカバーする習慣の習得、(7)まずはアルバイトから開始。詳細はこちらをご覧ください。
発達障害で働けない自分が利用できる支援を知りたいです。
代表的な例として、次の4点が挙げられます。(1)障害者手帳、(2)専門の支援機関(発達障害者支援センターなど)、(3)就労移行支援、(4)就労継続支援A型/B型。詳細はこちらをご覧ください。
監修キズキ代表 安田祐輔
発達障害(ASD/ADHD)当事者。特性に関連して、大学新卒時の職場環境に馴染めず、うつ病になり退職、引きこもり生活へ。
その後、不登校などの方のための学習塾「キズキ共育塾」を設立。また、「かつての自分と同じように苦しんでいる人たちの助けになりたい」という思いから、発達障害やうつ病などの方々のための「キズキビジネスカレッジ」を開校。一人ひとりの「適職発見」や「ビジネスキャリア構築」のサポートを行う。
【著書ピックアップ】
『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(2021年12月、翔泳社)』
Amazon
翔泳社公式
【略歴】
2011年 キズキ共育塾開塾(2024年10月現在11校)
2015年 株式会社キズキ設立
2019年 キズキビジネスカレッジ開校(2024年10月現在6校)
【その他著書など(一部)】
『学校に居場所がないと感じる人のための 未来が変わる勉強法(KADOKAWA)』『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(翔泳社)』『暗闇でも走る(講談社)』
日経新聞インタビュー『働けたのは4カ月 発達障害の僕がやり直せた理由』
現代ビジネス執筆記事一覧
【メディア出演(一部)】
2022年 NHK総合「日曜討論」(テーマ:「子ども・若者の声 社会や政治にどう届ける?」/野田聖子こども政策担当大臣などとともに)
執筆寺田淳平
てらだ・じゅんぺい。
高校2年の春から半年ほど不登校を経験。保健室登校をしながら卒業し、慶應義塾大学に入学。同大学卒業後の就職先(3,500人規模)で人事業務に従事する中、うつ病を発症し約10か月休職。寛解・職場復帰後、勤務を2年継続したのち現職のフリーライターに。
2019年に一般財団法人職業技能振興会の認定資格「企業中間管理職ケアストレスカウンセラー」を取得。
サイト運営キズキビジネスカレッジ(KBC)
うつ・発達障害などの方のための、就労移行支援事業所。就労継続をゴールに、あなたに本当に合っているスキルと仕事を一緒に探し、ビジネスキャリアを築く就労移行支援サービスを提供します。2024年10月現在、首都圏・関西に6校舎を展開しています。トップページはこちら→