部下がうつ病と診断されたらどうする? 取るべき対応や責任の所在を解説

こんにちは。就労移行支援事業所・キズキビジネスカレッジ(KBC)です。
あなたは、部下がうつ病かもしれないとお悩みではありませんか?
- 部下にどう接したらいいかわからない
- 上司として責任を問われるかもしれない
さまざまな考えが浮かぶこともあるでしょう。
このコラムでは、部下がうつ病と診断されたときの対応や責任の所在、必要な取り組みなどについて解説します。
社内でメンタルヘルス不調者が現れたとき、適切な対応が取れるように予防策についても知っておくことが大切です。
このコラムの内容を参考に、重要なポイントを知っておきましょう。
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目次
うつ病やメンタルヘルス不調者に見られるサインとは?

うつ病やメンタルヘルス不調者には、以下のような兆候が表れることがあります。
- 物忘れやケアレスミスが多くなる
- 同僚との会話を避けるようになる
- 遅刻や欠勤が増える
- 離席が増える
- 机上が散らかりはじめる
- 電話の受け答えが緩慢になり沈黙が増える
- 眠気が強く日中でも朦朧としている
- 自分を責めるような発言が増える
- 話し方に抑揚がなくなり声が小さくなる
- 身だしなみを整えなくなる
このようなサインが見られた場合は、メンタルヘルス不調が疑われます。ただし、兆候の表れ方は個人によって異なるため、日頃から気にかけて普段の様子を知っておくことが大切です。
普段の様子を知っておくと、いつもより顔色が優れない、声色に覇気がないなど、変化に気づいて早期に対処できるようになります。
うつ病の人がとる行動についてさらに詳しく知りたい人は、以下のコラムも参考にしてください。
部下がうつ病になった場合、責任は上司にある?
部下がうつ病になり「上司として責任が問われるのでは」と気になる人もいるかもしれません。
実際のところ、上司に責任があるか否かは、個々のケースによって異なります。
この章では、部下がうつ病になったときの上司の責任について解説します。
前提①責任の一端があると見なされることも少なくない

上司は部下のマネジメント業務も行うため、部下のうつ病により責任を問われることは少なくありません。
業務の遂行を管理するだけでなく、部下のメンタル状態を気にかけて、モチベーション維持に努めることも上司の重要な責務であるためです。
メンタルヘルス不調の原因は多岐にわたり、必ずしも業務や職場に起因するとは限りません。しかし、上司には安全配慮義務があり、部下のメンタルヘルス管理も含まれます。
安全配慮義務とは、労働契約法第5条に定められており、労働者に賃金を支払う事業者に対して定められたものです。主体は事業主になりますが、管理職もその責任を負う立場と見なされる可能性があります。(参考:e-GOV「労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)」)
ハラスメントがなかった場合でも、部下への安全配慮義務が果たせていないとして、一定の責任が問われる可能性は十分に考えられるでしょう。
前提②法的責任が問われる可能性もある
パワハラや過度な業務負担が原因で、部下がうつ病などを発症した場合、上司は法的責任を問われる可能性があります。
2020年に施行されたいわゆるパワハラ防止法(労働施策総合推進法)の中で、パワハラ行為は以下のように定義されています。
第30条の2 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
(出典:e-GOV「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和四十一年法律第百三十二号)」)
つまり、職場におけるパワーハラスメントは、以下3つの要素を満たした行為のことです。
- 職務上の優越性を背景としている
- 業務上必要な範囲を超えている
- 労働者の就業環境が害される
上司によるパワハラにより訴訟問題に発展すると、民法第709条に基づいて損害賠償責任が発生する可能性もあります。パワハラが疑われる場合は、事業主全体の問題にも発展しかねません。(参考:e-GOV「民法(明治二十九年法律第八十九号」)
前提③部下のうつ病は全くの無関係ではありません

業務上必要な指示や、遅刻などの社会的ルールに則っていない場合における最低限の注意であれば、パワハラには該当しません。
ただし、業務上における注意であっても、長時間にわたる繰り返しの叱責や、大勢の前で罵倒するなどの行為は、ハラスメントに該当する恐れがあります。(参考:厚生労働省 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」、厚生労働省「こころの耳Q&A」)
いずれにしても、部下のうつ病は上司の立場と全くの無関係ではありません。
上司には部下のメンタルヘルスに配慮し、働きやすい職場環境を整備する責任があることを認識しておきましょう。
うつ病のある部下に上司として取るべき3つの対応
この章では、うつ病のある部下に上司として取るべき対応について解説します。
対応①相談の場を設けて本人の希望を聞く

部下にうつ病を告げられたら、まずは面談を設定し、本人の体調や仕事への不安、希望などを聞く場を設けましょう。
その際は、人目を気にせず話せる静かで落ち着いた場所を選び、非公開の場所でプライバシーに配慮することが大切です。時間に焦ることがないよう、相手のペースでゆっくりと話せる時間を確保してから行ってください。
面談をセッティングしても、本人からなかなか話が聞けないこともあるでしょう。そのような場合でも、話を急かしたり遮ぎったりせず、最後まで話を聞くことを心がけてください。
うつ病などの場合、思考面の障害が表れることもあるため、考えがまとまらず、上手く言葉が出てこないのかもしれません。
信頼して話してもらうには、聞き出そうとするのではなく、あくまで話を聞く姿勢を示すのがポイントです。時間がかかるときは落ち着いてからでもいいことを伝えるなど、受容的な態度を心がけましょう。(参考:野村総一郎『うつ病のことが正しくわかる本』)
対応②休職・復職に関するサポートを行う
休職を希望する部下に対してのサポートは、上司が率先して行えることです。会社の休職制度に基づき、スムーズな手続きを進められるようサポートしましょう。
上司ができる具体的な対応として、以下が挙げられます。
- 人事・労務担当者と連携を取る
- 休職手続きの手順を本人と確認しながら進める
- 休職中の部下と定期的にコミュニケーションを取る
- 復職に向けた支援プランを作成する
休職中は部下と定期的な連絡を取ることになりますが、連絡の頻度については本人の希望を聞きながら調整しましょう。休職中の連絡手段や頻度によっては、本人の負担となる場合があるためです。
また、医師と連携しながら段階的な復職となるよう計画を立て、本人の体調や回復状況に合わせて業務量や内容を調整することも大切です。
復帰後も本人の体調や仕事への適応状況を把握するために、必要に応じて面談の場をセッティングしましょう。
対応③復職後のフォローアップ体制を整える

復職後のフォローアップは職場環境や業務内容が、社員の心身に負担にならないか確認し、再発を予防する目的で行われます。
うつ病の再発率は50〜60%といわれており、再発率の高い疾患です。回復して約2ヶ月ほどで症状が表れない寛解と呼ばれる状態になりますが、まだ継続療法が必要な期間といえます。(参考:野村総一郎『うつ病のことが正しくわかる本』)
復職後のフォローアップ体制を構築する際は、必ず産業医と連携して再発予防に努めましょう。職務上の理由でうつ病を発症した場合は、復帰後も同様の状況にさらされることも考えられます。本人にとって負担が大きい状態が続くようでは、再発のリスクが高いでしょう。
本人の体調や能力に合わせて、業務量や内容を調整することはもちろん、再発しやすい状況を知り、職場環境を改善していくことが大切です。
うつ病のある部下に対する声かけや接し方のコツ3選
うつ病と診断された部下に対して、接し方に悩む人も多いでしょう。
この章では、うつ病のある部下に対する声かけや接し方のコツについて解説します。
コツ①責めるような言い方や伝え方をしない

部下への接し方によっては、うつ病の症状を悪化させることにつながりかねません。以下のような言い方は厳禁です。
- みんな辛い思いをしている
- 甘えているんじゃないか
- もっとがんばれ
- 気にしすぎだ
叱咤激励のつもりでも、かけた言葉がさらに本人を追い込むことになります。また、他の人の目線があるオープンスペースでの叱咤激励や叱責は、うつ病のある人の尊厳を大きく傷つけるかもしれません。
上司にとっては責めるつもりがなく、励ましたいという気持ちであったとしても、プレッシャーや自責の念を抱かせる原因となります。うつ病のある人は焦燥感を抱えていることもあるため、負担を増加させないように注意してください。
コツ②本人の話を否定せずに聞く
うつ病のある部下と話をするときは、相手の言葉を聞く姿勢を整えましょう。部下が安心して話をするためには、上司である聴き手側の準備が重要です。
相手の立場に立って考え、相手の気持ちを理解しようと努めながら話を聞くためには、まず自分の心に余裕を持つことが大切です。話を聞くための時間と場所を確保して、部下の話に耳を傾けましょう。
その際は、相手の話を否定せず、肯定的な関心と態度を持って聞くことを意識するのがポイントです。
相手を尊重する姿勢は、表情や姿勢、声のトーンなどの非言語的な態度からも伝わります。頷きや相槌などを交えながら、相手を受容する態度を心がけましょう。
コツ③具体的なアドバイスは控える

うつ病のある部下に対して、具体的なアドバイスをしたくなる人もいるかもしれません。しかし、安易なアドバイスや具体的な行動を促すことにより、かえって本人の負担になる可能性があります。
アドバイスをするとしても、本人の自由な選択が保証された以下のような内容に留めておくことをオススメします。
- 困ったことがあれば、いつでも相談してください
- 一緒に解決策を考えていきましょう
部下の助けになりたいときは、具体的な行動でサポートを示すのが有効です。例えば、以下のような支援が挙げられます。
- 期限の調整:締め切りが迫っている場合は、上司に相談し、期限の延長を検討する
- 業務の分担:業務を他のメンバーに分担してもらう
- 優先順位付けの支援:緊急性の高い業務から順に処理できるように、一緒にタスクリストを作成する
これらはあくまで一例であり、大切なのは本人の意向を尊重し、何が一番良いのかを一緒に考えていくことです。本人にとって必要なサポートを提供しましょう。
部下がうつ病になるのを未然に防ぐ5つのポイント
部下がうつ病になるのを未然に防ぐことは、個々の従業員の心の健康を守るだけでなく、組織全体の生産性向上にもつながる重要な取り組みです。
この章では、部下がうつ病になるのを未然に防ぐポイントについて解説します。
ポイント①双方が話しやすい良好な関係性を築く

双方にとって話しやすい関係性が築かれていれば、部下は仕事で困ったことや悩みを上司に相談しやすくなります。悩みを一人で抱え込むことが減り、心の負担を軽減できるでしょう。
話しやすい関係性は心理的安全性を確保するうえでも重要です。心理的安全性が確保されていれば、失敗を恐れずに意見を言えたり、新しいことに挑戦できたりといった良質な職場環境の構築につながります。
また、良好な関係性が保たれることにより、人間関係によるストレスも軽減されます。上司や同僚との良好な関係は、仕事上の困難を乗り越えるための大きな力になるでしょう。
ポイント②日頃から部下の様子を気にかけておく
メンタルヘルス不調は、早期発見と適切な対応を行うことが大切です。普段から部下の様子を把握していれば、仕事のパフォーマンス、コミュニケーション、体調などの変化を感じ取り、うつ病の初期症状にいち早く気づけます。
メンタルヘルス不調のサインが見られたら、なるべく早めに部下の話を聞く時間を取るようにしてください。症状が悪化すると、回復までに多くの時間を要します。
部下に様子を聞く際は、症状を決めつけたり、無理に聞き出そうとしたりすることは避けましょう。
「疲れているように見えるけど、何か心配ごとでも?」「顔色が優れないけど、大丈夫?」のように心配していることが伝わるような声かけを意識してください。
明らかな体調不良や業務に支障が生じている場合は、労務上の管理のためと受診を促すとよいでしょう。メンタルヘルス不調の原因は、うつ病だけではなくほかの疾患が原因である場合もあります。素人判断をせず、必要に応じて専門家のサポートを受けるようにしてください。
ポイント③職場環境を見直す

うつ病を含む精神疾患を予防するためには、職場環境を見直すことが大切です。職場環境によっては心理的な負担が大きくなり、精神疾患の発症リスクが高まります。
例えば、以下のような職場環境の場合は注意が必要です。
- 残業や拘束時間が長い
- 業務の責任負担が大きい
- 高度な技術力や知識量が求められる
- 負担となるノルマが課せられている
仕事量の多さや高いパフォーマンスを求められ続ける業務は、身体的にも精神的にも負担になります。(参考:厚生労働省「ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等」、日本労働研究雑誌「職場環境とメンタルヘルス」)
職場環境改善は、上司が率先してできるサポートの1つです。部下のメンタルヘルスを守り、組織全体の活性化に貢献するためにも、改善できるところがないか見直してみましょう。
ポイント④メンタルヘルス研修を実施する
メンタルヘルス研修は、メンタルヘルスに関する知識を深め、ストレス対処法や心の健康の大切さを学ぶことを目的としています。
メンタルヘルスの不調にいち早く気づいて適切に対処できる方法を学ぶことで、自己対処できる力を身につけられます。
メンタルヘルス研修を実施することで働きやすい職場環境が整備され、事業全体の活性化にもつながるでしょう。
ポイント⑤適切なマネジメント方法を学ぶ

部下の能力を引き出すためには、適切なマネジメントを実践する必要があります。マネジメントに必要な能力はリーダーシップだけではありません。信頼関係を築くコミュニケーション力や、部下の状況に合わせた目標設定も重要です。
部下へのマネジメント方法を学ぶことで、適切な指導と関わりができるようになり、心の健康を維持するうえで、よい影響をもたらすでしょう。
メンタルヘルス対策に取り組む事業所は増えている

厚生労働省が行った労働安全衛生調査によると、メンタルヘルス対策に取り組む事業所の数は約63.8%でした。6割強の事業所がメンタルヘルス対策に取り組んでおり、事業主が従業員の心の健康の維持に注目していることがわかります。
しかし、実際の対策内容を見ると、ストレスチェックの実施にとどまっているケースも多く、より踏み込んだ取り組みが求められています。(参考:厚生労働省「令和5年 労働安全衛生調査(実態調査) 結果の概要 」)
職場でのストレス対策については、以下のコラムでも解説しています。
メンタルヘルス対策のために事業主が取り組むべきこと
現代社会において、従業員のメンタルヘルス問題は、事業主にとって喫緊の課題となっています。従業員の心の健康を守ることは、個人の幸福だけでなく、組織全体の生産性向上や、事業の持続的な成長に不可欠です。
事業主がメンタルヘルスケアを実施するうえでは、以下4つのケアが継続的に行われることが重要とされています。
- セルフケア:従業員自身が自身の心の健康を維持する
- ラインケア:上司や同僚が、部下の異変にいち早く気付きサポートする
- 事業場内産業保健スタッフなどによるケア:事業場内における産業医や保健師などの専門家による支援を受ける
- 事業場外資源によるケア:事業場外サービスの利用により従業員の心の健康をケアする
これらのケアを実施するために、事業主は以下のような取り組みを実践していく必要があります。
- ストレスチェックの実施
- メンタルヘルス研修の実施
- 相談窓口の設置
- 産業医や事業場外資源への協力
- パワーハラスメント対策
- EAP(社員支援プログラム)の導入
- 業務量の見直し
- 職場の人間関係の改善
- 外部相談窓口の設置
- 復職支援プログラムの整備
事業主には、従業員が安心して働き続けられる環境と体制を整える責務があります。従業員の心の健康を守り、よりよい職場環境づくりに努めましょう。(参考:厚生労働省 独立行政法人労働者安全機構「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」)
まとめ:部下のうつ病に気づいたら早めの対策を

部下のうつ病に気づいたら、早急に適切な対応を取ることが大切です。
放置すると、症状が悪化し、仕事のパフォーマンス低下や、最悪の場合、離職につながる可能性があります。
本人や事業主の双方にとって、早期発見と早期対応が最善の策となります。まずは、本人に声をかけて話を聞き、必要であれば産業医や専門機関へ相談しましょう。
うつ病のある部下に上司として取るべき対応を教えてください。
うつ病のある部下に対する声かけや接し方のコツを教えてください。
監修キズキ代表 安田祐輔

発達障害(ASD/ADHD)当事者。特性に関連して、大学新卒時の職場環境に馴染めず、うつ病になり退職、引きこもり生活へ。
その後、不登校などの方のための学習塾「キズキ共育塾」を設立。また、「かつての自分と同じように苦しんでいる人たちの助けになりたい」という思いから、発達障害やうつ病などの方々のための「キズキビジネスカレッジ」を開校。一人ひとりの「適職発見」や「ビジネスキャリア構築」のサポートを行う。
【著書ピックアップ】
『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(2021年12月、翔泳社)』
Amazon
翔泳社公式
【略歴】
2011年 キズキ共育塾開塾(2024年10月現在11校)
2015年 株式会社キズキ設立
2019年 キズキビジネスカレッジ開校(2024年10月現在6校)
【その他著書など(一部)】
『学校に居場所がないと感じる人のための 未来が変わる勉強法(KADOKAWA)』『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(翔泳社)』『暗闇でも走る(講談社)』
日経新聞インタビュー『働けたのは4カ月 発達障害の僕がやり直せた理由』
現代ビジネス執筆記事一覧
【メディア出演(一部)】
2022年 NHK総合「日曜討論」(テーマ:「子ども・若者の声 社会や政治にどう届ける?」/野田聖子こども政策担当大臣などとともに)
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