ASD(自閉スペクトラム症)とは? よくある悩み事や相談先、お役立ち情報をまとめて紹介
あなたは、ご自身や、ご家族、身近な人たちがASDではないか?とお悩みなのではないでしょうか。この記事では、ASDの概要、よくある悩み事、相談先、関連情報をまとめて紹介します。
ASDの特性に由来にする「困難」がある可能性は否定しません。ですが、現在は相談先や特性への対策もたくさんあります。この記事を読むことで、不安が解消し、「実際のあなた」が次にどう行動するべきかなどが見えてくると思います(例:「○○という相談先に連絡しよう」など)。
ぜひご一読ください。
なおこのコラムは、全体的に、就労移行支援事業所・キズキビジネスカレッジ(KBC)の知見及び、下記の参考資料に基づいて執筆しています。
厚生労働省こころの耳「No.1 職域で問題となる大人の自閉症スペクトラム障害」、厚生労働省e-ヘルスネット「ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について」
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)、林寧哲『これでわかる 大人の発達障害』(成美堂出版)、宮尾益知『ASD(アスペルガー症候群)、ADHD、LD女性の発達障害 女性の悩みと問題行動をサポートする本』(河出書房新社)、松本卓也・野間俊一『メンタルヘルス時代の精神医学入門 ーこころの病の理解と支援ー』(ミネルヴァ書房)、福西勇夫・福西朱音『マンガでわかるアスペルガー症候群の人とのコミュニケーションガイド』(法研)、福西勇夫・福西朱音『マンガでわかる 発達障害 特性&個性 発見ガイド』(法研)
私たちキズキビジネスカレッジ(KBC)は、ASDのある人のための就労移行支援事業所です。
- 病気や障害があっても、KBCでは初任給は38万円も
- 通常52%の就職率が、KBCでは約83%
- 通常約1年半かかる就職内定が、KBCでは平均4ヶ月
神田・新宿・横浜・大阪に校舎があり、障害者手帳がなくても自治体の審査を経て利用することができます。遠方の方は、日常的にはオンラインで受講しながら(※お住まいの自治体が認めた場合)、「月に1回、対面での面談」を行います。詳しくは下記のボタンからお気軽にお問い合わせください。
目次
ASDの概要
ASDとは、発達障害のひとつで「自閉スペクトラム症(ASD:Autism Spectrum Disorder)」の略称です。発達障害は他にも、ADHDやSLDなどがあります。
①ASDの分類・呼称について
現在「ASD」と分類・呼称されている特性は、これまでには、自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などと様々な呼称があり、それぞれ別のものとされてきました。
それらが、2013年のアメリカ精神医学会の診断基準『DSM-5』などによって、「ASD」に改められた次第です。
ただし現実としては、臨床の場(現場の医師や看護師が働く場)でも日常的な場面でも、上記の「ASDよりも前の症状名」で呼ばれることもあります。
②ASDの原因について
ASDの発症の原因は、現在も特定されていません。今のところ、生まれつきの脳の障害が原因とされています。
ASDの人は約100人に1人とされています。また、男性の発生頻度は女性の4倍、女性でASDの人には知的障害もある傾向がある、などと言われています。
「自分の(周囲の人の)発達障害」を考える上で重要なことは、「発達障害は原因不明かつ生まれつきのものであり、誰かに責任があるわけではない(発達障害の原因は、誰かが「悪い行動をしたこと」ではない)」ということです。
③ASDの診断基準
「ある人がASDかどうか」は、精神科で、下記などの条件が満たされたときに診断されます(参考:『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』)。
診断は医師のみが行えます。また、「診断を受けた方がよいかどうか」は、後の章「自分が(ある人が)ASDかどうかは医師だけが診断できる」で紹介します)。
DSM-5における自閉症スペクトラム(ASD:Autism Spectrum Disorder)の診断基準
以下のA、B、C、Dを満たしていること。
- A:社会的コミュニケーションおよび相互関係における持続的障害(以下の3点で示される)
①社会的・情緒的な相互関係の障害。
②他者との交流に用いられる非言語的コミュニケーションの障害。
③年齢相応の対人関係性の発達や維持の障害。
- B:限定された反復する様式の行動、興味、活動(以下の2点以上の特徴で示される)
①常同的で反復的な運動動作や物体の使用、あるいは話し方。
②同一性へのこだわり、日常動作への融通の効かない執着、言語・非言語上の儀式的な行動パターン。
③集中度・焦点づけが異常に強くて限定的であり、固定された興味がある。
④感覚入力に対する敏感性あるいは鈍感性、あるいは感覚に関する環境に対する普通以上の関心。
- C:症状は発達早期の段階で必ず出現するが、後になって明らかになるものもある
- D:症状は社会や職業その他の重要な機能に重大な障害を引き起こしている
ASDの特性と、世代ごとの悩み事
ASDの代表的な特性は、次の3つです。
- 社会的なやり取りへの苦手さ/困難/意識(他人との距離感を上手く保つことが苦手で、団体行動が取りにくい/他人に歩み寄りすぎる/言葉と表情を介したコミュニケーションが得意ではないなど)
- こだわりが強い
- 聴覚、視覚、嗅覚、皮膚感覚が過敏である。もしくは、過度に鈍い
それぞれの特性ごとに、よく見られる具体的な困難の例を、年代ごとに紹介します(ASDの特性そのものや、ASD由来の困難な出来事は、人によって異なります。また、年代はあくまでも目安ですので、人によっては遅い早いがあります)。
①【特性】社会的なやり取りへの苦手さ/困難/意識
- あまり泣かない・あやしても笑わない
- 発語や言葉が遅い
- 人と視線を合わせようとしない
- 子ども同士で遊ぶよりも、一人遊びを好む
- ごっこ遊びや真似っこが苦手
- 人見知りをしない、親の後追いをしない
- 転んで傷ができても、痛みを感じるそぶりを見せない
- 協調性が低く、集団行動が苦手である
- 学校の決まりや校則が理解できない(なんで守らないといけないんだろうなど考える)
- 友達の意図していることを汲み取れず、馴染めない
- 新しい友達を作ることが苦手である
- 相手の気持ちを察することができず、思ったことをすぐ口に出してしまう
- 「空気の読めない人」だと言われて、距離を取られる
- 抑揚のない喋り方で怖いと言われる
- 相手の様子を伺わずに、一方通行な発言をする
- 自分の感情が混乱していて、ついカリカリする
- 社会人としてのルールやマナーを理解できず実行できない
- 相手によって言葉を選ぶことができないため、自分の立場をわきまえないように見られる
- 言葉を字義通りに受け取るため、業務内容が理解できない
- 「適当でいいよ」のような曖昧な表現が理解できない
- 「暗黙の了解」というものを察することが苦手である
- 皮肉やジョークが通じず、真に受けて口論になる
②【特性】こだわりが強すぎる言動をする
- 同じ遊びを繰り返す
- 環境が変わることを、極端に嫌がる
- 熱中していることを邪魔をされると、癇癪(かんしゃく)を起こす
- 極端な偏食で、給食を残すことがある
- 特定の順番で活動することや、道順、物の位置などにこだわる
- 学校生活に馴染みにくい。授業内容の理解に苦労する
- マニアックなことを趣味にする
- 好きな科目はとても熱心に勉強する
- 自分の考えや信念が強すぎて、周りの意見を真っ向に拒否する
- 好きな仕事には没頭できるけど、他の仕事はできない
- 融通が利かないと言われる
- 日常生活や家庭で自分の関心のあることに没頭して、他の人が中断をさせようとすると怒る
③【特性】感覚が過敏である。もしくは、感覚が非常に鈍い
- 「大きな音や強い匂い」「他の人は気にならない音や匂い」などを強く嫌がる(感覚過敏)
- 自分の名前を呼ばれても気が付かない(感覚鈍麻)
- 食べ物の好き嫌いが多い
- 会話している相手の声だけでなく、周囲の音が全て入ってきて聞こえづらい
- 砂遊びを嫌がる
- 裸足で遊ぶことを嫌がる・靴下や靴を履くことを嫌がる
- 食べ物の好き嫌いが多い(味覚・触覚・嗅覚)
- パソコン・スマホの画面を見ると異様に目が疲れる
- 紙からの光の反射で目が疲れる(視覚)
- 蛍光灯や街の掲示板の光が強すぎて嫌がる
- 電車や学習スペースなどで、人の匂いに敏感になる
- PC・スマホの光、紙からの光の反射で目が疲れる(視覚)
※特に大人の感覚過敏については、下記コラムをご覧ください。
「自分は(この人は)ASD かもしれない」と思うタイミング
ここでは、ASD の当事者と、関係者(親など育児に関わる人)の観点から、「もしかしたら自分は(この人は)ASD かもしれない」と思うきっかけの例を紹介します。
あくまで例ですので、「こういう人は必ずASDである」というものではありません。
①「社会人の自分」の場合
ASDは、他の発達障害と比べて、大人(新社会人)になってから発覚するケースが多いようです。
なぜなら、ASDの人は、記憶力が高いことがあり、学校での暗記中心の勉強ではあまり苦労せずに、成績優秀な人として評価されることもある(成績優秀なために、学校生活に適応しているように見えることがある)からです。
しかし社会に出ると、ASDの特性によって、次のように苦労するケースが見受けられ、そのタイミングで気づくことがあるのです。
- 「いつも無口で愛想がない」と周りから指摘される
- 自分では相手に言われた通りのことをしただけだと思うのに、なぜか相手が怒り出すことがよくある
- 臨機応変な対応、予定の変更が苦手なので、スケジュール変更の度に慌てる
- マルチタスクが苦手で、同僚よりもミスが多かったり、仕事が遅かったりする
自分の特性に気づくタイミングがないまま、社会に出て周囲からいきなり冷たくされると、生きづらさを感じるでしょう。
この状況が今の自分にも当てはまるとしたら、ASDの可能性があるかもしれません。
最近、「大人の発達障害」という言葉が広まってきました。「大人の発達障害」とは、カンタンに言うと、「大人(社会人)になってから自身の発達障害に気づくこと」を意味します。発達障害は生まれつきのものですので、「子どもの頃は発達障害ではなかった人が、大人になってから発達障害になる」ということはありません。
②「親から見た、子ども」の場合
ASDは、生まれつきのものです。そのため、子どもの頃から特徴的な行動をとることがあります。
例えば、次のような行動があります。
- 幼稚園や保育園、学校で友達ができず、集団生活に馴染めていない
- 偏食であり、食べ物の好き嫌いが激しい
- 複雑な動きを求められるスポーツや運動(ダンスなど)が苦手
ASDの可能性がある子どもは、ASDの特性上、自分から悩みを打ち明けることが難しいかもしれません。そのため、親御さんは、次のようなことを心がけるとよいでしょう。
- 何か違和感があるときに気軽に相談できる相手を作っておく(地域の保健師、かかりつけ医、保育士・幼稚園教諭・学校の先生など)
- 後述するサポート団体を積極的に利用する
③「パートナー、夫婦」の場合
パートナーと付き合ってから、または共同生活を始めてから、相手のことをASDかもしれないと思うケースもあります。
一緒に生活を送る中で、「この人は少しずれているかも?」と感じるシチュエーションが頻繁にある場合は、ASDの可能性があるかもしれません。
具体的には、次のようなシチュエーションです。
- 自分の気持ちを伝えても、相手の表情は変わらない。考えていることが全くわからないときがある
- 妥協してほしいと思っても、譲ってくれない
共同生活を送る上で、パートナー同士での理解は大事なことです。
相手も、心の中では「自分には何か特性があるのかも」などと思っている可能性もあります。第三者機関や専門家に相談をしてはいかがでしょうか。
自分が(ある人が)ASDかどうかは医師だけが診断できる
「ある人がASDかどうか」は、病院(医師)のみが診断できます。
①病院探し
自分、ご家族(お子さん・配偶者など)、恋人などがASDかどうかを知りたい場合は、まずは、発達障害の検査ができる精神科を探すところから始めましょう。
なかなか見つからない場合は、お住まいの地域の保健所、発達障害者支援センター、精神保険福祉センターに電話やwebで問い合わせましょう。
②事前準備
診察の予約が取れたら、検査の前の事前準備として、ご自身の状態や困りごとを伝えやすいように、メモを準備するなど工夫をするとよいでしょう。
メモの具体的な内容としては、次のようなものが考えられます。
- 仕事上で特に指摘されるミスや言動
例)「話を聞いていますか?」と言われる - 対人関係でよく苦労すること
例)「ノリが悪い」と指摘される - 周りの人からよく言われる言葉
例)「マイペースだよね」
メモのフォーマット例として、鳥取大学医学部の井上雅彦教授が監修した「わたしのトリセツ」というものがあります。簡単に使えて便利ですので、ぜひ参考にご覧ください。
③診察時には、パートナーや家族の同伴がオススメ
ASDの診断を受ける際は、パートナーや家族の同伴を病院から勧められるケースも多いです。
ASDの可能性のある人の同伴者からの情報や、一緒に生活を送る中で相手に感じていた「ズレ」は、重要な情報となります。
特に親御さんの同伴は、生育歴の確認のために大切です(母子手帳の持参を求められることもあります)。
その上で、同伴者が隣にいると、受診する人も心を落ち着かせて診断に臨むことができるでしょう。
④特に子どもを診てもらう場合
特に子どもがASDの診断を受けるかどうかは、一般的には親が判断することになるでしょう(また、診察に関連して「親が話すこと」も多いはずです)。
親御さんの中には、「診断は受けさせたいけれど、実際に我が子が発達障害だとしたら、私はすぐには受け入れられないかもしれない」と不安な人も少なくありません。
ASDの確定診断が出た場合、親御さんの方が、我が子の将来を心配する気持ちと現実を受け入れる気持ちなどが混同して、パニックになることもあるようです。
しかし、お子さんや親御さんをサポートする団体などはたくさんあります。
お子さんの発達障害を受け止められるようになる人もおりますので、サポート団体などの利用は、積極的に検討してみてください。
特に「子どもの発達障害(ASD)」について相談できるところとしては、「児童発達支援(児発)」や「放課後等デイサービス(放デイ)」などがあります(お近くの団体は、ネット検索などで見つかります)。
障害のある児童が通所し、日常生活における基本的動作の指導、自活に必要な知識や技能の付与または集団生活への適応のための訓練を行う施設です。(参考:独立行政法人福祉医療機構WAM NET「児童発達支援センター 」)
学校通学中の障害児が、放課後や夏休み等の長期休暇中において、生活能力向上のための訓練等を継続的に提供することにより、学校教育と相まって障害児の自立を促進するとともに、放課後等の居場所づくりを行います。(参考:独立行政法人福祉医療機構WAM NET「放課後等デイサービス」)
⑤病院での検査の前に、カウンセリングやサポート団体への相談もアリ
「医療機関での検査には抵抗がある(ASDであることが確定することが怖い)」と感じる人は、発達障害と確定していなくても利用できる専門機関やカウンセラー(臨床心理士・公認心理師)への相談をオススメします。
相談では、「検査・診断を受けるべきかどうか」を話すことができます。
結果として「検査は受けない」と決めた場合でも、特性・思考・言動など、「生きづらさ」を軽くしていくためのアドバイスを受けることができます。
一般論としては、ASDの特性が実際にある(関係する)かどうかに関わらず、「悩み事」は、専門的な知識を持つ人に相談した方が解決しやすくなります。
ASDの特性上、言語を介したやり取り(相談)が苦手で、ストレスになる人もいらっしゃいます。
しかし、「発達障害に関する相談を行っているところ」は、そうした「苦手」に理解があります。
ぜひ、相談先を探してみてください。
⑥診断が出たらショックを受けそうな人・受けている人へ
ASD などの発達障害がある人は、生きづらさを感じることが多いです。
理由としては、仕事やプライベートで、「失敗」や「できないこと・苦手なこと」そのものや、失敗・苦手への周囲からの指摘や注意が続くからです。
ASDの確定診断をポジティブに捉える人は、珍しくありません。
それは、失敗や苦手の原因がわかることで、次のように思うからです。
- 「ああ、今までの生きづらさは、先天的なモノだったんだ」
- 「やっと原因がわかって、ホッとした」
しかし一方で、「生きづらさ」を感じている中で、「医療機関の検査を検討すること」、「検査の結果、自分に障害があると確定すること」が、さらに大きな負担やショックとなる人も少なくないことも事実です。
他に、次のようなことを思う人もいるでしょう。
- 「もっと早く知っていれば、対策も早く考えられたのに」
- 「今までの苦労はなんだったんだろう」
ASDだとわかったのならば(自己受容までのプロセス)
診断を受けた後に、「自分はASDだったんだ」と落ち込む人は少なくありません。
筆者である私も、自分が発達障害であると知ってから、何日間も落ち込んでいました。
「そんなはずはない!」と自分の発達障害を認めたくない気持ちも湧いてくるかもしれません。
過去の失敗やトラブルとASDの関連を考えて、頭が混乱する人もいます。
しかし、ASDの特性には、対策もたくさん考えられています。
「自分の特性」との適切な付き合い方がわかれば、特性に伴う苦労を減らしたり、逆に特性を活かして私生活や職業生活を営んだりすることもできます。
そうするうちに、「自分とASD」のことを、徐々に受け入れられるようになると思います。
ASDの特性を理解した生活の例
- 自分の苦手とする行動をサポートしてくれる人(家族・パートナー・友人など)を頼る
- 職場や学校以外で、自分が落ち着ける場所(カフェや公園など)を見つける
- サポート団体や医療機関などを積極的に利用する(頼れる場所・相談できる場所はたくさんあります。また、家族や友人以外にも、一緒になって考える人はたくさんいます)
- 特に仕事との付き合い方や適職については、下記コラムで紹介しています。よければご覧ください。
ASDによる二次障害
ASDに限らず、発達障害の特性に関連して、メンタルダウンや行動力の低下が起きる場合があります。
この状態が続くと、精神疾患などの「二次障害(発達障害という一次的な障害に関連して起きる二次的な問題)につながることがあります。
代表的な二次障害には、以下の病気・行動があります。
- うつ病
- 不安障害(強迫性障害、パニック障害)
- 摂食障害
- 依存症(アルコール、薬物、ギャンブルなど)
- 睡眠障害
- 不登校
- ひきこもり
- 反社会的行動
二次障害の前兆として、食事が取れなくなる(取りすぎる)、眠れなくなる(寝すぎる)、 常に不安な気持ちになるなどがあります。
ASDの人が、社会人になってから二次障害を引き起こすケースは多く存在します。
その代表的な原因に、「周りの同期や同僚が当たり前にできることが、自分は全くできない」があります。
誰しも、社会生活に慣れるまでは一定の時間を要します。
しかし、ASDの人は、特性によって、同じミスや失礼に当たるコミュニケーションを何度も繰り返す傾向があります。
これらは、特性由来の失敗ではあるものの、周囲からは「仕事をなめている」「やる気を感じられない」という厳しい目で見られることになりがちです。
「自分にできることはない」と過度に自信を喪失して、自己肯定感が低下すると、二次障害としての精神疾患などにつながるリスクが高まります。
発達障害の二次障害の詳細は、下記コラムに記しています。よければご覧ください。
ADHDやLDなど、他の発達障害の併存
ASDの人は、他の発達障害のADHD(注意欠如・多動症・衝動性)やSLD(限局性学習障害)も併存していることがあります。
ASDの特性以外に、ADHDの特性(多動性など)やSLDの特性(文字の読み書きが困難など)もあるということです。
この場合は、対策・対応も、複数の特性に向けて同時進行で行う必要があります。
理想的な対応は、後述するサポート団体を利用しながら発達障害由来のストレスの回避方法を身につけたりして、健康的な生活を送ることです。
二次障害もある場合は、病院やそれぞれの状態のサポート団体に相談できます。
ASDの人を身近でサポートする人へ
ASDの人と近くで生活されている人や、非専門家の立場で当事者をサポートしている人(ご家族、友人、職場の人など)に向けて、考え方などのアドバイスをお伝えします。
①相互の理解を深めましょう
家庭や職場など、ASDの人と過ごす生活では、当事者に対して「どのように接すればいいのか」と感じることがよくあるでしょう。
何かのサポート・支援をしたときに、相手が無表情で何も感謝の言葉がないときなどは、気分を害するかもしれません。
大事なのは、相互の理解を深めることです。
どのようにしたらストレスが少ない生活を一緒に送れるのか、(専門家も交えつつ、)話し合う時間を設けてみましょう。
「どんなことをされたら嬉しいのか」「苦手なことはなんなのか」と相互の理解を深めていけば、落とし所が見つかるはずです。
また、ASDの人は、特性上、感情表現が苦手なことがあります。表情だけでなく、一つ一つの言葉に寄り添ってみてください。
②サポート団体を積極的に利用しましょう
ASDの人のサポートは、「チームで支える」という意識が重要です。
逆に言うと、「ASDの当事者を、私一人で(家庭だけで、上司である自分だけで)なんとかしないと」と考えるのはオススメできません。
各分野(ASD、日常生活、人間関係、コミュニケーション、仕事など)の専門的な知識を有するメンバーとチームで支援することで、当事者もご家族も、「無用な苦労やすれ違い」などから解放され、心身ともに充実した生活を送りやすくなります。
理想的なチームメンバーの具体例には、医師やカウンセラーのような専門家、自治体、発達障害のサポート団体、親族、同僚などがあります。
ASDの人の適職探しは、就労移行支援事業所の利用がオススメ
ASDの人で、現在離職中だったり、退職を検討していたりするなら、「再就職した職場での人間関係」のために、就労移行支援事業所の利用もオススメです。
就労移行支援事業所とは、「病気や障害のある人の(再)就職・転職を援助する福祉サービス」のことです。
各事業所は、公的な認可を得た民間事業者が運営しています。そのサービス内容は多岐にわたります。多くの事業所で、「職場でのコミュニケーション方法」を学ぶことができます。
- 職場での人間関係を良好に築く・保つ方法の習得
- 転職のための知識・技能の習得
- 履歴書・経歴書・エントリーシートの作成支援
- メンタル面のサポート
- 再就職・転職先候補や、職場体験実習(インターン)の紹介
- 転職後の職場定着支援
利用の可否は、お住まいの自治体が、下記などに基づいて判断します。
- 身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、難病などがある
- 18歳以上で満65歳未満の人
- 離職中の人(例外あり)
※上記を満たすなら、障害者手帳を所持していなくても利用可能です。
ご自身が利用できるかどうかは、自治体や、各就労移行支援事業所に相談してみましょう。
就労移行支援についてさらに詳しく知りたい人は、下記コラムをご覧ください。
ASDに関する正しい情報収集の仕方
ASDなどの発達障害は、メディアやSNSでも扱われるワードとなりました。多様性の時代ということもあり、少数派である人々の悩みや心配事が、多くの人の目に届くようになりました。
しかしその反面、信憑性のない情報が大量に流れているのも事実です。
「正しい情報」は、一般論としては、次のような団体に相談すると、参考となる書籍などを紹介してもらえます。
- 公的な団体
- 発達障害のサポート団体(発達障害者支援センターなど)
- 標準医療を行う病院
- 臨床心理士・公認心理師
自分や親しい人が発達障害であるとわかった直後に、冷静に正しい判断をすることは難しい場合もあるでしょう。
まずは時間をゆっくりとかけて、気持ちを落ち着かせましょう。そして、不確かな情報や、心ない言葉に振り回されないようにして、特性を受け止めていきましょう。
ASDのお悩み解決のためのお役立ち情報
このウェブサイト(就労移行支援事業所・キズキビジネスカレッジ(KBC)のウェブサイト)では、ASDや発達障害全般について、お悩みを解決するためのコラムを多数公開しています。
それぞれのコラムには、対策に加えて相談先も掲載しています。以下、悩み別に紹介しますので、気になったものがあればぜひご覧ください。
①「ASDと仕事」について
ASDの人に向いてる仕事はもちろんあります。この記事では、ASDの人が職業を考えるときに知っておきたい長所と短所、向いてる仕事と向きづらい仕事、適職を探す方法などを解説します。
実際に10か月の休職を経験した筆者の視点から、有意義な休職中の過ごし方を徹底解説します。また、休職中の過ごし方と併せて、復職後の人事の対応も紹介。休職中の過ごし方を知りたい人は、ぜひご一読ください。
「発達障害の特性に関連して、退職するかどうか悩んでいる、退職したら再就職できるのかも不安」という人に向けて、退職の前後にできること・しておきたいことを徹底解説します。
発達障害の人が転職を成功させるコツは、特性を理解した上で適切な専門機関を利用することです。この記事では、発達障害の特性理解に役立つ方法を事例つきで解説します。
就職の際に「障害者手帳を持つ人」が利用できる「障害者雇用(障害者枠)」について、概要、現状、条件、相談先などを徹底解説します。
②「ASDと家庭・学校生活」などについて
キズキ共育塾コラム「発達障害」のカテゴリー
主には親御さんに向けて、「発達障害と勉強」「発達障害と受験」「発達障害のお子さんに親ができること」などを紹介しています。(キズキ共育塾は、キズキビジネスカレッジ(KBC)と同じく、株式会社キズキが運営する完全個別指導塾です)
③「ASDとお金」について
「傷病手当金とは何か?」「うつ病の人が傷病手当金を受給できる条件」「傷病手当金と障害年金の併用」「うつ病の人が受けられるその他の経済的支援」「再就職や転職のためのサポート」などを紹介します(うつ病の人に向けた記事ですが、傷病手当そのものの解説は参考になると思います)。
病気や障害があると受給できる可能性がある「障害年金」について、概要、障害年金受給のための条件・金額、障害年金の相談先・支援制度などをQ&A形式でまとめて紹介します。
まとめ:お悩みをあなただけで抱え込まないでください
以上、ASD(自閉スペクトラム症)の概要・よくある悩み事・相談先・関連情報をまとめて紹介しました。
最初にお伝えしたことの繰り返しですが、ASDについての相談先や特性はたくさんあります。お悩みをあなただけ(ご家族だけ)で抱え込まず、ぜひ、サポート団体を利用してください。この記事が、あなたの「安心」や「次の一歩」に繋がったなら幸いです。
自分が(家族が、周りの人が)ASDかどうかを知りたいです。
「ある人がASDかどうか」は医師だけが診断できます。気になるなら、病院で検査を受けましょう。ただし、「検査を受けるべきかどうか」は各種サポート団体に相談できます。詳細はこちらをご覧ください。
ASDの特性には何がありますか?
監修キズキ代表 安田祐輔
発達障害(ASD/ADHD)当事者。特性に関連して、大学新卒時の職場環境に馴染めず、うつ病になり退職、引きこもり生活へ。
その後、不登校などの方のための学習塾「キズキ共育塾」を設立。また、「かつての自分と同じように苦しんでいる人たちの助けになりたい」という思いから、発達障害やうつ病などの方々のための「キズキビジネスカレッジ」を開校。一人ひとりの「適職発見」や「ビジネスキャリア構築」のサポートを行う。
【著書ピックアップ】
『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(2021年12月、翔泳社)』
Amazon
翔泳社公式
【略歴】
2011年 キズキ共育塾開塾(2024年10月現在11校)
2015年 株式会社キズキ設立
2019年 キズキビジネスカレッジ開校(2024年10月現在6校)
【その他著書など(一部)】
『学校に居場所がないと感じる人のための 未来が変わる勉強法(KADOKAWA)』『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(翔泳社)』『暗闇でも走る(講談社)』
日経新聞インタビュー『働けたのは4カ月 発達障害の僕がやり直せた理由』
現代ビジネス執筆記事一覧
【メディア出演(一部)】
2022年 NHK総合「日曜討論」(テーマ:「子ども・若者の声 社会や政治にどう届ける?」/野田聖子こども政策担当大臣などとともに)
サイト運営キズキビジネスカレッジ(KBC)
うつ・発達障害などの方のための、就労移行支援事業所。就労継続をゴールに、あなたに本当に合っているスキルと仕事を一緒に探し、ビジネスキャリアを築く就労移行支援サービスを提供します。2024年10月現在、首都圏・関西に6校舎を展開しています。トップページはこちら→