ADHDのある大人の仕事対策 仕事を続けるコツを解説
こんにちは。就労移行支援事業所・キズキビジネスカレッジ(KBC)です。
仕事の悩みを感じやすい大人のADHD。男性に多いと言われることもありますが、もちろん女性もいます。
このコラムでは、ADHDの人が仕事を続けるコツ、配慮を得る方法、仕事探しのポイント、適職、受けられる支援など、「仕事の悩み」を解決する方法を徹底解説します。ADHD傾向の同僚や部下を持つ人にとっても有益な内容を含んでいるため、そういった方もぜひ参考にしてください。
ADHDの大人に向いてる仕事については、以下のコラムで解説しています。ぜひご覧ください。
私たちキズキビジネスカレッジ(KBC)は、ADHDのある大人のための就労移行支援事業所です。
- 病気や障害があっても、KBCでは初任給は38万円も
- 通常52%の就職率が、KBCでは約83%
- 通常約1年半かかる就職内定が、KBCでは平均4ヶ月
新宿・横浜・大阪に校舎があり、障害者手帳がなくても自治体の審査を経て利用することができます。遠方の方は、日常的にはオンラインで受講しながら(※お住まいの自治体が認めた場合)、「月に1回、対面での面談」を行います。詳しくは下記のボタンからお気軽にお問い合わせください。
目次
大人のADHDとは?
この章では、ADHDの主な特性・長所、大人のADHDについて簡潔に解説します。(参考:岩波明『大人のADHD:もっとも身近な発達障害』、榊原洋一『図解 よくわかる大人のADHD』)
大人のADHDの概要
ADHDは、以前は子ども特有の発達障害と考えられていました。しかし、2013年にアメリカ精神医学会の定める『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』で成人のADHDが規定されたことで、近年では職業や仕事の進め方に悩んでいる大人のADHDが注目されています。
大人のADHDとは、生まれたときからADHDだったが、大人になってからADHDだと気づいた状態のことを指します。「大人になってからADHDになった」わけではない点に注意が必要です。
就職後に正確な処理・確認作業・管理業務を求められるようになったことで、ADHDの特性があることに気付いたという人は少なくありません。
現段階で診断を受けておらず、「自分もADHDではないか」と疑っている方は、「発達障害者支援センター(全国の一覧はこちら)」のような支援機関に相談することをオススメします。必要であれば、病院・クリニックでの検査も受けましょう。
「大人のADHD」について詳しく知りたい人は、下記コラムをご覧ください。
ADHDの2つの特性
ADHDには大きく分けて2つの特性が見られます。
- 不注意…忘れ物やミスが多く、確認作業が苦手。段取りが下手で先延ばしにしやすい
- 多動・衝動性…気が散りやすく、些細なことで口論になるなど、トラブルを起こしやすい
※特性の程度や現れ方には個人差があります。
ADHDに加えて、ASD(自閉スペクトラム症)やSLD(限局性学習障害)を併せ持つ人もいます。気になる方は、下記コラムをご覧ください。
ADHDの大人が仕事で活かせる長所
ADHDの特性の中には、業務内容とマッチすることで活かせる長所が複数あります。
- 発想力に富んでいてアイディアが豊富
- 好奇心旺盛で新しいことにチャレンジできる
- 興味のある分野には没頭することができる
- 決断力があるのでスピーディーに物事を判断できる
- 感覚に優れていて周囲の環境に敏感
※一般論であり、「ある個人」に全てが該当するわけではありません
特性に合う仕事や適職はあります。また、後で紹介するような「コツ」などを実践しながら社会で活躍することも可能です。ご安心してください。
補足:女性のADHDについて
ADHDの割合は、2000年前後には「男性:女性=2.5〜5.1:1」と、男性のケースが多く報告されてきました。
しかし、2010年以降は「女性のADHD」にも注目が集まるようになり、2013年の『DSM-V』では、成人期は「男性:女性=1.6:1」となっています。
依然として男性が多いことは事実です。しかし、昔ほどには「ADHDには男女差がある」と言えないのです。 (参考:吉益光一「注意欠如多動性障害(ADHD)の疫学と病態:遺伝要因と環境要因の関係性の視点から」)
それでも、「ADHDの女性はかなり少ない」という偏見は根強いようです。こうした偏見によって、ADHDの女性(に特有)の悩みや、ADHDの女性へのフォローが見過ごされている可能性については考えなくてはならないでしょう。
この記事を読んでいるあなたが女性なら、そういう偏見による苦労もあったかもしれません。
この記事でご紹介する、「仕事の現場で実践できる対策や仕事術」などは、基本的には、男女問わずに実践できるものが多いです。その上で、「特によくお聞きする、女性ならではのお悩みや対策」も紹介しますので、ぜひ、参考にしてください。
ADHDの大人に向いてる仕事10選と向いてる働き方
ADHDの大人に向いてる仕事はたくさんあります。この章では、ADHDの大人に向いてる仕事と、向いてる働き方を紹介します。
ご紹介する適職や不向きな仕事は、あくまでも参考例です。繰り返しになりますが、ADHDの特性には個人差があります。各職業の環境、職場や業務内容によって、「実際のあなた」に合うかどうかは異なります。
就労移行支援施設や就職エージェントなどに相談しながら検討することで、「自分に向いている仕事」が見つかるはずです。
ADHDの大人に向いてる仕事は、以下のコラムで解説しています。ぜひご覧ください。
ADHDの大人に向いてる仕事10選
ADHDの大人に向いてる仕事を判断するときは、以下のように、「不注意傾向と多動・衝動性の傾向のどちらが強いか」で分けて考えるとよいでしょう。
- デザイナー
- アニメーター
- イラストレーター
- 営業職
- ジャーナリスト
- カメラマン
- 起業家
- プログラマー
- エンジニア
- 研究者
一般論としては、「作業の正確さ」よりも、「アイディアや独創性」が求められる仕事の方がマッチしやすいです。また、ADHDの大人は、自分の興味・関心と職種の専門性が合致したときに活躍しやすいと言われています。
④ADHDの大人に向いてる働き方
ADHDの大人には「自由度の高い働き方」がマッチしやすいです。特に、多動・衝動性が強い人ほど、柔軟性の高い就労形態の方が合うでしょう。
具体的には、以下の3つの働き方がマッチしやすいと考えられます。
- フレックス制
- 裁量労働制
- フリーランス
始業と終業の時間を固定せずに、労働者本人にゆだねる働き方です。一定期間における総労働時間を定めることで、その範囲内であれば1日単位での始業と終業の時間は労働者本人で決めることができます。例えば、今日は朝9時から夕方6時まで働く、明日は昼12時から夜9時まで働く、といったような働き方が可能です。(とはいえ完全に自由ではなく、必ず労働していなくてはならない「コアタイム」が設けられていることが多いです)
実際の労働時間ではなく、残業時間・残業代も含めてあらかじめ定められた労働時間分の給料が発生する、みなし残業制の一種です。労働者の裁量で残業や業務の進め方を決められます。主に経営に関わるような企画業務や、保守開発といった技術性を求められる専門業務で適用されることが多いです。
上記の中でも、フリーランスが最も自由度が高いです。最近ではクラウドサービスの浸透によって、時間や場所を気にせずに働ける環境が整っています。ただし、社会保険の加入手続きや法人税の申告などは自分でしなくてはならない、収入が安定しない可能性があるなどの注意点もあります。
以上、「ADHDの大人の適職」の概要をご紹介しました。詳細は、下記コラムをご覧ください。
ADHDの大人に向いてない仕事3選
この章では、ADHDの大人に向いてない仕事を紹介します。
ADHDの大人には、スケジュール管理や事務能力が求められる仕事は不適だと考えられます。
- 秘書
- 経理
- 総務
ADHDの大人が仕事を続けるコツ6点
ADHDの大人が仕事を長続きさせることはもちろん可能です。そのためのコツもあります。このコラムでは、要点のみを6点だけ紹介します(参考:司馬理英子『大人の発達障害 アスペルガー症候群・ADHD シーン別解決ブック』、對馬陽一郎『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の方が上手に働くための本』)。
「ADHDがあっても、仕事を続けることはできる」という安心材料にしていただいた上で、「実際のあなたに有効なコツや考え方」などは、後述する支援団体などと話をすることで、具体的に見つかっていくと思います。
コツ①自分の特性を理解する
ADHDの大人は、まずは自分の特性を理解することから始めましょう。一口にADHDと言っても、特性には個人差があります。特性が現れるシチュエーションや、それが仕事にどこまで影響するかは人それぞれです。「あなた自身の特性を知ること」が大切です。
特性の理解は、仕事以外の場面で配慮を得たいときにも役立ちます。助けが必要なときに困りごとや苦手なことを具体的に伝えられると、適切なサポートを受けやすくなります。
コツ②病院やカウンセリングを利用する
ADHDの大人は、定期的に病院やカウンセリングを利用しましょう。特性や困りごとについての専門的なアドバイスを受けられます。
相談やアドバイスを通じて、前項の「自分の特性についての理解」も深まります。また、悩みを話すだけでも精神的に楽になれるはずです。
状況によっては、薬の服用を提案されることもあるでしょう。その場合は、持病や既往歴などをしっかり伝えた上で、医師とよく相談するのがベターです。服用する場合は、用法・用量に注意して、忘れずに服用するようにしましょう。
コツ③支援機関に相談する
病院やカウンセリング以外にも、ADHDの大人が利用できる支援機関はたくさんあります。仕事に限らず、日常生活に関することでも、悩みがあるなら支援機関に相談しましょう。
相談のみであれば、基本的に障害者手帳は必要なく、無料で支援を受けられるところが多いです。後述する「就労移行支援事業所」のように、就職の支援やインターンの紹介などをしているところもあります(私たちキズキビジネスカレッジも就労移行支援事業所のひとつです)。
コツ④上司・同僚に相談する
仕事を長く続けるためには、職場での人間関係が重要です。特にADHDなどの発達障害がある人は、特性について、上司や同僚の理解を得ておくと仕事がしやすくなるでしょう。
とはいえ、必ずしもADHDのことを伝えなくてはならないわけではありません。伝えない方が(周囲に知られていない方が)、仕事がしやすいという人もいます。その場合は、ご自身の性格や得意・不得意と絡めながら、あなたの無理のない範囲で相談してみてください。
「具体的にどのように相談するか」そのものも、③④のサポート団体などと相談できます。
コツ⑤自力でできる仕事術を取り入れる
自力でできる仕事術を身につけることも効果的です。具体的には、以下の仕事術がADHDの大人に役立つと言われています。
- ADHDの大人が自力でできる仕事術
- 整理整頓だけする時間を設定する
- 持ち物などは前日に準備する
- 徹底的にリスト化する
- ゲーム要素を取り入れる
- タスク管理のアプリやツールを利用する
様々な方法を試しつつ、あなたの特性に合わせて仕事術をカスタマイズしましょう。ADHDの仕事術を詳しく知りたい人は、以下のコラムをご覧ください。
コツ⑥特に女性の場合:転職・就職の際は、自分の「特性」を活かすことを意識する
現実として、「女性ならではとみなされがちな気配り(いわゆる女性らしさ)」を求められる職場はまだあります。
「いわゆる女性らしさ」はADHDの特性と反していることも多いです。そういう職場だと、抜け漏れが多いことで「気が利かない」と言われる(=低い評価を受ける)かもしれません。
職種や職場環境を考えるときには、「自分の性別を職場にマッチさせる」のではなく、「自分の特性を職場にマッチさせる(自分の特性を活かせる職場を探す)」方がよいでしょう。
また、そうした「女性だから職場や社会で求められること」への対応については、ADHDとは別の観点として、女性支援団体の相談やカウンセリングを活用する方法もあります(大阪府の例として、「ドーンセンター」など)。
※上記をお読みになって、「女性に『いわゆる女性らしさ』を求める社会・職場を変えなくていいの?」などとお思いかもしれません。その観点については、この記事の直接的な趣旨に鑑みて省略している旨、ご理解いただければ幸いです。
ADHDの大人に多い仕事の悩み
ADHDの大人が感じやすいのは「仕事の悩み」です。とりわけ、以下のような悩みを抱えやすいと言われています。
- 整理整頓がうまくできない
- 記入漏れなどのミスや忘れ物が多い
- 人の話をしっかり聞くことが苦手(※)
- スケジュールの先延ばしや遅刻をしやすい
- タスク管理がうまくいかない
- 気が散りやすくて集中できない
- 興味のあることしかする気になれない
- 自分に合う働き方や向いている職業がわからない
- 誰に(どこに)相談すればよいかわからない
KBCの実感として、人の話を最初から最後までしっかり聞かず、かいつまんだキーワードだけでストーリーを自分で作って理解する方がよくいます。そうすると、話者との認識にギャップが生じ、ビジネス上のミスコミュニケーションで「なんで聞いてないの?」と怒られることにつながります。
上記からもわかるように、「不注意」の特性から生じる悩みが大半です。作業の正確性はどの仕事でも求められがちなため、不注意の特性と噛み合わず、転職を繰りかえしているという人も多いでしょう。
結果として「適職が見つからない」「誰に頼っていいかわからない」という困りごとを抱えるADHDの大人は少なくありません(支援機関については詳述します)。
なお、上記の悩みや対策の詳細は、別のコラムをご覧ください。
補足:ADHDの大人の「女性」に多い悩み
「ADHDに関係する悩みには、現実として男女差がある」ということは、KBCの実感としてあります。以下、特に女性の(女性ならではの)よくあるお悩みを紹介します。
前章も同じなのですが、「よくある悩み」ということは、対策などもたくさんの人が考えたり試したりしているということです。次のようなお悩みに共感する方は、ぜひサポート団体などと話をしてみてください。
- 「いわゆる女性らしさ」「女性ならではの(=細やか・丁寧な)気配り」を求められる職場で、低い評価を受けることがある
- ADHDの特性に本人が悩んでいても、周囲から「天然」「おっちょこちょい」などと(特に学生のうちは)可愛らしい特徴として評価されていると、真剣に受け止めてもらいにくい
- 家事ができないことで悩んでいても、悩んでいる場が「家庭内」であると、「仕事の場」と比べて支援を受けにくい
- 育児の悩みを発達障害に詳しくない人に相談しても、「お母さんなんだからちゃんとしないと」と母親としての意識不足を指摘されるだけで根本的な解決にならず、子どもに影響することがある(食べさせてはいけないものを食べさせた、子どもの怪我や病気に気づきにくい、学校の提出物がいつも遅れるなど)
※上記にお悩みの男性もいるかもしれません。その上で、上記は「現在の現実として、女性に多いお悩み」としてご紹介している旨、ご理解いただければ幸いです。
ADHDの大人が職場で配慮を得るための3ステップ
ここではADHDの大人が職場で配慮を得るための、具体的な手順を紹介します。就業先の慣習やルールにもよりますが、以下の3ステップが一般的です。
- 専門医から診断を受ける(「診断書」は必要ない場合もあります)
- (支援団体とも話しながら)困りごとや職場で得たい配慮を明確化する
- 上司や人事部門に配慮を得たい旨を伝えて相談する
配慮を得るときに意識しておきたいポイントは、上司や人事部門が知りたいのは、「ADHDの一般的な特性」ではなく、「あなた個人の困りごとや苦手なこと」だということです。
医師やサポート団体などとも話しながら、「あなたのこと」をどう伝えるかを考えていきましょう。
また、お勤め先に産業医がいれば、産業医を交えて話すのも一つの手段です。
労働者の健康管理に関して専門的な立場から助言や指導を行う医師のこと。産業医は労働安全衛生法に基づいて、常時50人以上の労働者を使用する事業所に1人以上、3,000人超の事業所では2人以上が配置されています。診察にあたって料金は発生しません。 (参考:厚生労働省「産業医について」)
ADHDの大人の仕事探しのポイント4点
ADHDの傾向がある人が仕事探しをする場合、大切にしたいポイントが4点あります。
順に説明していきます。
ポイント①二次障害がある場合、まずは治療に専念する
二次障害のある方は、仕事探しの前に、治療に専念することをオススメします。就職活動にはある程度の体力が必要です。健康な状態にあることで、調子を崩さず、就職活動も、就職してからの労働も、スムーズに進みます。
逆に、面接で元気がなかったり、顔色が悪かったりすると、採用側に「雇用しても大丈夫だろうか」という懸念も生じるでしょう。就職が決まった場合も、いわゆる燃え尽き症候群のように疲れがどっと出ることがあります。体調は万全に整えておきましょう。
ポイント②就労移行支援所を利用する
発達障害者が利用できる支援機関はたくさんあります。
その中の一つ、就労移行支援事業所では、就職に向けたスキルの講習や面接指導などを行っています。サービス内容は、下記のように多岐に渡ります。
- 転職のための知識・技能の習得
- 履歴書・経歴書の作成支援
- 職場体験実習(インターン)の紹介
- 転職先候補の紹介
- 転職後の職場定着支援など
利用の可否は、お住まいの自治体が、下記などに基づいて判断します。
- 身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、難病などがある
- 18歳以上で満65歳未満の方
- 離職中の方(例外あり)
※上記を満たすなら、障害者手帳を所持していなくても利用可能です。
- お住まいの市区町村役所
- 各就労移行支援事業所
就労移行支援事業所の詳細は、下記コラムをご覧ください。
ポイント③転職エージェントを利用する
民間の転職エージェントを利用するのも、よくある方法です。就職先にADHDのことを明かさない「クローズ転職」での利用はもちろん、近年では、(発達)障害者に特化した就職支援を行っているエージェントもあります。
転職エージェントは在職中・休職中・退職後のいつでも利用できます。いくつか話をしてみて、ご自分に合いそうなところを(並行的に)利用してみましょう。
ポイント④一般論ではなく、自分に合っているかどうかを判断基準にする
仕事探しをするときには、一般論ではなく、「自分に合っているかどうか」を判断基準にして検討しましょう。
求人情報を見ていると、条件のよさに目を奪われてしまうこともあると思います。ですが、ご自身に合う職場でこそ、長く働き続けることができます。
「合う」かどうかは、ADHDの特性に限らず、興味・関心、得意・不得意、スキル、職場環境、通勤手段、人間関係など、様々な観点が考えられます。
条件「だけ」に気を取られずに、「自分のこと」を意識しましょう(前述の就労移行支援事業所や転職エージェントでは、そういうことも相談できます)。
ADHDの大人の働き方の選択肢:障害者枠・一般枠
この章では、ADHDの大人の働き方の選択肢について解説します。
①ADHDの大人の働き方には、「障害者枠」という選択肢もある
ADHDの大人の働き方には、「障害者枠」という選択肢もあります。
障害者枠とは、「障害者を対象とする求人・雇用枠」のことです(障害者枠ではない求人・雇用は「一般枠」と呼ばれています)。一般的には、障害者枠で働くためには、障害者手帳の所持が必須です。
障害者枠では、発達障害の特性や程度に応じて、業務内容や業務量への配慮を得ながら働くことができます。一方で、障害者枠は、一般枠に比べると、給与水準や昇進などのキャリア面において、待遇が低い傾向にあります。
②エントリーごとに障害者枠・一般枠を選べる
障害者枠を選択肢に入れた就職活動では、次のように柔軟な求人探し・エントリーが可能です。
- 障害者枠の求人に限ってエントリーする
- 基本的には障害者枠の求人にエントリーしながら、向いていそうな一般枠の求人があればそれにもエントリーする
- 基本的には一般枠の求人にエントリーしながら、向いていそうな障害者枠の求人があればそれにもエントリーする
③支援団体を利用することで、「あなた向きの働き方」がわかる
一般枠と障害者枠のどちらがよいかは、一概には言えません。「実際のあなた」と各職場の相性などによるからです。また、障害者枠と一般枠では、エントリーシートや面接などでアピールする内容も変わります。
以上を踏まえて、就職・転職活動をどのように進めていくかについても、後述する支援団体と話をすることで、スムーズに進むはずです。
障害者枠に興味のある方は、ぜひ、下記コラムを読んでみてください。
ADHDの大人が退職を選択する前に選べる選択肢:異動・休職
ADHDの大人は、衝動性の特性も相まって、今の仕事をつい辞めたくなることが多いと思います。しかし、すぐに退職することは、あまりオススメできません。退職前にできる方策が、たくさんあるからです。
具体的には、①異動か②休職があります。
①異動
人事部門や支援機関に、異動(配置転換、転勤、時短勤務など)について相談しましょう。退職・転職しなくても、部署・担当業務・勤務場所などが変わるだけでも、大きな切り替えになります。特に「退職の経歴が増えるのは避けたい」という場合は、この方法がベターです。
職場として「今すぐの、本格的な対応」ができない場合でも、「一時的な対応」はできる場合もあります。
- 今すぐの転勤はできないが、一時的にリモートワークを行う
- 今すぐの異動はできないが、担当業務を同僚と交換する
②休職(二次障害がある場合)
ADHDの方は、二次障害で健康を損ねている人もいます。その場合は、退職の前に休職することをオススメします。
発達障害に伴って、うつ病や不安障害のような病気になったり、引きこもりになったりするなどの「困難」の総称。発達障害の人はコミュニケーションの困難や社会生活への不適応を感じやすく、ストレスが溜まりやすいと言われています。
勤め先によっては、休職中も、一定期間は給与が保障される場合があります(それ以外にも公的な経済支援を利用できる可能性もあります)。休職中には、転職に向けた準備をすることも可能です。すでに転職を検討しているという人も、まずは休職を取って、調子を整えながら判断するとよいでしょう。
休職については、次章で詳細に解説します。
ADHDの大人が休職する際の確認事項・手順・仕事復帰
ADHDの大人が二次障害に伴って休職するときの確認事項・手順・仕事復帰について、簡単に解説します。
①休職前の確認事項
休職の手続きを取る前に、以下の2つの事項を確認しておきましょう。
- 貯蓄などの経済面
- 就業規程の「休職中の給与支給」と「休職可能な期間」
心身の調子を崩しているときには休養を取ることが最優先ですが、経済的な不安があると落ちついて休めないかもしれません。休職に入る前に、貯蓄や休職中の給与支給の有無を確認しましょう。
休職中に給与が支給されなくても、傷病手当金のような支援を利用できる場合があります。
傷病手当金は、病気による休業中に、健康保険の被保険者とその家族の生活を保障するために設けられている制度。「病気やケガで勤め先を休んでいて、かつ給料の支払いがない」などの人が対象になります。受給額は、「それまでの給料」などによって変わります。 (参考:全国健康保険協会「傷病手当金」、「傷病手当金について」)
経済的支援の詳細は、下記コラムをご覧ください(※うつ病の方に向けて書いた記事ですが、各支援の内容はADHD(の二次障害)がある方にも参考になります)。
②休職までの手順
休職の手続きは、基本的に以下の4ステップに分かれます(お勤め先の就業規則などにもよります)。
- 専門医による診断書の発行
- 上司との面談
- 人事担当者との面談
- 休職申請書類と診断書の提出(※)
一般的には、休職申請書と併せて診断書も提出します。診断書は、病院に発行を依頼しましょう(診察料とは別に交付料金が掛かります)。診断書には相応の効力があるため、普通は休職が認められるはずです。
勤め先がいわゆる「ブラック企業」で、休職を渋られたり退職を迫られたりした場合には、以下のような相談先があります。
- 労働条件相談ほっとライン(厚生労働省の委託事業)
- 法テラス(国によって設立された法的トラブル解決のための「総合案内所」)
- 各市区町村役所が行う、法律やお悩みの相談会
③休職後の仕事復帰について
充分な休養を取って調子を取り戻してから現職に復帰する場合、一般的には、以下の3つの過程を辿ることになります。
- 医師から復職可能の診断を受ける
- 上司や人事担当者と業務について相談する
- 必要な人事書類を提出して復職する
休職に入るときと同様に、「復職可能」の旨が記載された診断書を人事部門に提出する必要があります。復職前に勤め先の産業医面談を受けるように言われることもあります。上司や人事担当者の指示に従いましょう。
現職への仕事復帰ではなく、転職を考える人もいるでしょう。基本的に、休職中の転職活動を禁止する規定はありません。医師や支援団体などに相談し、ご自身の体調を見ながら、少しずつ転職に向けて準備を進めていきましょう。
④現職復帰などをサポートする「リワーク」
休職からの現職復帰をサポートする、「リワーク(プログラム)」という仕組みがあります。
リワークの詳細は、下記コラムをご覧ください。
ADHDの大人が受けられる公的支援
この章では、ADHDの大人が受けられる公的な支援を紹介します。まだ診断を受けていない方は、「診断を受けた方がよいかどうか」も、①で相談できます。
①各種支援団体
ADHDの大人が相談できる支援団体として、有名なところでは以下があります。詳細は、各団体のリンクをご覧ください。
いずれも、基本的な相談だけなら「発達障害の診断書」は不要です(参考として、診断書発行のためには、通常は複数回の通院・診察が必要です)。
②障害者手帳
発達障害の方も、「障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳)」を取得することが可能です。
通常は、うつ病や統合失調症などの精神疾患によって、社会生活に困難を抱えている人に交付される手帳です。以前は、発達障害の場合は、二次障害である精神疾患に伴って交付されるケースが多かったようです。近年では、二次障害のない発達障害の方の手帳取得も見られます。
精神障害者保健福祉手帳があると、1級~3級の障害等級に応じて、以下のような支援を受けられるようになります。
- 自立支援医療制度による医療費の自己負担額軽減(通常の3分の1に軽減)
- 税金の控除(所得税、住民税のほか、場合に応じて贈与税なども)
- 公共サービス割引(公共交通機関の運賃や上下水道料金の割引)
基本的な窓口はお住まいの自治体の障害福祉課です。「取得すべきかどうか迷っている」という方は、前述の支援機関に相談できます。 (参考:東京都福祉保健局「自立支援医療(更生医療) 」、国税庁「No.1160 障害者控除」、国税庁「障害者と税」)
障害者手帳を取得するメリットの詳細は、下記コラムをご覧ください。
ADHDの同僚や部下を持つ方へ
この章では、ADHDの同僚や部下を持つ方に向けて、意識しておくとよいことを解説します。
発達障害の本人のみならず、周囲の方々も、「社内で解決しなくてはならない」「上司の自分がどうにかしなくてはならない」と抱え込まずに、専門家と話すことが大切です。
ADHDの大人を理解するには、「発達障害のある方の『困難』は、本人の努力だけではカバーしきれない面がある」ということを知っておく必要があります。「努力で解決できるはずだ」と決めつけずに、環境を整えたり、周囲の人と協調したりしてフォローすることが大切です。
とはいえ、「何をどのように配慮するべきかわからない」というお悩みもよくお聞きします。そのような場合は、ぜひ、前述の支援機関に相談してみてください。「職場としてのフォロー方法・対応法」などを、具体的に話し合えるはずです。
まとめ:ADHDでも自分に合った仕事術や適職は見つかりますので、安心してください
ADHDの大人は、作業の正確性やタスクの管理が苦手なため、仕事の悩みを抱えることが多いかもしれません。しかし、適職を見つけられれば、ADHDの特性を長所として活躍できる可能性は充分あります。
ぜひ、ADHDの悩みを一人で抱え込まずに、専門家に相談してみてください。利用できる支援団体はたくさんあります。
この記事が「大人のADHD」で悩む方の助けになれば幸いです。
大人のADHDの自分が仕事を続けるコツが知りたいです。
一般論として、次の6点が考えられます。(1)自分の特性を理解する、(2)病院やカウンセリングを利用する、(3)支援機関に相談する、(4)上司・同僚に相談する、(5)自力でできる仕事術を取り入れる、(6)特に女性の場合:転職・就職の際は、自分の「特性」を活かすことを意識する。詳細はこちらをご覧ください。
大人のADHDである自分が仕事探しの際に気を付けるべき点を知りたいです。
一般論として、次の4点が挙げられます。(1)二次障害がある場合、まずは治療に専念する、(2)就労移行支援所を利用する、(3)転職エージェントを利用する、(4)一般論ではなく、自分に合っているかどうかを判断基準にする。詳細はこちらをご覧ください。
監修キズキ代表 安田祐輔
発達障害(ASD/ADHD)当事者。特性に関連して、大学新卒時の職場環境に馴染めず、うつ病になり退職、引きこもり生活へ。
その後、不登校などの方のための学習塾「キズキ共育塾」を設立。また、「かつての自分と同じように苦しんでいる人たちの助けになりたい」という思いから、発達障害やうつ病などの方々のための「キズキビジネスカレッジ」を開校。一人ひとりの「適職発見」や「ビジネスキャリア構築」のサポートを行う。
【著書ピックアップ】
『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(2021年12月、翔泳社)』
Amazon
翔泳社公式
【略歴】
2011年 キズキ共育塾開塾(2023年7月現在10校)
2015年 株式会社キズキ設立
2019年 キズキビジネスカレッジ開校(2022年7月現在4校)
【その他著書など(一部)】
『学校に居場所がないと感じる人のための 未来が変わる勉強法(KADOKAWA)』『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(翔泳社)』『暗闇でも走る(講談社)』
日経新聞インタビュー『働けたのは4カ月 発達障害の僕がやり直せた理由』
現代ビジネス執筆記事一覧
【メディア出演(一部)】
2022年 NHK総合「日曜討論」(テーマ:「子ども・若者の声 社会や政治にどう届ける?」/野田聖子こども政策担当大臣などとともに)
サイト運営キズキビジネスカレッジ(KBC)
うつ・発達障害などの方のための、就労移行支援事業所。就労継続をゴールに、あなたに本当に合っているスキルと仕事を一緒に探し、ビジネスキャリアを築く就労移行支援サービスを提供します。トップページはこちら→