ADHDのある人はうつ病にもなりやすい? 併発率や関連性を解説

こんにちは。就労移行支援事業所・キズキビジネスカレッジ(KBC)です。
今このコラムを見ている人は、仕事や生活でうまくいかないことが増え、以下のような不安を抱いているのではないでしょうか?
- もしかして、自分はADHD(注意欠如・多動性障害)やうつ病になっているのではないか?
- ADHDとうつ病を併発しているのではないか?
ADHDとうつ病は、どちらも仕事や生活へ大きな影響を与える点は同じです。しかし原因や特性・症状はまったく異なるもののため、うまく付き合っていくためには違いと関連性を把握しておく必要があるでしょう。
このコラムでは、ADHDやうつ病の概要や、仕事への影響について解説します。あわせて、治療費用の負担を軽減できる支援制度や、ADHDとうつ病のある人がスムーズに就職するポイントを紹介します。
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目次
ADHDとは?
ADHD(注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害、Attention-Deficit Hyperactivity Disorder)とは、不注意性や多動性・衝動性の特性から日常生活などに困難が生じる発達障害の一種のことです。(参考:American Psychiatric Association・著、日本精神神経学会・監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』、田中康雄・監修『大人のAD/HD』、岩波明『大人のADHD─もっとも身近な発達障害』、司馬理英子『ササッとわかる 「大人のADHD」 基礎知識と対処法』、星野仁彦『それって、大人のADHDかもしれません』、e-ヘルスネット「ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療」)
ADHDの特性は大きく、以下の2つの特性に分けられます。
- 不注意性:忘れ物やケアレスミスが多い、注意散漫、整理整頓・管理が不得意
- 多動性・衝動性:落ち着きがない、気が散りやすい、後先考えず行動する
ADHDのある人だからといってすべての特性が生じるというわけではありません。いずれかの特性、または複数の特性から困難が生じている人もいます。
ADHDのある人は、必ず不注意性や多動性・衝動性が現れるというわけではなく、人によって特性の現れ方、得意なこと・不得意なことが違う点が大きな特徴です。
ADHDについては、以下のコラムで解説しています。ぜひご覧ください。
うつ病とは?
うつ病とは、気分の落ち込みや憂うつ感、さまざまな意欲の低下などの精神的症状と、不眠、食欲の低下、疲労感などの身体的症状が一定期間持続することで、日常生活に大きな支障が生じる精神障害・気分障害のことです。(参考:American Psychiatric Association・著、日本精神神経学会・監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』、厚生労働省「1 うつ病とは:」、厚生労働省「うつ病に関してまとめたページ」、、厚生労働省「うつ病」、国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所「うつ病」、MSDマニュアルプロフェッショナル版「抑うつ症候群」)
また、脳の機能が低下している状態、脳のエネルギーが欠乏した状態を指し、脳の中で神経細胞間のさまざまな情報の伝達を担うセロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンなどの神経伝達物質のバランスの乱れや、感情や意欲を司る脳の働きに何らかの不調が生じているものと考えられています。
うつ病については、以下のコラムで解説しています。ぜひご覧ください。
ADHDとうつ病が仕事へ与える影響
ADHDとうつ病は、どちらも仕事に大きな影響を与えます。その影響を小さくするには、いずれも専門的な治療が欠かせないため、早い段階で医師に相談しましょう。
また、ADHDとうつ病が併発することも少なくありません。ADHDの特性によって社会的な失敗を多く経験し、それがうつ病のきっかけになるケースもあります。例えば、以下のような場面が想定されます。
- 顧客の応答を待たずに話してしまい、営業成績が上がらず、上司から叱責される
- 仕事に必要なものを忘れたりなくしたりして、責任感がないと評価される
- 考える前に行動して同じミスを繰り返し、注意を受ける
このような失敗の積み重ねによって、自己肯定感の低下や不安感が蓄積されうつ病発症のきっかけになることがあります。
ADHDのある人はうつ病になりやすい?
この章では、ADHDとうつ病の併発率や関連性について解説します。
ADHDのある大人のうち約30~50%が、うつ病を併発しているといわれています。
日本では、2019年にADHDと精神疾患の併発率について分析した研究があります。20代以降のADHDのある人を対象とした結果は以下のとおりです。(参考:令和元年度厚生労働科学研究費補助金 障害者対策総合研究事業 発達障害の原因,疫学に関する情報のデータベース構築のための研究 分担研究報告書「成人の発達障害に合併する精神及び身体症状・疾患に関する研究」)
- うつ病:約49.0%
- 双極性障害:約18.8%
- 社交不安障害:約8.4%
- 全般性不安障害:約2.5%
- パニック障害:約14.4%
- 物質関連障害(アルコール・ギャンブル、薬物などの依存症):約5.0%
海外の調査でも、ADHDとうつ病の併発率は約18.6〜53.3%とされており、比較的高い傾向にあるといえます。
ADHDとうつ病を併発したときの基本的な治療方法
この章では、ADHDとうつ病を併発したときの基本的な治療方法について解説します。
治療①診断とアセスメントの実施
まず、精神科や心療内科を受診し、ADHDの特性やうつ病の症状を確認する必要があります。併発していた場合、うつ病の治療が優先されます。
アセスメントとは、客観的な判断軸で評価や分析をすることです。ADHDとうつ病を併発していた場合、以下の要因を評価・分析し、治療方針を決定します。
- 環境的要因(家庭・職場など)
- 重症度
- 自殺の危険性
治療②環境整備の実施
状況の分析が終わったら、環境的な要因に対する調整を行います。
例えば、家庭環境に課題がある場合は、家族への働きかけを通じて、落ち着いて過ごせる環境づくりを進めます。
休息が必要なときには、医師からの説明にくわえて、家族からの支援も重要です。また、食欲不振や不眠などの身体的な不調がある場合は、規則正しい生活を送れるように調整します。
治療③心理療法・薬物療法の実施
環境整備と並行して、心理療法や家族療法を実施します。
心理療法では、認知行動療法や家族療法を通じて、思考や行動の傾向を柔軟にしていきます。
認知行動療法は、偏って固まった考え方や行動をほぐし、柔軟に対応できるようにする治療です。
家族療法は、家族を通じて支援や働きかけを行う方法です。こうしたアプローチによって、周囲に適応しやすい思考パターンを身につけ、悲観的な考え方に偏らないよう調整にしていきます。
ただし、心理療法や家族療法に取り組んでも効果がみられない場合は、治療薬の使用を検討する必要があります。
とはいえ、薬物療法の効果には限界があることも理解しておくべきでしょう。さらに、ADHDの治療薬によってうつ病の症状が悪化する可能性もあるため、慎重に判断して導入することが大切です。
治療費用の負担を軽減できる支援制度
この章では、治療費用の負担を軽減できる支援制度を紹介します。
支援制度①自立支援医療制度
自立支援医療制度とは、心身の障害を緩和・除去するために継続的な治療が必要な人に対して、医療費の自己負担額を軽減する公的な支援制度のことです。(参考:厚生労働省「自立支援医療制度の概要」)
通常、公的な医療保険による医療費の自己負担額は3割ですが、自立支援医療制度を利用すれば、収入によって異なりますが、基本的に自己負担額を1割に軽減できます。
この制度は、指定の医療機関・薬局のみで利用可能です。
自立支援医療制度については、以下のコラムで解説しています。ぜひご覧ください。
支援制度②障害年金
障害年金とは、病気やケガ、障害などによって仕事や生活などに支障を生じている場合に、年金加入者が受給できる支援制度のことです。(参考:日本年金機構「障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額」、日本年金機構「障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額」、日本年金機構「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」、日本年金機構「国民年金」、日本年金機構「障害年金ガイド令和5年度版」、日本年金機構「20歳前の傷病による障害基礎年金にかかる支給制限等」)
事故で足を失った場合や生まれつき四肢が不自由な場合、知的障害がある場合などのケースだけでなく、発達障害・精神疾患、あるいは癌や生活習慣病などで生活に困難を生じている場合も受給の対象になります。
一般的な年金は高齢者にならなければ受け取れませんが、障害年金は現役世代でも受給できることが特徴です。
申請は、お住まいの自治体の障害福祉を担当する部署・窓口・年金事務所・年金相談センターなどで行えます。
障害年金については、以下のコラムで解説しています。ぜひご覧ください。
ADHDとうつ病のある人がスムーズに就職するポイント
この章では、ADHDとうつ病のある人がスムーズに就職するためのポイントについて解説します。
ポイント①情報を小分けにして対応する
ADHDの特性やうつ病の症状がある人の場合、大量の情報を一度に受け取ると対応が難しい場合があります。集中力を維持させたり、同時に複数の情報を処理したりすることが苦手な傾向にあるからです。
そのため、ADHDとうつ病を併発している場合は、情報を小分けにして対応することで、負担を軽減しながら就職活動を進められるでしょう。例えば、以下のような取り組み方ができます。
- 企業研究は・企業理念・収入・福利厚生など重要なポイントのみに絞って行う
- 面接対策は、やるべき内容を細かく分けて少しずつ進める(立ち居振る舞いのマナーを学ぶ、よく聞かれる質問を調べる、その回答を考えるなど)
一度にたくさんのことをこなそうとすると、かえって負担が大きくなります。短時間で取り組める範囲に区切りながら、無理のないペースで対応していくことが大切です。
ツールなども活用しながら、自分に合った方法を見つけていきましょう。
ポイント②障害者手帳を取得して障害者雇用を目指す
障害者手帳や療育手帳を取得し、障害者雇用を目指すのもよいでしょう。ADHDとうつ病があることを前提に就職することで、周囲に特性を理解してもらいやすくなり、トラブルも起こりにくくなります。
なお、障害者手帳を取得したからといって必ず障害者雇用を利用しなければいけないわけではありません。例えば、就職時は一般雇用を選びつつ、日常生活では障害者手帳による補助を受けることも可能です。
取得しておくと、のちのち役立つ可能性があります。 障害者手帳をまだ取得していない人は、一度検討してみるのもよいでしょう。(参考:内閣府「図表78 障害者に関する割引・減免制度及び福祉措置一覧」)
ポイント③支援機関を利用する
ADHDとうつ病を併発している場合、特性や気持ちの波に合わせて就職活動を進めることになります。一人で対応するのは大変なため、支援機関を頼り、効率よく準備を進めるのもよいでしょう。
例えば、障害のある人が利用できる支援機関には、以下のようなものがあります。利用料金がかからない場合もあるため、お近くの支援機関を調べてみるとよいでしょう。
- ハローワーク
- 地域若者サポートステーション(サポステ)
- 発達障害者支援センター
- 就労移行支援事業所
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離職期間を利用して、ビジネススキルを身につけることができます。また、以下のような取り組みを通じて、就職活動をサポートしています。
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- 面接対策
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まとめ:ひとりで抱え込まず頼れる選択肢を持つことが大切です
ADHDとうつ病には、高い関連性があることがわかっています。特性や症状が強く現れると、仕事に支障が出て悩むこともあるでしょう。
そのようなときは一人で抱え込まず、支援制度や支援機関を活用して負担を軽減してください。
適切な治療と支援を受けながら、より無理のない状態で過ごせるよう整えていきましょう。
ADHDとうつ病が仕事に与える影響を教えてください。
ADHDとうつ病は、どちらも仕事に大きな影響を与えます。その影響を小さくするには、いずれも専門的な治療が欠かせないため、早い段階で医師に相談しましょう。
詳細については、こちらで解説しています。
ADHDとうつ病を併発したときの治療方法はありますか?
監修キズキ代表 安田祐輔
発達障害(ASD/ADHD)当事者。特性に関連して、大学新卒時の職場環境に馴染めず、うつ病になり退職、引きこもり生活へ。
その後、不登校などの方のための学習塾「キズキ共育塾」を設立。また、「かつての自分と同じように苦しんでいる人たちの助けになりたい」という思いから、発達障害やうつ病などの方々のための「キズキビジネスカレッジ」を開校。一人ひとりの「適職発見」や「ビジネスキャリア構築」のサポートを行う。
【著書ピックアップ】
『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(2021年12月、翔泳社)』
Amazon
翔泳社公式
【略歴】
2011年 キズキ共育塾開塾(2025年6月現在17校+オンライン校)
2015年 株式会社キズキ設立
2019年 キズキビジネスカレッジ開校(2025年9月現在9校)
【その他著書など(一部)】
『学校に居場所がないと感じる人のための 未来が変わる勉強法(KADOKAWA)』『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(翔泳社)』『暗闇でも走る(講談社)』
日経新聞インタビュー『働けたのは4カ月 発達障害の僕がやり直せた理由』
現代ビジネス執筆記事一覧
【メディア出演(一部)】
2022年 NHK総合「日曜討論」(テーマ:「子ども・若者の声 社会や政治にどう届ける?」/野田聖子こども政策担当大臣などとともに)
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