ASDのある人は完璧主義になりやすい? 強みを活かす対策を解説 | キズキビジネスカレッジ  

ASDのある人は完璧主義になりやすい? 強みを活かす対策を解説

こんにちは。就労移行支援事業所・キズキビジネスカレッジ(KBC)です。

ASD(自閉スペクトラム症/自閉スペクトラム障害)のある人の中には、以下のような悩みを抱えている人もいるのではないでしょうか?

  • 職場や家庭で完璧主義が原因のストレスを感じている
  • 「理想通りにできない」と自分を責めてしまう
  • ASDと完璧主義の関係を知りたい

このコラムでは、完璧主義とASDの概要や、ASDのある人が完璧主義になりやすい理由、完璧主義によって抱えやすい困りごとについて解説します。

あわせて、完璧主義によるメリットや、ASDのある人の完璧主義への対策も紹介します。完璧主義について悩んでいる人は、参考にしてみてください。

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完璧主義とは?

完璧主義とは、さまざまな物事に高い目標を設定して、その達成に向けて行動する姿勢を指す言葉です。また、そのような姿勢の人物を完璧主義者といいます。(参考:中野敬子、臼田倫美、中村有里『完璧主義の適応的構成要素と精神的健康の関係』

完璧主義の人は志が高く自分に厳しく、理想に向かって努力し続ける傾向があります。

一方で、ささいなミスを許せず、自分や他人を責めてしまうこともあります。また、自分に厳しすぎることで、心身への負担が大きくなる場合もあるため注意が必要です。

とくに、発達障害のひとつであるASDのある人の中には、こうした完璧主義的な傾向が強く表れる人もいます。

ASDとは?

ASD(自閉スペクトラム症/広汎性発達障害、Autism Spectrum Disorder)とは、人とのコミュニケーションなどに困難が生じる発達障害の一種のことです。(参考:American Psychiatric Association・著、日本精神神経学会・監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』、e-ヘルスネット「ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について」、CDC「Autism Spectrum Disorder (ASD) 」、厚生労働省「No.1 職域で問題となる大人の自閉症スペクトラム障害」、福西勇夫、福西朱音『マンガでわかるアスペルガー症候群の人とのコミュニケーションガイド』

かつては、以下のような診断名や分類が使われていましたが、現在は「ASD」に統一されています。

  • アスペルガー症候群
  • 自閉症
  • 高機能自閉症
  • 広汎性発達障害(PDD)

これらは以前、別の発達障害として分類されていましたが、2013年に『DSM-5』が改訂された際、「連続した(スペクトラムな)特性を持つひとつの障害」としてASDに統合されました。

ただし、法令や医療現場、日常会話では、以前の診断名が使われている場面があります。また、過去にアスペルガー症候群などの診断を受けた人が、現在のASDという名称に馴染みがないケースもあります。

ASDのある人が完璧主義になりやすい4つの理由・特徴

理由①物事の細部にこだわる

ASDのある人は、特定の領域において記憶力に優れていたり、関心のある分野には高い集中力を発揮したりする特性があります。

そのため、自分の好きなことや興味関心が高いことに対して細部までこだわり、完璧な状態を追い求める傾向が見られます。

例えば、部屋の掃除をするときに、限られた時間の中で室内すべてを完璧に片付けようとすることがあります。

本棚のほこりを丁寧に取り除いたり、物の配置を整えたりと、細部まで徹底する一方で、予定通りに終えられなかったり、落としきれない汚れに直面したりすると、強いストレスを感じることもあるでしょう。

このような細部へのこだわりは、物事を丁寧に進める力として強みにもなる一方、「少しでも不完全だと許せない」という完璧主義的な思考につながることがあります。

理由②ハイコントラスト知覚(白黒思考)

ASDのある人の中には、物事を良い・悪い、正しい・間違っているといった両極端な視点で捉える、いわゆるハイコントラスト知覚(白黒思考)の傾向が見られることがあります。(参考:名古屋大学 平井 真洋「自閉スペクトラム傾向と「0か100か」思考の関係を解明 ~不確実な状況への耐えにくさを介する可能性~」

このような思考パターンが強いと、あいまいな中間地点を受け入れることが難しくなり、自分自身を過剰に追い詰める原因になることがあります。

理由③変化に弱い

ASDのある人は、予定変更や予期しない出来事といった変化に対して、強い不安やストレスを感じやすい傾向があります。

そのため、決められた手順やスケジュールに沿って行動することで、予測可能な状況を確保しようとします。

こうした傾向が強まると、「決めたルールは必ず守らなければならない」「すべて予定通りに進めなければならない」といった思考に陥り、結果として完璧主義的な行動につながる可能性があります。

予定が少しでも狂うと不安になり、その不安を避けるために、あらゆることを完璧に進めようとする姿勢が強まってしまうのです。

理由④他人に頼ることが苦手

ASDの特性として、自分の気持ちや考えをうまく言葉で伝えることが難しかったり、相手にどう思われるかを過度に気にしたりする傾向があります。

そのため、周囲に助けを求めることが苦手な人も少なくありません。 「誰かに頼るくらいなら、自分で全部やったほうがいい」といった考え方から、すべてを一人で完璧にこなそうとしがちです。

本当は助けが必要な場面でも、相談できずに責任感から無理をしてしまうことで、完璧主義的な行動や思考が強まり、結果的に心身への負担も大きくなる可能性があります。

ASDのある人が完璧主義が原因で起こりやすい4つの困りごと

この章では、ASDのある人が完璧主義によって抱えやすい困りごとについて解説します。

困りごと①作業の停滞・先延ばし

完璧主義の人は、周囲の人から「すばらしい人物」「尊敬できる人」と周囲から評価されたいという気持ちが強く、ミスを恐れて行動に移しにくい傾向があります。(参考:コグラボ「完璧主義がうつの原因に。陥りやすい人の思考・行動の傾向や改善方法をやさしく解説 「不適応的完璧主義によく見られる行動」」

「完璧なものを生み出さなければ」という思いが強すぎると、ひとつの作業に時間をかけすぎたり、作業を始めること自体をためらったりする場合があります。

その結果、作業が進まなくなり、目的を果たせなくなるケースもあります。

困りごと②理想と現実のギャップによるストレス

完璧主義の人は、理想を高く掲げることで自己肯定感を高めようとしたり、自身の能力を伸ばそうとしたりします。(参考:一般社団法人三陽会「完璧主義の人はうつになりやすい【やめたい人向け】治し方4ステップ 「理想」と「現実」を分ける」」

しかし、現実には理想どおりにいかないことも多く、理想と現実のギャップに強いストレスを感じやすくなります。

「完璧にできるはずだったのに、なぜ失敗したのだろう」「ミスをした自分はダメだ」と小さな失敗を必要以上に責めてしまい、自己否定につながる場合があります。

困りごと③失敗を恐れるあまり行動できない

完璧主義の人は、失敗した姿を周囲に知られたり見られたりすることを避けようとする傾向があります。(参考: 株式会社サポートメンタルヘルス「完璧主義をやめたい…デメリットだけではなくメリットと和らげ方も知ろう「完璧主義のデメリット」」

そのため、新しいことを始める前に支度に時間をかけすぎたり、考えすぎて行動を起こせなくなったりします。

失敗への不安から行動できない状態が続くと、「どうせ自分には無理だ」と無力感を抱くようになり、自信喪失や自己成長の機会の喪失につながることがあります。

困りごと④対人関係での摩擦が生じやすい

完璧主義の人は、自分自身だけでなく周囲にも完璧さを求めてしまいがちです。

この傾向が強まると、相手のミスが許せなかったり、「相手とは常に完璧な関係であるべき」と思い込んで疲れてしまうことがあります。

また、完璧を求めるあまり、相手に厳しく接してしまったり、自分のルールを押し付けてしまったりして、人間関係に摩擦が生じる原因となることもあるでしょう。

完璧主義による3つのメリット

この章では、完璧主義によるメリットについて解説します。

完璧主義にはマイナスの側面もありますが、自分の特性として理解し、強みとして活かすことも可能です。

メリット①質の高い仕事ができる

ASDの特性のひとつである細部へのこだわりは、仕事の質を高めるうえで大きな強みになります。

他の人が見逃しがちなミスや改善点に気づき、丁寧に修正することで、完成度の高い成果物を生み出すことができるでしょう。

特に、正確性や緻密さが求められる分野では、ASDのある人の完璧主義が大きな武器になります。

メリット②周囲からの信頼を得やすい

「この人に任せれば、必ず良い仕事をしてくれる」という信頼は、完璧主義による真面目さや責任感に基づいて築かれます。

与えられた仕事に丁寧に取り組む姿勢は、周囲から高く評価されることが多いでしょう。

メリット③最後までやり遂げる力が身につく

ASDの特性として、ひとつのことに集中しやすく、手を抜かずにやり遂げる力があります。

この特性と完璧主義が組み合わさることで、途中で投げ出さずに物事を最後までやり遂げる粘り強さが育まれます。

困難な課題にも向き合い続ける力は、今後の人生を切り拓くうえで重要な強みとなるでしょう。

ASDのある人の完璧主義への対策

この章では、ASDのある人の完璧主義への対策について解説します。

対策①自己評価を加点式にする

完璧主義の人は、理想の高さから減点思考に陥り安い傾向があります。

「これもできなかった」「あれも失敗した」といった視点ではなく、できたことや頑張ったことに目を向ける加点式の評価に切り替えてみましょう。

特にASDのある人は、目で見て判断するのが得意な傾向があるため、「今日は〇〇まで進められた」「難しいところだったけど、△△はできた」など、小さな達成を「できたことリスト」として書き出す見える化が有効です。(参考:横浜市総合リハビリテーションセンター「障害のある人たちが活躍できる職場環境を考えよう!知的・発達障害編」

対策②タスクを小分けにする

ASDのある人は、決まったルールを守ることが得意です。(参考:横浜市総合リハビリテーションセンター「障害のある人たちが活躍できる職場環境を考えよう!知的・発達障害編」

その特性を活かすためには、大きな目標よりも小さなタスクに分解することが効果的です。

作業工程や指示内容を細分化し見える化することで、作業に取りかかりやすくなり、ひとつずつ完了させることで達成感も得やすくなります。

対策③優先順位や納期を見える化する

完璧主義の人は、すべてのタスクを完璧にこなそうとして、かえってパンクしてしまうことがあります。

そのようなときは、タスクを緊急性や重要度で整理し、優先順位を見える化してみましょう。

また、納期を明確に設定し、「完璧にやる」よりも「納期内に終える」ことを意識することで、柔軟な思考が身につきやすくなります。

対策④リフレーミングして考える

リフレーミングとは、物事の捉え方を変える方法のことです。

ASDの特性をマイナスではなく、プラスの側面として捉え直すことで、自己理解や肯定感の向上につながります。(参考:国立障害者リハビリテーションセンター「ヒントシート 自閉症スペクトラム障害の特性(抜粋)」

リフレーミングの例は以下の通りです。

  • 言葉で伝えられた内容を理解するのが苦手→目で見て理解するのが得意
  • 興味・関心の幅が狭い→好きなことには強い集中力を発揮できる
  • 変化を苦手とする→慣れ親しんだ方法を好み、安定性を重視できる

こうしたリフレーミングを通じて、自分の考え方や反応を客観的に見つめ直すことができるようになります。

対策⑤信頼できる人や支援機関に相談する

完璧主義やASDの特性に悩んでいる場合は、一人で抱え込まず信頼できる人や支援機関に相談することが重要です。

以下は支援先の例です。(参考:内閣府「発達障害に気付いたら?大人になって気付いたときの専門相談窓口」

  • 医療機関(症状に関する相談)
  • 発達障害者支援センター(発達障害に関する支援)
  • 障害者就業・生活支援センター(仕事や生活面の相談)

支援機関では、あなたの特性を理解したうえで具体的な対策を一緒に考えてくれます。

発達障害者支援センター、障害者就業・生活支援センターについては以下のコラムで詳しく解説しています。ぜひご覧ください。

対策⑥セルフケアの時間を作る

完璧主義の人は日常的にストレスを感じやすく、心身の緊張状態が続いてしまいがちです。

そのため、意識的にセルフケアの時間を作ることが大切です。

オススメのセルフケアのひとつが深呼吸(腹式呼吸)です。深呼吸には自律神経のバランスを整え、リラックスを促す効果があります。(参考:厚生労働省「こころもメンテしよう ~若者を支えるメンタルヘルスサイト~「腹式呼吸をくりかえす」」

時間も場所も選ばず実践できるため、プレッシャーを感じたときや緊張しやすい場面で、意識して取り入れてみましょう。

まとめ:完璧主義は強みにもなる

ASDのある人に見られる完璧主義は、困りごとの原因にもなりますが、一方で大きな強みにもなります。

大切なのは、特性を理解し、対策を取り入れながら上手に活かしていくことです。

今回ご紹介した対策を参考にしながら、自分の特性を理解し、自分らしい強みとして活かせるように工夫していきましょう。

このコラムが、完璧主義に悩むあなたの助けとなることを願っています。

よくある質問(2)

ASDのある人が完璧主義になりやすいのはなぜですか?

以下が考えられます。

  • 物事の細部にこだわる
  • ハイコントラスト知覚(白黒思考)
  • 変化に弱い
  • 他人に頼ることが苦手

詳細については、こちらで解説しています。

よくある質問(2)

ASDのある人の完璧主義への対策を教えてください。

以下が考えられます。

  • 自己評価を加点式にする
  • タスクを小分けにする
  • 優先順位や納期を見える化する
  • リフレーミングして考える
  • 信頼できる人や支援機関に相談する
  • セルフケアの時間を作る

詳細については、こちらで解説しています。

監修キズキ代表 安田祐輔

発達障害(ASD/ADHD)当事者。特性に関連して、大学新卒時の職場環境に馴染めず、うつ病になり退職、引きこもり生活へ。
その後、不登校などの方のための学習塾「キズキ共育塾」を設立。また、「かつての自分と同じように苦しんでいる人たちの助けになりたい」という思いから、発達障害やうつ病などの方々のための「キズキビジネスカレッジ」を開校。一人ひとりの「適職発見」や「ビジネスキャリア構築」のサポートを行う。

【著書ピックアップ】
ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(2021年12月、翔泳社)』

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翔泳社公式 【略歴】
2011年 キズキ共育塾開塾(2025年6月現在17校+オンライン校)
2015年 株式会社キズキ設立
2019年 キズキビジネスカレッジ開校(2025年9月現在9校)

【その他著書など(一部)】
学校に居場所がないと感じる人のための 未来が変わる勉強法(KADOKAWA)』『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(翔泳社)』『暗闇でも走る(講談社)』

日経新聞インタビュー『働けたのは4カ月 発達障害の僕がやり直せた理由』
現代ビジネス執筆記事一覧

【メディア出演(一部)】
2022年 NHK総合「日曜討論」(テーマ:「子ども・若者の声 社会や政治にどう届ける?」/野田聖子こども政策担当大臣などとともに)

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