適応障害は傷病手当金の対象になる? メリット・デメリットや申請手順を解説

こんにちは。就労移行支援事業所・キズキビジネスカレッジ(KBC)です。
適応障害と診断され、仕事を休む必要が出てきたとき、「傷病手当金は受け取れるのだろうか」と不安に思う人も多いのではないでしょうか。
- 適応障害で傷病手当金はもらえるの?
- 申請の手順や必要な書類を知りたい
- 受給する際の注意点があれば教えてほしい
このコラムでは、適応障害および傷病手当金の概要や受給条件、受給金額、受給期間、利用のメリット・注意点、申請の流れについて解説します。
あわせて、適応障害のある人が利用できる支援制度も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
適応障害で傷病手当を受け取れるか知りたいあなたへ
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目次
適応障害とは?
適応障害とは、仕事や職場の人間関係などから生じる特定可能な明確な心理的・社会的ストレスを原因に、心身がうまく対応できず、情緒面の症状や行動面の症状、身体的症状が現れることで、社会生活が著しく困難になっている状態のことです。(参考:American Psychiatric Association・著、日本精神神経学会・監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』、松﨑博光『新版 マジメすぎて、苦しい人たち:私も、適応障害かもしれない…』e-ヘルスネット「適応障害」)
適応障害は、原因から離れることで、病状はよくなっていきます。職場では調子が悪く、やる気がまったく出ないのに、家に帰ると元気で、趣味に熱中して取り組めるということが往々にしてあります。こうした症状の現れ方から、甘えていると勘違いされやすく、理解されづらいこともあります。
適応障害については、以下のコラムで解説しています。ぜひご覧ください。
適応障害は傷病手当金の対象
適応障害は、傷病手当金の支給対象となる精神疾患です。医師が労務不能と判断し、傷病手当金の受給条件を満たしていれば、休業中の生活費の一部を受け取れます。
傷病手当金を受給するには、医師の診断書に、適応障害により労務不能であることが記載されている必要があります。現在の症状や仕事への影響について主治医に詳しく相談し、適切な診断書を作成してもらいましょう。
傷病手当金とは?
傷病手当金とは、病気やケガ、障害のために仕事を休んだときに利用できる支援制度です。
事業主から十分な報酬を受けられない場合に、健康保険(社会保険)に加入している人とその家族の生活を保障する目的で設けられています。
対象となる病気やケガ、障害は、業務外の理由で生じた場合に限ります。会社の業務が原因で生じた病気やケガ、障害は、労災保険により補償されます。
傷病手当金の受給対象は、病気やケガ、障害によって就労不能であり、十分な報酬を受けられない人です。そのため、医師の診断書が必要です。
また、傷病手当金は、退職前・在職中に就労できない状態の場合に受給できます。ただし、一定の条件を満たせば、退職後も継続して受給することが可能です。具体的な受給金額や受給期間は、その人の休職の状況などによって異なります。
なお、国民健康保険の加入者・被保険者は、傷病手当金の対象外です。
傷病手当金の受給条件
傷病手当金を受給するには、健康保険に加入していることに加えて、以下の4つの条件をすべて満たす必要があります。
- 業務外の病気やケガで療養中であること
- 就労できない状態を医師に認定されていること
- 3日間連続での休業を含めて4日以上就労できない状態であること
- 休業期間に給与の支払いがないこと
詳しくは、以下のコラムで解説しています。
傷病手当金の受給金額
傷病手当金は、基本的に受給開始日以前の12か月間の各標準報酬月額を平均した額を30日で割った金額の2/3を受け取れます。
傷病手当金の受給金額は、以下の計算式に基づき、算出可能です。
- 受給開始日以前の12か月間の各標準報酬月額の平均額÷30日×2/3
受給開始日とは、傷病手当金が最初に支給される日のことです。
標準報酬月額とは、基本給・残業手当・役付手当・勤務地手当・通勤手当・住宅手当・家族手当など、毎月の給料を一定の金額ごとに1〜50の等級に区分した金額のことです。
都道府県によって異なりますが、たとえば東京では月額報酬21〜23万円の人は18等級に該当し、標準報酬月額22万円と定められています。
ただし、傷病手当金の受給金額は保険加入期間で決まることに加えて、申込者の状況によっては金額が調整されることがあります。
細かい状況別の傷病手当金の受給金額については、以下のコラムをご覧ください。
傷病手当金の受給期間
傷病手当金の受給期間は、原則として最長1年6か月です。2020年7月1日以降に傷病手当金の受給を開始した人は、通算で1年6か月以内まで受給できます。
たとえば、病気やケガ、障害によって待機期間を含めて2か月休んだ後、1か月出勤して、再度休んでも1年4か月までは傷病手当金を受け取れます。
2022年の法改正以前は、初回受給から1年6か月の間に就労した期間、仕事を再開して傷病手当金の受給を中断する期間があった場合、受給期間の1年6か月のうちに、その働いた期間が含まれる仕組みでした。
つまり、一度仕事に復帰して、その後で再び働けなくなった場合、実際に受給できる期間は1年6か月よりも短かったということです。
2020年7月1日以前に傷病手当金の受給を開始した人は、従来と同様に最長1年6か月までの受給となりますので注意してください。
なお、通算で1年6か月以内という期限は、あくまで同じ病気・ケガ、障害の場合です。
病気Aで1年6か月間休業して復職した人が、その後ケガBで休業することになった場合は、新たに1年6か月の受給期間が設けられます。
しかし、病気Aで1年6か月間休業して復職し、再度病気Aにかかった人も、1回目の病気Aが完治していると認められれば2回目も受給が可能です。
また、株式会社αで勤務中に病気Aを発症した人が、株式会社βへ転職後に再び病気Aを発症したケースも同様です。
健康保険が変わっても完治ではなく再発と見なされれば、通算で1年6か月以内の期間内は再受給できます。
復職したからといって完治と判断されるわけではないので注意してください。
ここでいう完治とは、通常の社会生活に復帰した社会的な完治を意味します。以下の場合は、社会的な完治とは認められません。
- 本人が完治したと主観的に感じているだけの状態
- 医師が完治したと診断しただけで、まだ社会生活に復帰していない状態
傷病手当金の受給期間については、以下のコラムで解説しています。ぜひご覧ください。
適応障害のある人が傷病手当金を利用するメリット
この章では、適応障害のある人が傷病手当金を利用するメリットについて解説します。
メリット①収入の一部を確保できる
適応障害で休職する際、収入が途絶えることへの不安は大きいものです。家賃や食費、光熱費などの固定費は休んでいても発生し続け、通院や治療薬代などの費用もかかります。
こうした経済的なプレッシャーは、心身の回復を妨げる要因にもなりかねません。
傷病手当金を利用する最大のメリットは、休業中でも収入の一部を確保できることです。給与の全額ではないものの、一定の収入を得られるため、生活費や治療費の負担を軽減できます。
メリット②治療と休養に専念できる
適応障害から回復するためには、ストレスの原因から離れ、十分な休養を取ることが不可欠です。しかし、収入がない状態では「早く仕事に戻らなければ」という焦りが生まれ、無理をして症状が悪化するケースも少なくありません。
傷病手当金によって一定の収入が確保されることで、「今は治療を優先しよう」と気持ちを切り替えやすくなります。
通院やカウンセリング、服薬管理、規則正しい生活習慣の確立など、回復に必要な取り組みに落ち着いて向き合えるでしょう。
メリット③退職後も条件次第で継続支給される
適応障害の原因が職場環境にある場合、休職して治療を続けても、同じ職場に戻ることが回復の妨げになるケースがあります。このような状況では、退職して新しい環境で再スタートを切るのも選択肢の一つです。
しかし、退職すると収入が途絶えるため、「経済的に苦しくなるのではないか」という不安が生まれます。この不安を軽減するのが、傷病手当金の退職後継続支給の制度です。
退職後も傷病手当金を受け取るには、以下の条件を満たす必要があります。
- 退職日まで継続して1年以上健康保険に加入していたこと
- 退職日時点で傷病手当金を受給しているか、受給条件を満たしていること
- 退職日に出勤していないこと(出勤すると「労務可能」と判断される可能性があるため)
これらの条件を満たしていれば、退職後も支給開始日から通算して最長1年6か月まで受給できる可能性があります。
ただし、傷病手当金と雇用保険の失業保険(基本手当)を同時に受給することはできません。傷病手当金は労務不能であること、失業保険は労働の能力を有することが、それぞれの要件であるためです。(参考:全国健康保険協会 協会けんぽ「傷病手当金について」)
傷病手当金を受給している間は、ハローワークで失業保険の受給期間延長手続きを行うことで、回復後に失業保険を受け取れます。退職後も一定の収入を確保できますので、焦らずに治療を続け、回復後に次の就職先を探せるでしょう。(参考:全国健康保険協会 協会けんぽ「傷病手当金について」、東京ハローワーク「求職者給付に関するQ&A」)
適応障害のある人が傷病手当金を利用する際の注意点
この章では、適応障害のある人が傷病手当金を利用する際の注意点について解説します。
注意点①申請手続きの際に会社とのやり取りが必要になる
傷病手当金の申請書には、本人が記入する欄に加えて、事業主が記入する欄があります。出勤状況や給与の支払い状況などを会社に証明してもらうためには、申請書を提出し、該当する項目を記入してもらう必要があります。
適応障害で休職している場合、「会社とやり取りをすること自体がストレスになる」と感じる人もいるでしょう。特に、職場の人間関係が発症の原因になっている場合は、連絡を取ること自体に抵抗を感じるかもしれません。
このような場合に負担を軽減する対処法としては、以下があげられます。
- 人事や総務を担当する部署など、直接の上司以外の窓口に連絡する
- 代理人を立ててやり取りを行う
- 郵送でのやり取りを依頼し、対面や電話でのコミュニケーションを避ける
会社とのやり取りが避けられないことを理解したうえで、自分にとって負担の少ない方法を選ぶことが大切です。
注意点②支給までに時間がかかることがある
「傷病手当金は申請すればすぐに受け取れる」と考えていると、支給されるまで予想以上に待つことになり、生活費に困る可能性があります。申請書を提出してから実際に支給されるまでには、2週間〜長くて2か月程度かかります。(参考:全国健康保険協会 協会けんぽ「傷病手当金の「よくある質問」について」)
支給に時間がかかる理由は、健康保険組合や協会けんぽが申請内容を審査し、医師の診断書や会社からの証明内容を確認する必要があるためです。また、申請書に記入漏れや不備があった場合は、修正や追加書類の提出を求められ、さらに時間がかかることもあります。
「休職中で収入がないのに、支給までさらに待たなければならない」という状況は、経済的にも精神的にも負担になります。そのため、傷病手当金の申請を検討している人は、支給までの期間を見越して、当面の生活費を確保しておくことが望ましいでしょう。
注意点③保険への新規加入で告知が必要になる場合がある
民間の生命保険や医療保険に新規加入する場合、多くの保険会社では過去の傷病歴や治療歴を告知する義務があります。告知期間は保険会社によって異なりますが、一般的には過去5年程度の情報が求められます。
傷病手当金を受給していたということは、適応障害で治療を受け、労務不能の状態にあったということです。告知内容によっては、以下のような影響が出る可能性があります。
- 保険への加入が認められない
- 保険料が割高になる
- 精神疾患に関する保障が対象外となる
ただし、すべてのケースで加入が難しくなるわけではありません。重要なのは、告知義務に違反しないことです。虚偽の申告をした場合、後に保険金を請求しても支払われないリスクがあることを押さえておきましょう。
傷病手当金を申請する流れ
傷病手当金を申請する流れは、次のとおりです。
- 医療機関を受診し、医師の診断書を取得する
- 職場に病気やケガで休職することを報告する
- 待機期間の3日間を過ごす
- 必要書類を用意する
- 書類を提出して職場に手続きしてもらう
申請には医師の診断書や職場からの証明が必要です。また、待機期間の3日間は支給対象外となるため、この点も理解しておきましょう。
詳しくは、以下のコラムで解説しています。
適応障害のある人が傷病手当金以外に利用できる支援制度
適応障害で休職しているとき、収入が減って家賃や生活費の支払いに不安が生じたり、医療費の負担が重く感じたりすることがあるかもしれません。
そのようなときは、以下の制度を活用することも検討してみてください。
- 住居確保給付金:離職や休職で収入が減り、家賃の支払いが難しくなった人に、一定期間家賃相当額を支給する制度
- 生活困窮者自立相談支援事業:生活に不安を抱える人が、就労や家計、住まいなどについて包括的に相談できる制度
- 自立支援医療(精神通院医療):心療内科や精神科への通院費(医療費)の自己負担を軽減する制度
- 障害年金:精神疾患などによって長期的に働くことが難しい人に、一定の条件のもとで支給される年金制度
制度を上手に活用することで、生活の負担を少しでも軽くし、治療や自分を整える時間を確保できるかもしれません。利用できる制度を知っておくことが、安心して回復に向かうための第一歩です。
まとめ:適応障害で傷病手当金を受け取ることは可能
適応障害の人も、条件を満たせば傷病手当金を受け取れます。傷病手当金やそのほかの支援制度は、経済的な不安を軽くしながら、自分のペースで回復に向かう手助けになるでしょう。
制度の仕組みや申請の流れを理解し、主治医や職場、健康保険組合と連携しながら手続きを進めていってください。
適応障害は傷病手当金の対象ですか?
適応障害は、傷病手当金の支給対象となる精神疾患です。医師が労務不能と判断し、傷病手当金の受給条件を満たしていれば、休業中の生活費の一部を受け取れます。
詳細については、こちらで解説しています。
適応障害のある人が傷病手当金を利用するメリットを教えてください。
監修キズキ代表 安田祐輔
発達障害(ASD/ADHD)当事者。特性に関連して、大学新卒時の職場環境に馴染めず、うつ病になり退職、引きこもり生活へ。
その後、不登校などの方のための学習塾「キズキ共育塾」を設立。また、「かつての自分と同じように苦しんでいる人たちの助けになりたい」という思いから、発達障害やうつ病などの方々のための「キズキビジネスカレッジ」を開校。一人ひとりの「適職発見」や「ビジネスキャリア構築」のサポートを行う。
【著書ピックアップ】
『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(2021年12月、翔泳社)』
Amazon
翔泳社公式
【略歴】
2011年 キズキ共育塾開塾(2025年6月現在17校+オンライン校)
2015年 株式会社キズキ設立
2019年 キズキビジネスカレッジ開校(2025年9月現在9校)
【その他著書など(一部)】
『学校に居場所がないと感じる人のための 未来が変わる勉強法(KADOKAWA)』『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(翔泳社)』『暗闇でも走る(講談社)』
日経新聞インタビュー『働けたのは4カ月 発達障害の僕がやり直せた理由』
現代ビジネス執筆記事一覧
【メディア出演(一部)】
2022年 NHK総合「日曜討論」(テーマ:「子ども・若者の声 社会や政治にどう届ける?」/野田聖子こども政策担当大臣などとともに)
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