うつ病・40代も転職できます!考え方・サポート団体・支援制度などをまとめて紹介
メンタルヘルスを専門とする国家資格・精神保健福祉士の有資格者・西村です。
- うつ病での転職は可能なのか
- そもそも40代での転職は厳しいのではないか
- うつ病で40代の転職をサポートするサービスはあるんだろうか
この記事では、そうした疑問に応えるべく、次のようなことをご紹介します。
- 「休職しての転職」、「退職してからの転職」どちらがいいのか
- うつ病でも転職できるのか
- 40代でも転職できるのか
- サポート機関にはどのようなものがあるのか
- 支援機関、利用できる制度はどのようなものがあるのか
うつ病、40代での転職を支える機関やサービスは、以前と比べるとかなり増えてきています。
ぜひこの記事でそれらのサービスや支援制度を知り、支援者とともにうつ病の症状に対処しながら、転職についての考えを進めていただければと思います。
本文中でも繰り返しますが、「あなた一人でなんとかしようとする」のではなく、いろんなサポートを利用することが大切です。
※この記事は長いので、目次を見て気になる部分だけを読んでも大丈夫です。
※年代を問わず、「うつ病からの転職」の一般論については、コラム「うつ病での休職・転職は就職活動に不利とは限らない!うつ病への対処法と支援制度」をご覧ください。
監修キズキ代表 安田祐輔
発達障害(ASD/ADHD)当事者。特性に関連して、大学新卒時の職場環境に馴染めず、うつ病になり退職、引きこもり生活へ。
その後、不登校などの方のための学習塾「キズキ共育塾」を設立。また、「かつての自分と同じように苦しんでいる人たちの助けになりたい」という思いから、発達障害やうつ病などの方々のための「キズキビジネスカレッジ」を開校。一人ひとりの「適職発見」や「ビジネスキャリア構築」のサポートを行う。
【著書ピックアップ】
『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(2021年12月、翔泳社)』
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翔泳社公式
【略歴】
2011年 キズキ共育塾開塾(2023年7月現在10校)
2015年 株式会社キズキ設立
2019年 キズキビジネスカレッジ開校(2022年7月現在4校)
【その他著書など(一部)】
『学校に居場所がないと感じる人のための 未来が変わる勉強法(KADOKAWA)』『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(翔泳社)』『暗闇でも走る(講談社)』
日経新聞インタビュー『働けたのは4カ月 発達障害の僕がやり直せた理由』
現代ビジネス執筆記事一覧
【メディア出演(一部)】
2022年 NHK総合「日曜討論」(テーマ:「子ども・若者の声 社会や政治にどう届ける?」/野田聖子こども政策担当大臣などとともに)
執筆西村二架
にしむら・にか。精神保健福祉士。
1992年生まれ。関西学院大学文学部卒業後に京都医健専門学校で学び、2019年に国家資格・精神保健福祉士資格を取得。2018年8月から、キズキ共育塾(不登校・中退・発達障害・社会人などのための個別指導塾)で講師として勤務。現在は主任講師として国語・数学・英語・小論文・面接の学習支援およびメンタル支援を担当。また、うつや発達障害の方々のための就労移行支援事業所キズキビジネスカレッジでも英語などを教える。2024年1月現在、TOEIC920点を所持。
サイト運営キズキビジネスカレッジ(KBC)
うつ・発達障害などの方のための、就労移行支援事業所。就労継続をゴールに、あなたに本当に合っているスキルと仕事を一緒に探し、ビジネスキャリアを築く就労移行支援サービスを提供します。トップページはこちら→
うつ病・40代でも転職できます
うつ病でも(40代でも)、転職することはもちろん可能です。
そのためには、「自分一人でなんとかしようとせず、医療機関はもちろん、うつ病の(転職)サポート団体に相談する」ことが大切です。次の2つを意識してみましょう。
- ①まず大切なのは、医療機関につながって療養・治療すること
- ②「すぐに退職」より「まずは休職」がオススメ
①まず大切なのは、医療機関につながって療養・治療すること
うつ病の方は、実際に転職に向けて動くよりも前に、次の2つは必ず行ってください。
- (1)医療機関につながること
- (2)しっかりと療養すること
医師から「転職活動をしても大丈夫ですよ」と許可が出たら、実際に転職活動を開始しましょう。
療養は、経済的な問題から難しいとお思いかもしれませんが、経済的な支援制度もあります(後で説明します)。
うつ病は、治らないまま(対処しないまま)無理をし続けると症状が悪化して、その後の回復が遅くなる可能性が高まります。医療機関とつながり、しっかりと療養して、自分なりのうつ病への対処法を見つけましょう。
そして、後述するうつ病からの転職をサポートする団体にも相談しましょう。
②「すぐに退職」より「まずは休職」がオススメ
実際に療養や転職活動を行うかどうかに関わらず、うつ病の方は、すぐに退職するよりもまずは休職することがオススメです(休職・退職するかどうかの判断は、後の章「うつ病で休職・退職するか仕事を続けるかのおおよその基準」で紹介します)。
うつ病の方は、その症状から、脳の働きが鈍くなり、前のように仕事ができなかったり、体力・気力がなくなったり、様々なことを悪い方に考えたりします。
そんな状態では、「退職」という大事な決断を行わない方がよいのです。うつ病の治療が終わってからの方が、より冷静な判断が行えます。お勤め先の休職制度を確認しましょう。
休職中は、医師の指示に従って休養することが大切です。その上で、可能であれば、職場に、業務内容・環境・人員配置などについての希望を伝えましょう。
また、医師や職場以外にも、カウンセラー、家族、身近な信頼のおける友人などに相談することで、より納得いく選択をすることができると思います。
ただし、すでに退職済みの方も、様々な支援団体につながることはもちろん可能ですので、変に不安にならないようにしましょう。
うつ病経験のある40代の転職の概要
続いて、「うつ病で40代での転職」についてご紹介します。考え方の主なポイントは、次の5つです。
- ①正規雇用はもちろん目指せる
- ②「未経験職の正規雇用」は難しい場合もある
- ③正規雇用以外の道もある
- ④障害者雇用という選択肢もある
- ⑤転職に何を求めるかが大切
①正規雇用はもちろん目指せる
「うつ病を経験した40代だと、正規雇用への転職は難しいのではないか」と思う方は大勢います。
正規雇用に就くことは、もちろん可能です。特に、これまでに経験や実績がある業界なら、その可能性は高まるでしょう。
ただし、「これまでと同じ業界・職種の正規雇用にこだわるあまり、なかなか内定が出ず、うつ病にも悪影響がある」という状態は避けたいところでしょう。
また、「うつ病の原因」と「これまでの仕事」が関係する場合は、別の業界を目指すことも十分に考えられます。
あなた一人で転職に取り組むのではなく、各種のサポート団体と話をすることで、「あなたのための、前向きな将来」がわかっていきます。
②「未経験職の正規雇用」は難しい場合もある
一方で、うつ病経験のある40代以上では、「未経験職の正規雇用」への転職は難しい場合もあります。
なぜなら、40代以降を対象とする求人には、主に以下のような傾向があるからです。
- これまでの実績、経験が求められる
- マネジメントポジションの求人が多い
- マネジメントは「他の社員を管理する」仕事なため、急な欠勤や休職の可能性が高い人は採用したがらない(=うつ病の既往歴がある人は敬遠される傾向にある)
ただし「不可能」ではありませんし、転職活動でうつ病を開示する必要も基本的にはありません。
「うつ病を経験しているから(40代以上だから)ダメだ」などと思いつめすぎないようにしましょう。
③正規雇用以外の道もある
正規雇用にこだわらない場合、選択肢は増えていきます。
「一般的には、正規雇用よりもアルバイトやパート雇用の方が採用されやすい」ということは、ご理解いただけると思います。
そう言われても、「これまでずっと正規雇用だったのに…」「非正規だと待遇がよくないかも…」とお思いになるかもしれません。
将来設計を考えたり、生活のための現実的な給料を考えたりすることは、もちろん大切です。ですがそもそも、非正規雇用は「悪い」というものではありません。
また、次のように、非正規雇用だからこそのポジティブな面もあります。
- 短時間から労働に再び慣れる
- 興味のある仕事を掛け持ちしやすい
- アルバイトを通じて自分に向いた職種を探す
- アルバイトを通じて知識やスキルを身につける
- 仕事・職場が合わなかったときにも辞めやすい
将来的に改めて正規雇用・起業・個人事業主などを目指すかどうかは別として、「直近の選択肢には、非正規もある」と覚えておくと、気が楽になると思います。
また、「アルバイトからの正社員登用」を行っている職場もありますし、無期転換ルールもあります。
無期転換ルール…「同一の使用者(企業)との間で、有期労働契約が5年を超えて更新された場合、有期雇用契約労働者からの申し込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されるルール」です。(参考:厚生労働省「無期転換の概要 契約社員、アルバイトなどの方」)
その上で、給料や待遇などについてサポート団体とも話すことで、様々な職種が見えてくると思います。
④障害者雇用という選択肢もある
障害者手帳を取得して、障害者雇用を検討することも選択肢のひとつです。
障害者雇用とは、文字どおり、「障害者を対象とする求人・雇用枠」のことです(障害者雇用以外の求人枠は、俗に「一般枠」と言います)。
障害者枠は、一般枠に比べると、40代前半の採用可能性が高まります。
⑤転職に何を求めるかが大切
うつ病になると、思考力が低くなったり、無意識のうちに悲観的になったりします。うつ病のそうした症状は、あなたが転職を考えるときに、負の影響を及ぼす可能性があります。
ですので、しっかりと治療を行い、うつ病の症状がある程度落ち着いた後で、次のようなことを総合的に考えましょう。
- 現状の職場や仕事内容について、自分に合っている点・合っていない点は何か
- 自分はどういったことがしたいのか(自分への影響)
- 自分の得意なこと苦手なことは何か
- 経済的な面や生活環境的な面はどうか(家族や身近な人への影響)
これらは、元気な人でも一人で考えるのはなかなかハードな作業です。ハローワークや就労移行支援などの支援者と話をして、一緒に考えていきましょう。
うつ病で40代の転職をサポートする機関・団体のご紹介
この章では、うつ病で40代の方が転職に向けて利用できるサポート機関・団体をご紹介します。主な例として、次の4つがあります。
- ①就労移行支援事業所
- ②ハローワーク
- ③(うつ病の人向けの)転職エージェント・転職サイト
- ④精神保健福祉センター
①就労移行支援事業所
すでに退職した状態(失職している状態)での転職活動には、就労移行支援がオススメです。
就労移行支援とは、うつ病などの方の就職・転職に向けたサポートのことで、国の認可に基づいて民間事業者が運営するサービスです(最低0円から利用可能です)。
この記事の運営元であるキズキビジネスカレッジ(KBC)も、就労移行支援事業所の一つです。
就労移行支援事業所が行うサービスは、事業所によって様々に異なります。
KBCのサービス内容や特色については、KBCのトップページからをご覧ください。
②ハローワーク
ハローワークでも、うつ病からの転職について相談できます。
ハローワークでは、職業相談、職業訓練、求人情報の提示といったサポートを行っています。
うつ病であることを告げて登録をしたり、障害者枠の求人を探していることを告げたりすると、うつ病の方に向いていると思われる求人情報を紹介されたり、より専門的な支援を紹介されることも可能です。
窓口相談では、「うつ病のある(うつ病を経験した)状態でどのように就職活動をすればよいのか」「面接や履歴書にはどのように記載すればよいのか」なども話せます。
興味のある方は、管轄のハローワークに問い合わせてみてください。(以上参考:東京労働局「東京ハローワーク」)
現実として、職探しをハローワーク「だけ」で行うことはオススメしません(ハローワークに求人を出していない会社・団体も多いため)。ハローワークを利用する場合も、他の求人サービスを併用することをオススメします。
③(うつ病の人向けの)転職エージェント・転職サイト
最近は、うつ病の方に対応している転職エージェントや求人紹介サービスもあります。
転職エージェントや求人紹介サービスはたくさんありますので、数ある中からあなたに向いたところを選ぶことができます。
サポート内容は、各エージェント・サービスによって、転職相談、採用後のサポート、障害者向け・障害者専用求人の紹介など様々です。
④精神保健福祉センター
全国にある精神保健福祉センターでは、次のような悩みなどの相談が可能です。
- 出勤できない
- 職場の人間関係がうまくいかない
- イライラする
- 眠れない
- 気分が落ち込む
- 心身の変調がひどい
医療機関支援機関などの関係機関なども紹介可能です。
オープン就労・クローズ就労とは?
うつ病の人が、治療しながら転職する際、考えなければならないことのひとつが「うつ病を会社に伝えて(オープンで)働くか、伝えないで(クローズで)働くか」ということです。
それぞれのメリットと注意点について、カンタンにお伝えします。詳細は、下記のコラムをご覧ください。
- 必要な配慮を伝えることで業務上の配慮(業務の量調整、勤務時間調整など)を得られることが期待できる
- 産業医や産業看護師がいる場合、どのような配慮が必要か上司につないでもらえる
- 主治医に業務軽減や残業免除が必要という診断書を記載してもらって会社に提出することができる
- (会社に籍がない状態であれば)就労移行支援事業所などの就労支援サービスを利用して、就職先とあなたをつなぐサポートなども受けられる
- 面接での伝え方によっては、通常業務に差し支えがあるのではないか、と採用を敬遠されることがある
- うつ病のある人(うつ病を経験した人)を採用しない、という採用基準を設けている企業からは採用されない
- 採用を敬遠されることはない
- うつ病であることを理由に採用を渋られることはなくなる
- 配慮を期待できない
- 自分の調子をしっかりと把握しておく必要がある(通院や休息の時間確保や、業務負担の調整など)
- 就労定着のためのサポートに、勤め先を加えることができない
うつ病で休職・退職するか仕事を続けるかのおおよその基準
うつ病は、身体の病気やケガと違い、「どういう状況なら休養(休職・退職)するべき」という、一般的かつ明確な基準を出すことは難しいです。
「主治医の判断に従う」のが基本ですが、参考として、「休んだ方がいい可能性が高い場合」「休まなくてもよい可能性が高い場合」の具体例をご紹介します。
ただし、「休まなくてもいい場合」に当てはまると思っても、自分で判断せず、主治医とよく相談してください。(参考・引用:『働く人のこころのケア・ガイドブック 会社を休むときのQ&A』金剛出版、福田真也)
①休んだ方がいい場合〜個人の努力ではどうしようもない〜
休んだ方がいい場合の基準は、下記のとおりです。
- 明らかにやる気がなくなって、気分が落ち着かずに仕事に集中できない。書類やPCは目で追うのがやっとで、まったく頭に入らない。単純なミスや見落とし、物忘れが増え、明らかに業務に支障をきたしている
- 業務の成果やアウトプットが、数週間以上、極端に落ちている
- 同僚とのコミュニケーションが苦痛で、目を合わせられず、誰とも話す気力がわかない
- 上司の言動や職場環境がひどく、仕事に行くと消耗して改善の見込みがない
- 朝の通勤がつらく、(電車通勤の場合)途中の駅で降りてベンチで休むことが週に2回以上数週間続いている
- 遅刻や早退・欠勤が増えて、年次有給休暇(有給)の限度をかなり超えて休んでいる
- 有給で数日休んでもまったく回復しない、休み明けの出社がすごく苦痛で遅刻する
- 朝、起きた時、今日も一日始めるのかと絶望的な気分になっている
- 休みの前日も寝付けない、休日も夜中や朝早くに起きて、昼間はボーッとして横になってしまう
- 家にいても気が休まらない、楽しいことや趣味をしても楽しくなくなる、またはできない
- 顔を洗ったり、歯を磨いたり、風呂に入るのも面倒になる
- 何事にも悲観的になり、関係ないことでも自分に責任があるように感じる
- 一人暮らしの人はより厳しい
- 主治医から仕事を休むよう強く勧められた
- 過去にうつ病で1か月以上休職し、今回も前回と同じ状況になっている
- 死にたい気持ちが強い、世の中から消えてしまいたいといった自殺願望がある
②休まなくていい場合〜自分で解消できる、自身や会社の配慮で対応できる〜
休まなくてもいいと考えられるのは、次のような場合です。参考として紹介しますが、「実際のあなた」がどうするかは、主治医とよく相談してください。
- 得意な業務はこなせて、その業務に専念するような上司の配慮がある
- 定時に帰る、休日出勤がないなどを会社が配慮してくれる。テレワークやフレックスタイムを使えば、それほどの負担は感じずに仕事をこなすことができる
- 朝、通勤する際、それほど苦痛なく行ける。満員電車も大変だがなんとかやり過ごせる
- 有給の範囲で数日休めば回復して、休み明けは仕事ができる
- 仕事はつらいが、趣味や親しい友人と会うと気分が晴れてすっきりする
- 仕事の疲れは土日(休日)に十分に休むことで一掃できる
- 一緒に住む家族がいて、つらいことを理解してくれ、休むときも協力してくれる
- 精神科や心療内科を受診して服薬したら、速やかに回復して、なんとか仕事ができるようになった。
③多くの場合は、明確には判断できない
休むべきか休まなくてもいいかは、多くの場合、明確には判断できません。
うつ病の方は、病気と健康のグレーゾーンにいることが多いのです。
そのため、下記のようなポイントも考慮しながら、仕事を休む(辞める)か続けるかを考えていくことになると思います。
- 仕事の内容や負担
- シフト勤務や夜勤の有無
- 上司などとの人間関係や職場の環境
- 会社の健康サポート体制
- 家族と同居しているか、家族は協力的か
- 借金などの経済面
とは言え、うつ状態に近ければ近いほど、自分だけできちんと評価して決めるのは難しいものです。同居家族や親しい友人の声も参考にしながら、最終的には主治医の意見に従ってください。
うつ病での休職・退職の際に知っておくと役立つ支援制度
うつ病によって以前のように働くことが難しくなると、経済的な不安を感じられる方が多くいらっしゃいます。特に40代以上の方は、うつ病への様々な支援があることをご存知ないこともあります。
この章では、うつ病の方が利用できる可能性のある制度を紹介します。使える制度は積極的に使っていくことで、収入・支出や転職に役立つと思います。主な制度は、次の5つです(窓口・問い合わせ先も後でまとめて紹介します)。
- ①自立支援医療(精神通院医療)制度
- ②年次有給休暇(非正規の方も)
- ③病気休暇制度(休職制度)
- ④健康保険の傷病手当金
- ⑤雇用保険(失業保険の基本手当)
「休職中にもらえる傷病手当金(健康保険)」、「失業中にもらえる失業保険の基本手当(雇用保険)」は、少し内容が複雑で、詳しい内容を知らない人も多いので、ぜひチェックしてみてください。
なお、各制度は随時変更・改善されています。
あなた一人で制度の詳細を調べるのではなく、医師、役所の人、うつ病の(転職)サポート団体などに相談すると、よりあなたに向いた支援が見つかると思います。(参考:『働く人のこころのケア・ガイドブック 会社を休むときのQ&A』福田真也著)
①自立支援医療(精神通院医療)制度
自立支援医療(精神通院医療)とは、「通院して精神医療を続ける必要がある方」のための、通院医療費の自己負担を軽減する制度です。(参考:厚生労働省※PDF「自立支援医療(精神通院医療)について」)
相談・相談先は、市区町村の障害福祉課です。うつ病の方の場合、通院が必要になることが多いので、対象となることも多いと思います。
この制度を利用できると、医療費の自己負担を3割から1割にすることができます。また、1か月当たりの1割負担も過大にならないよう、世帯の所得に応じて支払い上限を設けています。
通院にかかる費用(生活への負担)を減らすことで、うつ病の治療に専念できたり、治療をしながら仕事を続けたりする助けになると思います。
なお、「通院にかかる医療費」が1割になるので、入院やカウンセリングなどについては適応されないことにご注意ください。
②年次有給休暇(非正規の方も)
正規雇用の方はよくご存知かもしれませんが、年次有給休暇とは、一定期間勤続した労働者に付与される、「休んでも給料が減らない休暇」のことです。
一方で、非正規雇用の方にも有給休暇が設定されることは、あまり知られていないことかもしれません。
非正規で働いている方も、「自分には有給休暇はない」と思い込まず、職場に確認してみましょう(これまでの勤務期間が短い場合は、設定されないこともあります)。
有給は、一定期間勤続していれば年に20日、前年度の繰り越しが最長2年まで認められるので、多い方なら40日くらいあります。
なお、療養のために有給を長期間使いたい場合は、職場から診断書の提出を求められることもありますので、その場合は主治医に発行を依頼しましょう。
年次有給休暇は、事業場の業種、規模に関係なく、全ての事業場の労働者に適用されます。年次有給休暇は、雇入れの日から起算して6か月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して与える必要があります。(参考:厚労省大阪労働局「年次有給休暇(Q&A)」)
③病気休暇制度(休職制度)
お勤め先によっては、療養のための「病気休暇制度(休職制度)」が就業規則で定められています。
厚生労働省の調査によると、労働者数30人以上の4,127社のうち25.5%の会社が「病気休暇制度」があると答えています。(参考:厚生労働省「平成三十一年度就労条件総合調査」)
あなたのお勤め先に病気休暇制度があるか、確認してみましょう。
通常、病気休暇制度を利用するためには医師の診断書が必要になりますので、主治医に発行を依頼しましょう。
休職できる期間は、数か月~2年くらいが多いです。休職期間中に支払われる給与は、お勤め先によって、全額から無給まで様々です。
病気休暇制度がない会社、またそれを超えて休む場合は、給与が発生しない(または減額される)「休職」に入ります。
休職制度は法的な義務がある制度ではなく、各企業の就業規則や社内規定によって定められています。給与がない(少ない)場合は、次項の健康保険の傷病手当金を利用できます。
④健康保険の傷病手当金
休職によって給与が出ない間の収入について、健康保険の傷病手当金があります。
契約社員などの非正規雇用であっても、健康保険に加入していれば、健康保険組合から1年6カ月の傷病手当金の支給を受けることができます。
- 支給金額:基本給の7割
- 支給期限の目安(休職期限満了の目安):1年6か月
お勤め先によっては、支給金額が基本給の8割だったり、期限を1年6か月以上に延長できたりすることもあります。
申請・相談にあたっては、会社の人事・総務を通じて、健康保険組合か協会けんぽ(全国健康保険協会)とのやり取りを行います。
⑤雇用保険(失業保険の基本手当)
うつ病に伴って仕事を辞めた場合には、雇用保険(失業保険の基本手当)の受給が可能です。申請する場合は、公共職業安定所(ハローワーク)に連絡してください。
最大支給期間は細かく定めがあり、支給金額は、基本給の約50~80%です。
自己都合退職と判断された場合は、2か月の給付制限期間(給付がない期間)が発生します。(参考:厚生労働省※PDF「「給付制限期間」が2か月に短縮されます」)
業務によってうつ病になった場合は、「労災」の判断が下ります。
どのような判断がされるのかは複雑ですので、ご自身の雇用保険がどのような扱いになりそうか、退職前に主治医に相談しておきましょう。
なお、雇用保険は、前項の健康保険の傷病手当金と同時受給はできません。
より詳しくは「基本手当について ハローワークインターネットサービス」をご覧ください。
⑥各種社会保障制度の窓口
前項までにお伝えしたものも含めて、うつ病の方が利用できる可能性の高い社会保障制度の窓口を紹介します。
制度の概要を紹介していない社会保障もありますので、気になる場合は、先につながった相談先や主治医にご相談することをオススメします。
- 自立支援医療:市区町村の障害福祉課
- 傷病手当金:お勤め先の人事・総務担当部署経由で、健康保険組合か協会けんぽ(全国健康保険協会)
- 雇用保険:ハローワーク
- 転職先の相談・紹介:ハローワーク、転職サイトや転職エージェント
- 障害者雇用の相談:ハローワーク専門援助部門、障害者職業センター、就労移行支援事業所
- 労災保険:労働基準監督署長
- 精神障害者保健福祉手帳:市区町村の障害福祉担当課
- 介護保険:市区町村の介護保険担当窓口
- 障害基礎年金:日本年金機構の年金事務所または市区町村の国民年金課、社会保険労務士事務所
- 生活保護:市区町村の障害福祉課
- 高額医療費制度:健康保険組合か協会けんぽ
- 医療費の確定申告での所得税の還付:税務署
うつ病の概要
この章では、参考として、改めてうつ病の概要を、次の6つの観点からご紹介します。
- ①うつ病の3つの症状
- ②うつ病の原因別3種類
- ③うつ病との付き合い方を知っておこう
- ④病院とつながっておこう
- ⑤補足:うつ病と似ている「双極性障害」とは
- ⑥補足:「新型うつ」は、正式な病気(病名)ではない
①うつ病の3つの症状
うつ病の症状は、大きく(1)気分の問題、(2)行動の問題、(3)身体症状の3つに分けられます。
(1)気分の問題
気分の問題に分類される症状としては、日常生活では、次のようなものがあります。
- 落ち込んで、わけもなく悲しい
- いつも急かされているようで、焦って落ち着かない
- 細かいことが気になって不安になる
- 今まで楽しかった趣味が楽しめない
- 仲の良い友人とあっても楽しめない
人間関係では、次のようなものがあります。
- 普段なら気にならないちょっとした一言がずっと気になってつらくなる
- 人に何を言われても「自分がいけないから非難されているんだ」と感じるなど、何でも悪く受け取る
こういった症状が悪化すると、客観的に見ると「極端なまでの思考」に囚われてしまうこともあります。
- 自分は、働けなくなって収入がなくなり、ホームレスになる
- どんな仕事をしても絶対にうまくいかないに違いない
- 自分が転職できるところなどあるはずがない
(2)行動の問題
行動の問題に分類される症状は、日常生活では、次のようなものがあります。
- 何をするのも面倒できつい
- 倦怠感が強く、1日中ほとんど動けない
- 少し動くと、どっと疲れる
仕事の面では、次のようなものがあります。
- 集中できない
- 新しい業務や、新しい手順で仕事をすることがつらい
- 通勤電車に乗るのが以前に比べてとてもつらい
- わけもなく焦燥感にかられて、落ち着きがなくなる
- 電話、メール、LINEなどができなくなる(するのに大きな労力を使う)
(3)身体症状
身体症状としては一番大きな問題は、次のような、様々な「眠れない」です。
- 入眠困難(寝付けない)
- 中途覚醒(途中で起きる)
- 早朝覚醒(ゆっくり寝たくても早朝に起きる)
睡眠時間が短くなり、睡眠の質も落ちるために、朝の爽快感がなくなります。
起きているときは、身体の強いだるさや、頭にモヤがかかったように感じます。
これらは、昼間の活動モードで働く交感神経から、夜間の休養モードで働く副交感神経への切り替えがうまくいかなくなることが関係します。
うつ病になると、この切り替えスイッチに支障が起きるため、安らげず眠れなくなるため、疲労が蓄積して疲弊するのです。
「眠れない」以外にも、以下のような症状が挙げられます。
- 気持ちが悪く吐き気がして食欲が落ちる
- 過食になり、食べ続ける
- 急にドキドキと動悸がする
- 易疲労感(いひろうかん。身体がだるく、疲れやすくなる)
- ひどい頭痛や肩こり
- めまい
人によっては、気分や行動の前に、こうした身体症状だけを先に感じる場合もあります。
②うつ病の原因別3種類
現在、うつ病は、原因別に3種類にわけて考えられています。
- ①身体因性うつ病:身体の病気や薬の副作用など明確な外因で起きる
- ②内因性うつ病:明確な要因が見られないのに起きる
- ③神経因性うつ病(心因性うつ病):職場での人間関係やトラブルなどのストレスが原因で起きる
ただし、どの種類でも、症状の現れ方にさほど違いはありません。
精神科医が、うつ病の疑われる患者さんを見るときは、まず①の身体因をチェックし、②は遺伝的な背景もあるので家族歴を丁寧に聞いて、それから③のストレス状況を見定めていく場合が多いです。
③うつ病との付き合い方を知っておこう
症状がどのようなものであれ、うつ病は、早期発見・早期治療が大切です。
また、うつ病の治療は、ほとんどの場合は長期戦となります(これを、慢性疾患と言います)。
「一度回復すれば、その後は何も気にしなくてよい」というようなタイプのものではなく、高血圧や糖尿病のように、注意し続ける必要がある病気です。
うつ病との付き合い方が少しずつわかってくると、日常生活において、状態を悪化させすぎずに、ある程度の距離感を持って付き合っていくことができるようになっていきます。
うつ病で転職される場合でも、現在の仕事を続けていく場合でも、「自分のうつ症状との付き合い方」は知っておいて損はありません。
まだサポート団体につながっていなければ、そういった場所をうまく活用して、対処法を見つけていくことをオススメします。
④病院とつながっておこう
すでに病院に通っている方もそうでない方も、精神科か心療内科と繋がっておくことは大前提です。
医学的な視点から治療やアドバイスを受け続けることで、うつ病は改善していき、転職も可能になっていきます。
まだかかりつけ医を決めていない場合、受診する病院を探す基準には、次のような点があります。
- 自宅や職場から近い(通院する負担が少ないため)
- 夕方以降や土日なども診療している(働きながら通院する場合や、平日動けない場合も通院できる)
- 受付の対応が優しい(通院・診察で心理的ストレスを感じない)
- 医師が丁寧で、同じ目線で話をする(医師を信頼して治療に臨める)
初めて行った病院の印象がよくない場合、気が重いかもしれませんが、ぜひセカンドオピニオン、サードオピニオン(他の医師に診てもらうこと)を検討してみてください。
「主治医を信頼して治療を進めることができる」ということは、うつ病の治療の上でとても大切です。
そして、民間療法ではなく、正式な「病院」での治療を受けましょう。
⑤補足:うつ病と似ている「双極性障害」とは
うつ病と双極性障害は、似ているようで別の病気です。
双極性障害とは、うつ状態のときはうつ病と同じ症状があらわれますが、それに加え躁状態(よくしゃべったり、よく動き回ったり、いろんな考えが次々に浮かんだりする症状)が見られる病気です。
双極性障害は、うつ状態が見られるため、うつ病と勘違いされることが多い病気です。
躁とうつの状態は、数週間~数か月置きに変化するといわれています。
この双極性障害には、次の2種類があります。
- (1)躁症状の激しい、双極性障害Ⅰ型(従来の「躁うつ病」のイメージ)
- (2)躁症状のあまり目立たない、双極性障害Ⅱ型
I型よりもⅡ型の方が、うつ病と見分けがつきにくいようです。
うつ病と双極性障害では、使用される薬、治療法、対処法が違う場合が多いです。
心当たりがある場合は、具体的な症状とともに、主治医に相談する必要があるでしょう。
⑥補足:「新型うつ」は、正式な病気(病名)ではない
マスコミやインターネットで、「新型うつ」というものが話題になることがあります。
実はこれは、正式な病気(病名)ではありません。
「新型うつ」の解説は、正式な病気との混同や誤解を避けるため、この記事ではあえて省略します。
その上で、「正式な病気ではないとしても、世間で『新型うつ』と言われるような苦痛を実際に抱えている」とお思いの方は、他の病気などの可能性があります。
いずれにしても、気になる方は正式に医療機関を利用しましょう。
まとめ
ここまで、うつ病で40代の転職について、様々なことをご紹介しました。うつ病の中にあって、40代での転職への不安は小さくないことをお察しします。ですが、ぜひ「うつ病の不安は医療機関へ」「転職の不安は支援機関へ」ご相談ください。そうすることで、きっと「これからのこと」を前向きに考え、将来を開いていけるはずです。
この記事が、少しでもあなたのお役に立てば幸いです。
この記事の運営元であるキズキビジネスカレッジ(KBC)は、うつや発達障害の方のための、就労移行支援事業所です。
就労移行支援事業とは、一般企業での就職や、仕事で独立する事を目指す障害者の方の、本人に適した職場への就職・定着を目的として行われる、障害福祉サービスの1つです。うつ病(など)であることが診断書から明らかな場合などは、国の補償で最低0円から就労支援を受けられることもあります。
キズキビジネスカレッジの特徴は、会計・ファイナンス、マーケティング、プログラミング、ビジネス英語などの高度で専門的なスキルを学べる講座やプログラムを用意していることです。少しでも気になる方は、【キズキビジネスカレッジの概要】をご覧の上、お気軽にお問い合わせください(ご相談は無料です)。
ご相談は無料ですので、「うつ病と仕事」についてお悩みやご希望があるようでしたら、ぜひ一度ご連絡ください。