高次脳機能障害のある人に向いてる仕事 就職を成功させるコツを解説
こんにちは。就労移行支援事業所・キズキビジネスカレッジ(KBC)です。
高次脳機能障害のあるあなたは、以下のようなお悩みをお持ちではないでしょうか?
- 高次脳機能障害のある私は、どうすれば働けるのか?
- 高次脳機能障害があるが、また働きたい
高次脳機能障害のある人が、働くことについてのお悩みを抱えられることは少なくありません。
そして、そういった人のために、高次脳機能障害に対応した治療、対処法、支援などが用意されています。
このコラムでは、高次脳機能障害のある人の向いてる仕事や向いてない仕事、就職を成功させるコツ、高次脳機能障害の概要について解説します。あわせて、高次脳機能障害のある人が利用できる支援機関や支援制度を紹介します。
高次脳機能障害のある人に向いてるアルバイトについては、以下のコラムで解説しています。ぜひご覧ください。
高次脳機能障害の症状が現れると、仕事はもとより、生活上でさまざまな困難が発生することがあります。ですが、このコラムを読むことで、あなたの就職・転職は近づいてくるはずです。
医療機関とのつながりを保つことを大前提に、解説するような対応を行ったり、支援機関や支援制度を積極的に利用したりしていただければ幸いです。
私たちキズキビジネスカレッジ(KBC)は、高次脳機能障害のある人のための就労移行支援事業所です。
- 病気や障害があっても、KBCでは初任給は38万円も
- 通常52%の就職率が、KBCでは約83%
- 通常約1年半かかる就職内定が、KBCでは平均4ヶ月
新宿・横浜・大阪に校舎があり、障害者手帳がなくても自治体の審査を経て利用することができます。遠方の方は、日常的にはオンラインで受講しながら(※お住まいの自治体が認めた場合)、「月に1回、対面での面談」を行います。詳しくは下記のボタンからお気軽にお問い合わせください。
目次
高次脳機能障害のある人に向いてる仕事
高次脳機能障害のある人には、一般的に以下のような仕事が向いてると考えられます。
- マニュアルがある軽作業
- マニュアルがある事務仕事
- スーパーマーケットの冷蔵コーナー限定の品出しなどの店舗の商品の品出し
- 農作業
- 担える範囲で発症・受傷前に就労していた仕事
理由は、以下のとおりです。
- 作業を一つずつ進行できるため
- 業務マニュアルがあるため
- 臨機応変な対応があまり求められないため
- 接客業務は、補助があれば担える可能性があるため
ただし、もちろん個々人の適性がありますし、事務や軽作業の内容は職場によってさまざまです。ご自身に向いてる仕事のことは、支援機関への相談をオススメします。
高次脳機能障害のある人に向いてない仕事
高次脳機能障害のある人には、一般的に以下のような仕事は向いてないと考えられます。
- 複数の作業の同時進行がある仕事
- 臨機応変な対応が求められる仕事
- 新しい業務が次々に発生する仕事
- スケジュール管理や調整、来客応対、会議や商談・イベントなどの準備、社内外の人とのやり取りなど、顧客折衝や秘書業務のような仕事
理由は、以下のとおりです。
- 高次脳機能障害の症状として、集中力の低下があるため
- 高次脳機能障害の症状として、脳が疲れやすくなるため
- 記憶障害がある場合、日程等の大事な内容を忘れるため
- 社会的行動障害によって、感情のコントロールに困難を抱えている場合、顧客とのトラブルを起こすリスクがあるため
キズキビジネスカレッジ(KBC)の知見として、仕事を継続する上での困難度が上がる理由としては、社会的行動障害の影響が大きい印象があります。
注意障害や遂行機能障害の低下には職場のフォローや理解を得やすい傾向にあります。一方で、感情コントロールの障害は職場が対応しきれない例が少なくありません。
ただし、こちらも当然、個人差や職場差はもちろんあります。
就職活動を行う際は、支援者とともに、ご自身の状態を伝えるとともに、どのような仕事なのかをしっかり確認するようにしましょう。
高次脳機能障害のある人が就職を成功させるコツ3選
この章では高次脳機能障害のある人が就職を成功させるコツについて解説します。
コツ①医療機関とのつながりを保つ
まず何よりも大切なのは、医療機関に相談し、適切な治療やリハビリテーションを受けることです。
発症・受傷されたとき、急性期病院で手術や治療、早期のリハビリテーションを受け、その後、回復期病院で家庭復帰、社会復帰を目指すリハビリテーションを受ける場合が多いかと思います。
リハビリテーションの家でも示したように、まず家の土台、あらゆる生活の基礎を固めていただくことが大切です。
病院や支援施設では、アセスメントということを行っています。
アセスメントとは、日常生活の情報や行動観察、机上検査、医療情報などから、どのような高次脳機能障害があるのか、その他の身体機能・感覚機能に支障はないか、日常生活や社会生活の自立度などを把握するものです。さらに、支援者の状況や自宅や職場などの生活環境、当事者の状態や希望、健康状況、生活リズムなどの全体像も見ていきます。そして、それらのことをどのくらいの期間で、どの程度回復することが可能か推測するものです。
治療のために、主治医や支援機関にあなたの希望などを伝え、ともに治療や就職への道のりを歩いていくことが大切と言えるでしょう。
主治医や支援者と相性が悪い、信頼することができない、と感じられる場合には、治療やリハビリそのものをやめるのではなく、ご自身に合いそうな別の病院を探してみてください。
コツ②症状を把握し、復職・就職のステップをつくる
急性期病院での治療を終えた後は、医療機関・支援機関・支援制度などを使いながら、症状との自分なりの向き合い方、対処法を探しつつ把握していくことになります。
復職や就職を目指す際には、主治医に相談し、必ず許可を得るようにしてください。
リハビリのステップとしては、以下のような階層構造を意識されるとよいでしょう。(参考:齋藤薫、大場龍男『高次脳機能障害のある人への復職・就職ガイドブック』)
復職・就職という長期的な目標と、そこに至るための具体的で短期的な目標を立て、ステップを上がるようにひとつずつこなしていくことが、一番の近道となると思います。
症状を医師、支援者、家族などと共有し、生活リズムの管理、スケジュール・持ち物管理などに症状があらわれていないか確認しつつ、復職・就職の道のりを歩んでいきましょう。
コツ③自分の症状、特性を就職先に説明して理解を得る
復職・就職となったとき、職場側が気になるポイントは、どういった症状があるのか、どういった業務をまかせることができるのか、どういった業務は難しいのかという点になると思います。
ご自身の症状や特性を、自分ひとりで十分に伝わるように説明することは、どのような人であっても簡単なことではありません。
医師や就労支援機関を利用して、支援者とともに、そうしたことをどうまとめ、どう伝えるのかを考えましょう。
高次脳機能障害のある人の復職のポイント
元の職場への復職を考えている人は、「高次脳機能障害の発症前と後の変化」をしっかりと把握して、上手に伝えることが大切です。
変化を把握し、説明できるようにすることで、職場と復職の打ち合わせをするときに、職場側との意思疎通がスムーズに進み、また、適切な配慮を得られる状態で仕事を再スタートできる可能性が高まります。
- 復職準備プログラムに週4日通っています。体力は大丈夫です。データ入力のスピードは落ちていますが、ミスはほとんどありません。 →業務スピードが落ちることに配慮や対策が必要ということがわかりやすい
- 働けるかどうかは会社に戻ってみないとわからないですが、何とかできると思っています。 →どのような配慮や対策が必要なのかわからない
また、復職であれば、発症以前に行って慣れている業務も多いかと思いますので、「新しく覚える」という脳への負荷は少なくて済むでしょう。
高次脳機能障害のある人の転職のポイント
新規就職や転職を考えている場合も、「高次脳機能障害の発症前後の変化を把握すること」が大切です。
発症前後の変化を把握することで、就職活動の際に、「○時間は働くことができます(○時間以上は難しいです)」「この業務ならできます(この業務は苦手と思われます)」などと明確に伝えることができます。
説明材料の例としては以下のようなものがあります。
- 健康状態:通院頻度、生活リズムの安定、体調の自己管理など
- 体力:日中の活動状況(家事、外出、就労プログラムへの通所頻度など)
- 集中力:継続してどれくらいの時間、読書、パソコン作業、軽作業などを行えるか
- できる業務:軽作業、座位作業、データ入力、検品、ピッキングなど
- 苦手になった業務:電話の応対、会議録の作成、顧客対応、複数業務の同時進行など
- 工夫・対処の仕方:口頭指示を視覚化してもらう、メモを活用する、一回に一つの作業進行など
高次脳機能障害のある人が利用できる支援機関6選
この章では、高次脳機能障害のある人が利用できる支援機関を紹介します。(参考・引用:国立障害者リハビリテーションセンター、高次脳機能障害情報・支援センター「就労支援について知りたい」)
高次脳機能障害があっても、それぞれの状況に応じて、長期的に安定して働くためのさまざまなサービスがあります。
支援を利用しながら働いていくことは可能です。ぜひ、以下で紹介する支援機関の中から、ご自身に向いていそうな場所に連絡をしてみてください。
どの機関が向いてるのかわからない場合は、医師や、お住まいの市区町村の障害福祉担当部署に聞いてみることをオススメします。
支援機関①公的な就労準備支援プログラム
各自治体が、障害者への就労支援や相談などを実施しています。
ここでは、東京都心身障害者福祉センターで行われている「高次脳機能障害者のための就労準備支援プログラム」について紹介いたします。(参考:東京都福祉局 東京都心身障害者福祉センター「高次脳機能障害者のための就労準備支援プログラム」 )
東京都以外にお住まいの人は、お住まいの道府県のサポートを探してみてください。
東京都心身障害者福祉センターでは、「再び働くための準備」として、以下のようなプログラムを行っています。
- 外見上分かりにくい高次脳機能障害者のそれぞれの職業的課題を明らかにする
- 一般就労(あるいは復職)から福祉的就労まで、幅広い「職業生活」を実現する
- 働くことへの自信を回復する
- 職業生活への準備性を整える
- 自分らしい働き方を探す
- 生活の再設計を検討する
- 就労・復職に挑戦する
利用の対象者、利用期間、担当スタッフ、費用については、以下のとおりです。
- 障害者手帳の有無を問わず、高次脳機能障害のある人
- 年齢が15歳から65歳未満の人
- 単独で交通機関を利用して、認知面、身体面ともに安全に通所できる人
- プログラムの内容を十分に理解し、利用の意思を持つ人
- 利用期間は原則6か月
- 体力や通所経路などを考慮し、利用時間や利用日数はご相談の上、決定
- 作業療法士、言語聴覚士、福祉職、心理職、看護師などの専門職チーム
- プログラム利用にかかる費用は無料
- 通所に必要な交通費、昼食代は自己負担
- 工賃(給料)はなし
支援機関②障害者職業能力開発校
障害者職業能力開発校では、障害のある人が働く上で必要な基礎知識や技術を身につけるための職業訓練を行います。
全国19校の障害者職業能力開発校のほか、全都道府県で、企業・社会福祉法人・NPO法人・民間教育訓練機関など、地域の多様な能力開発施設を活用して、個々の障害者に対応した内容の訓練を委託実施しています。
詳しくは、それぞれの障害者職業能力開発校か、ハローワークにて相談することができます。
支援機関③地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、障害者手帳の有無を問わず、障害のある人を対象に、就職・復職に向けての相談、職業能力等の評価、就職前の支援、就職後の職場適応のための援助などのサービスを提供しています。
都道府県に1か所以上あり、こちら(地域障害者職業センター一覧)で全国の一覧が確認できます。
支援機関④障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターとは、就業およびそれに伴う日常生活上の支援が必要な障害のある人に対し、センター窓口での相談や職場・家庭訪問などを実施する団体です。
就職に限らず、生活面も含めて就職に向けたサポートを受けたい人に特にオススメです。
興味のある人は、お近くの事業所にご相談ください。(参考:厚生労働省 ※PDF「障害者就業・生活支援センター」)
支援機関⑤ハローワーク(公共職業安定所)
ハローワークでは、個々の障害の状況、適性、希望職種等に応じて、職業相談、職業紹介、職場適応のための助言を行っています。(参考:ハローワーク)
職業紹介では、障害者に限定した求人も一般の求人も応募可能です。
その他、面接に同行するサービスや就職面接会も実施しています。
また、これまでに紹介した、地域障害者職業センターでの専門的な職業リハビリテーションや、障害者就業・生活支援センターでの生活面を含めた支援など、関係機関と連携して支援を行っています。
支援機関⑥就労移行支援事業所
就労移行支援とは、病気や障害のある人の就職を援助する福祉サービスです。
就労移行支援事業所では、体調管理の方法、職場でのコミュニケーションの基礎スキル、就職に必要な専門スキルなどを学ぶことができます。
さらには、実際の就職活動でのアドバイス、就職後の職場定着支援も含む、総合的な就労支援を受けることが可能です。
就労移行支援事業所の詳細は、以下コラムをご覧ください。
高次脳機能障害のある人が利用できる支援制度3選
この章では、高次脳機能障害のある人が利用できる支援制度を紹介します。
支援制度①障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス
障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスには、主には以下の2つがあります。
- 入浴や排泄、食事の支援、あるいは創作的活動や生産活動の機会を提供します
- 生活の自立や就職を目指します
また、市区町村が地域特性や利用者の状況を踏まえて、相談支援や地域活動支援などの地域生活支援事業を行っています。
詳しくは、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口にて、相談および利用申請をすることができます。
なお、「器質性精神障害」として位置づけられた高次脳機能障害は、精神障害者保健福祉手帳だけでなく、自立支援医療受給者証(精神通院医療)や医師の診断書(原則として主治医が記載し、国際疾病分類ICD-10コードを記載するなど精神障害者であることが確認できる内容であること)があれば、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスの支給申請をすることができます。(以上参考:国立障害者リハビリテーションセンター「福祉サービスについて知りたい」、厚生労働省「障害者総合支援法」、「障害者自立支援法のサービス利用について(テキスト版)」、「障害者自立支援法のサービス利用について(PDF版:1.2MB)」)
支援制度②障害者手帳
障害者手帳を所持することで、各種税金や公共料金等の控除や減免、公営住宅入居の優遇、障害福祉サービス、障害者法定雇用率適用等のサービスを受けられます。
サービスの対象者や内容は、自治体により異なりますので、お住まいの市区町村の福祉担当窓口にお問い合わせください。
なお、身体症状と精神症状が併存する場合には、2種類以上の障害者手帳を申請することができます。
詳しくは以下の、それぞれの手帳の説明をご覧ください。
- 高次脳機能障害によって日常生活や社会生活に制約があると診断されれば「器質性精神障害」として、精神障害者保健福祉手帳の申請対象になります。申請時に必要な診断書を記載するのは、精神科医である必要はなく、リハビリテーション医・神経内科医・脳神経外科医等も可能です。
- 手足の麻痺や音声・言語障害があり、厚生労働省の定めた身体障害者程度等級表に該当する場合に、身体障害者手帳の申請対象となります。
- 発症(受傷)が18歳未満で、自治体が指定する機関において知的障害と判定された場合に、療育手帳の申請対象となります。
取得できる手帳は人によって異なります。まずは、市区町村の障害福祉担当窓口に確認してみてください。
障害者手帳の詳細は、以下コラムをご覧ください。
支援制度③介護保険制度による介護サービス
介護保険制度による介護サービスは、ホームヘルプ、住宅改修、デイサービスや入所施設などを利用することができます。(参考:厚生労働省「介護サービス情報公開システム」)
利用できるのは、以下のような人です。
- 40~64歳で脳血管疾患等の特定疾病により要支援・要介護状態の人
- 65歳以上で支援や介護を必要とすると認められた人
補足:その他
他にも、障害年金、生活保護、傷病手当金などの利用が可能なケースもあります。
ご自分がどのような支援を利用できるのかは、役所や、これまでに紹介した支援機関に相談することで具体的にわかっていくと思います。
高次脳機能障害とは?
この章では、高次脳機能障害の概要や種類、就職や生活における対応策について解説します。(参考:慶應義塾大学病院「高次脳機能障害のリハビリテーション」、東北医科薬科大学病院「高次脳機能障害:高次脳機能障害の原因・特徴」、一般社団法人日本小児神経学会「Q65:高次脳機能障害とはどのような原因で起こりますか?」、NHK「前頭葉など脳の損傷で起きる「高次脳機能障害」の症状や原因、治療法」、独立行政法人国立病院機構東京病院「高次脳機能障害ってなんだろう?」、公益社団法人東京都医師会「高次脳機能障害について」、国立障害者リハビリテーションセンター「高次脳機能障害を理解する」、東京都福祉局「第2章 高次脳機能障害の基礎知識」))
ただし、高次脳機能障害の症状の現れ方や程度は個人差が大きいため、ご紹介する症状が全ての人に共通するわけではありません。
「あなた個人の症状」については、主治医としっかり話すことを継続してください。
また、復職・転職・就職を考える際には、高次脳機能障害の症状だけでなく、それ以外のご自身の特性・性質も知っていくことで、よりよい働き方を目指すことができるでしょう。
高次脳機能障害の概要
脳の機能には、認識と行動において、低次脳機能と高次脳機能があります。
低次脳機能機能とは、見たり、聞いたり、感じたりすること、手足などを動かすことなどの機能のことです。
高次脳機能機能とは、見て、聞いて、感じた情報の統合や分析、その保存、それを使った思考やコミュニケーション、行動の計画や判断などの機能のことです。
高次の方が、より高いレベルの認識と行動をつかさどっています。
高次脳機能障害とは、この高次の脳機能が障害されたもので、脳損傷や脳の機能不全に伴う全ての認識や行動の障害を指すものです。
種類①注意障害
「注意」とは、以下4つの機能を言います。
- 特定の刺激にのみ意識を向けて、他の刺激には向けないでいる(選択的注意)
- 特定の刺激に意識を向け続ける(注意の持続)
- 複数の刺激に同時かつ適度に意識を向ける(注意の分配)
- ある刺激から別の刺激へと必要に応じて意識を向けかえる(注意の転換)
①②に比べ、③④は高度な機能です。
また、「注意」には容量があり、一度に明瞭に意識できる刺激の量は決まっています。
以下のような状態は、注意障害による可能性があります。
- ぼーっとしている
- 何かを始めても、すぐにやめる
- 他のことに気をとられる
- 店で目的のものが見つけられない
対策としては、以下のようなことが考えられます。
- 衝立(ついたて)で遮断する
- 静かな環境をつくる
- 時間で区切って休憩する
- 作業は一工程ずつ行う
種類②記憶障害
「記憶」とは、以下の3段階からなる機能です。
- 情報を一時的に記銘するように処理する(符合化)
- 記銘した情報を蓄える(貯蔵)
- 蓄えた情報を思い出す(検索)
情報を記憶するためには、まずその情報に注意を向けている必要があります。
それができた上で、記憶障害では、符合化・貯蔵・検索のいずれかまたは複数のことができなくなり、以下のような状態につながります。
- 同じことを何回も聞く
- 日付・場所・よく会う人の顔がわからない
- 職場に行っていないのに、毎日通勤しているかのように人に話す
- どこに行こうとしていたか忘れる
- 道順が覚えられない
- 展望記憶とは、「適切なタイミングで検索を行い、未来や将来の予定に関する記憶の働き」のことです。展望記憶が難しい場合には、「約束そのものは覚えていても、約束の時間になったときにちょうどよいタイミングで行動することを思い出せず、約束を守れない」などの困難があり得ます。
- 作業記憶とは、「話したり考えたりしているときに一時的に情報をとどめておき、それを操作するための作業場のようなもの」のことです。作業記憶がうまく働かないと、「会話しているうちにテーマから逸れる、どこまで話したかわからなくなる」などの困難があり得ます。また、「読書、推理、計算などが以前のようにできなくなる」場合もあります。
こうした記憶障害について、就職や生活での対策には、以下の2つがあります。
■対策(1)自分が覚えやすい様式で覚える
記憶は、思い出す情報の様式によって、以下の3つにわけられます。
- 聴覚的(耳で聞いた情報)
- 視覚的(文字や絵で提示された情報や空間的な要素の情報)
- 手続き的(運動や動作)
これらの様式による覚えやすさの違いがわかれば、記憶障害に対処するときに役立ちます。
■対策(2)整理と繰り返しを心がける
日用品や情報を少なくシンプルに整理し、日課や活動の手順を一定にして毎日繰り返すことで、日々の活動を身体で覚えていくことができます。
この対処法は、注意機能を働かせやすくすると同時に、保たれていることの多い手続き的な情報の記憶を利用するものです。
種類③遂行機能障害
「遂行機能」は、目的を持った一連の行動を適切に行うための機能です。
- 活動の目的を明確に意図する
- 目的を達成するための一連の行為の計画を立てる
- 目的を意識しつつ、一連の行為を開始・維持・返還・中止する
遂行機能に障害がある場合、以下のようなことが難しくなります。
- 目標を維持し続ける
- 変化する状況を適切に判断する
- 変化に合わせて行動を調整していく
より具体的には、以下のような状態につながり得ます。
- 要点が絞り込めない
- 優先順位がつけられない
- 後でよいことを先にやり始める
- 行動が開始できない
- 失敗を次に活かすことが難しくなる
- 段取りを組んで行動することが難しくなる
対応として考えられることは、以下のようなものです。
- 調理は、まずは簡単なものからやってみる
- 外出は、まずは近くの慣れたところからやってみる
- 行動する前に計画を立てて書き、支援者とそれを確認し、計画書を見ながら実行する
- 終わったら支援者と一緒に振りかえる
困っていることややりたいことはすべて書き出してみて、どれからとりかかるか、順序を支援者と決めていきましょう。
手順・計画・課題のリストを見える化してみることで、行動しやすくなるはずです。
種類④神経疲労
神経疲労とは、身体ではなく、脳が疲れやすくなっていることを言います。
「脳が、損傷した細胞を補うために、人一倍努力すること」で引き起こされると考えられています。
脳が疲れると、他の全ての高次脳機能にも影響を与えます。
イライラしやすくなり、表情も怒っているように見える場合があります。
そういった疲れを引き起こさないための対策としては、以下のようなものがあります。
- 活動のレベルを能力にあったものにする
- 適度に運動を行う
- 定期的に短い休憩を取る
種類⑤社会的行動障害
高次脳機能の損傷は、以下のように、社会的な行動にも影響があります。
- 感情や欲求のコントロールの低下
- 依存性
- 相手の気持ちを読み取りにくい
- 自分の気持ちの表現の不適切さ
- 些細なことにこだわってしつこく言う(固執性)
- 退行(子どもっぽくなる)
- 自発性の低下(行動を開始しにくい、声をかけないと動き出さない)
- 抑うつ症状
- 病識の低下(病識:自分がなんらかの病気である、という認識)
また、高次脳機能障害や身体障害と環境との相互作用によって、自信の喪失、意欲の低下、ひきこもりなどのさまざまな困難が二次的に起きることもあります。
対処・対応として大切なのは、「行動障害の背景を、支援者とともに把握していくこと」です。
- 症状のきっかけとなる刺激を減らす
- 必要なポイントでは支援を依頼する
支援者とともに、背景に応じたさまざまな工夫をすることによって、困難は地道に改善していきます。また、薬物療法を検討する場合もあります。
種類⑥その他
これまでにご紹介した以外の、高次脳機能障害の症状を列挙します。
- 損傷した大脳半球と反対側の空間に注意が向かなくなる症状
- 感覚そのものに異常はないが、ある感覚を介して対象を認識することができない症状(例:物が見えているのにその形がわからない。形はわかるのにそれが何であるかがわからない。しかし、触れば、あるいは音を聞けばわかる、といったような状態)
- 「聞く・話す・書く・読む」といった言語の操作がさまざまなレベルで難しくなる。他の症状と同じく個人差が大きい。
- 麻痺や不随意運動があるわけではないのに、指示された動作などがうまくできない症状。
- 高次脳機能障害の症状があっても、自身ではその症状に気づかず、自分に問題はなく、なんでも元どおりにできると感じている状態。
原因①脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)
高次脳機能障害を発症する最も多い原因は、脳卒中です。
脳卒中とは、脳の血管が詰まったり破れたりすることで脳が障害を受ける病気です。
脳の血管が詰まる脳梗塞、脳深部の血管が破れて出血する脳出血、脳の表面の血管にできたこぶが破れるクモ膜下出血の3つのタイプがあります。
原因②外傷性脳損傷
高次脳機能障害を発症する原因として、脳卒中に次いで多いのが、外傷性脳損傷です。
高次脳機能障害は、交通事故や転倒、高いところからの転落、スポーツ事故などによって脳が傷ついたり、圧迫されたりすることで脳神経が損傷することで発症しえます。
原因③低酸素脳症・脳炎
高次脳機能障害は、細菌やウィルスの影響で脳内の炎症が起きたり(脳炎)、心配停止などで脳の酸素が不足したりすること(低酸素脳症)でも発症する可能性があります。
補足:その他の原因
その他に、高次脳機能障害の発症は、脳腫瘍や脳性まひ、うつ病や統合失調症などの精神障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、ビタミンB欠乏症、子どもであればインフルエンザや突発性発疹に起因する急性脳症などが原因であることもあります。
しかし、先天性疾患や周産期における脳損傷、発達障害、進行性疾患を原因とする場合は、高次脳機能障害とは診断されません。
特徴①症状の組み合わせは人によってさまざま
高次脳機能障害は、一人に一つだけ発生するということは少なく、いくつかの症状が組み合わさってあらわれることがほとんどです。
特徴②複数の症状がお互いに関連する
注意機能はすべての高次脳機能につながっています。そのため、一つの症状が起きると、別の機能に影響を及ぼします。
- 注意機能が低下すると、他の機能にも影響を与える
- 神経疲労が起こると、脳が疲れて注意機能障害が起こる
特徴③環境や時間によってできることが異なる
同じような作業でも、物理的環境・人的環境・時間などの違いによって、できるときとできないときがある場合があります。
特徴④脳が疲れやすい
疲れると注意機能が落ちます。イライラしたり、めまいや頭痛などの自律神経症状が現れたりすることもあります。
特徴⑤健康状態が脳に影響を与える
脳以外も含めて、睡眠、食事、水分、体力などの健康状態が、脳の疲労に影響します。
補足:正常との差は曖昧
高次脳機能障害の状態・影響などは、検査だけではわからないこともあります。発症前との違いについて情報を集め、医師と話し、判断していくことも大切です。
高次脳機能障害の対処法・リハビリ3選
人間の持つ高次脳機能そのものと、高次脳機能障害のリハビリには、下図のような階層性があります。(『高次脳機能障害のある人への復職・就職ガイドブック』から再作成)
屋根の部分の下の層にある機能が認知の働きの基礎であって、その上にあるすべての機能に影響しているということを示しています。
高次脳機能障害のリハビリテーションプログラムには、一般的に、発症・受傷からの相対的な期間と目標によって以下の3つがあります。(参考:国立障害者リハビリテーションセンター、高次脳機能障害情報・支援センター「リハビリテーションについて知りたい」)
通常、医学的リハビリテーションプログラムから始めて、生活訓練プログラム、就労移行支援プログラム、と徐々に移行していきます。
対処法①医学的リハビリテーションプログラム
医学的リハビリテーションとは、病院や診療所などの医療機関で行う療法を言うます。
個々の認知障害の対処をめざす認知リハビリテーションに加えて、心理カウンセリング、薬物治療、外科的治療なども含まれます。
リハビリテーションの実施体制を作り、定期的にカンファレンス(会議)を開いて目標や方針を確認しながら評価・計画に基づいて実施します。
対処法②生活訓練プログラム
生活訓練は、利用者が日常生活能力や社会活動能力を高め、日々の生活の安定と、より積極的な社会参加ができるようにすることを目的に行います。
訓練をとおして高次脳機能障害(と、それに伴う症状)に対する認識を高め、障害・症状を補う方法(代償手段)を獲得することが大きな課題です。
また、当事者に対する直接的な訓練のみならず、家族への働きかけも含めた環境調整も重要です。
対処法③就労移行支援プログラム
就労移行支援は、「病気や障害があり、就職を希望する人」を対象に、障害者支援施設が提供するサービスのひとつです。
まとめ:支援者とともに症状に対処して就職を実現していきましょう
どのような病気・障害でも同じですが、高次脳機能障害のある人が復職・就職をされる際には、まずしっかりと治療を受け、自分の症状を把握し、長期的な目標までの間に短期的な目標を立て、短期目標をひとつずつクリアしていくことが大切です。
そのためにも、主治医、支援者、ご家族などと協力し、少しずつステップを進んでいっていただけたらと思います。
そうすることで、あなたの就職・復職・転職が、きっと近づいてきます。
このコラムの情報が、少しでもお役に立てば幸いです。
高次脳機能障害の自分が復職・就職のために抑えるべきポイントを知りたいです。
一般論として、以下のようなポイントが挙げられます。(1)医療機関とのつながりを保つ、(2)症状を把握し、復職・就職のステップをつくる、(3)自分の症状、特性を就職先に説明して理解を得る。詳細はこちらをご覧ください
高次脳機能障害の自分が復職・就職のために利用できる支援機関を知りたいです。
代表的な例として、以下のような団体があります。(1)公的な就労準備支援プログラム、(2)障害者職業能力開発校、(3)地域障害者職業センター、(4)障害者就業・生活支援センター、(5)ハローワーク(公共職業安定所)。詳細はこちらをご覧ください。
監修キズキ代表 安田祐輔
発達障害(ASD/ADHD)当事者。特性に関連して、大学新卒時の職場環境に馴染めず、うつ病になり退職、引きこもり生活へ。
その後、不登校などの方のための学習塾「キズキ共育塾」を設立。また、「かつての自分と同じように苦しんでいる人たちの助けになりたい」という思いから、発達障害やうつ病などの方々のための「キズキビジネスカレッジ」を開校。一人ひとりの「適職発見」や「ビジネスキャリア構築」のサポートを行う。
【著書ピックアップ】
『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(2021年12月、翔泳社)』
Amazon
翔泳社公式
【略歴】
2011年 キズキ共育塾開塾(2023年7月現在10校)
2015年 株式会社キズキ設立
2019年 キズキビジネスカレッジ開校(2022年7月現在4校)
【その他著書など(一部)】
『学校に居場所がないと感じる人のための 未来が変わる勉強法(KADOKAWA)』『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(翔泳社)』『暗闇でも走る(講談社)』
日経新聞インタビュー『働けたのは4カ月 発達障害の僕がやり直せた理由』
現代ビジネス執筆記事一覧
【メディア出演(一部)】
2022年 NHK総合「日曜討論」(テーマ:「子ども・若者の声 社会や政治にどう届ける?」/野田聖子こども政策担当大臣などとともに)
サイト運営キズキビジネスカレッジ(KBC)
うつ・発達障害などの方のための、就労移行支援事業所。就労継続をゴールに、あなたに本当に合っているスキルと仕事を一緒に探し、ビジネスキャリアを築く就労移行支援サービスを提供します。トップページはこちら→