利用開始から10か月で、希望する事務職に就職。KBCでの学びや出会いは、就活にも仕事にも生かされている

Jさん(インタビュー時30代前半、画像は全てイメージ、イニシャルは本名と無関係)
就労移行支援事業所・キズキビジネスカレッジ(KBC)新宿御苑校通所期間約10か月。
大手グループ企業に入社。就職後は定着支援も利用。
障害:ADHD / ASD、精神障害者手帳3級
現在、大手グループ企業でやりがいを感じながら仕事に取り組んでいるJさん。以前の職場では、口頭での指示やマルチタスクの仕事に追われてキャパオーバーとなり、退職。すぐに転職活動をするのではなく、自分の特性を含めて自分を見つめ直したいと思い、キズキビジネスカレッジ(KBC)への通所を選びました。
目次
マルチタスクでキャパシティを超え、自分を見つめ直したくなった
私は、新卒でIT企業に入社しました。激務な上、元々学生時代に学んだことと縁もゆかりもない業種でしたが、それに見合った給料もいただけていたので、何とか踏ん張って社会人生活を送っていました。
しかし社会人3年目辺りから会社自体の業績が急速に悪くなり、労働量が変わらないまま肝心の給料が下がったため、使い潰されているような感情になり、退職しました。
興味の無かった業種を選んだ反省から、2社目は自分の好きなことをやりたいと思い、音楽系の企業を受けた結果、高級オーディオ雑誌の編集の仕事に就きました。
そこで編集のイロハを学んだうえで、3社目では会社の統合報告書を制作する出版社に入社しましたが、どちらも3年と続かずに退職しました。
1社目はともかく、2社目・3社目の編集の仕事を通して自覚した特性があります。
編集の仕事では、取材の際、当日の状況を見ながら柔軟に動かなければいけません。また、複数のことを口頭で指示されることが多く、どうしても他の人と比べると一度で聞き取れなかったり、理解できなかったりしました。
今思えば幼少期からそういった兆候があって、それが自分の悩みになっていたと思います。
前職が3年目になった頃から、自分が主体的に複数の仕事を同時並行で取り組まなければいけなくなりました。そのため、自分のキャパシティを超えてパンクして、休職することになりました。一度は復職したのですが、やはり続けられそうにないなと思ってすぐに退職を決めました。
それまでは退職するたびにすぐ転職活動をしていました。しかし、転職回数の多さや勤続年数の短さと、何より年齢的なことを考えると、転職先がすぐに見つかる保証がなくなりつつある自覚と、あと何回転職を繰り返すのだろうという不安がありました。
そこで、自分の内面や特性も含めて、もう一度腰を据えて自分を見つめ直したいなと思ったのがきっかけで、就労移行支援を探すようになりました。
そのときに初めて、然るべき医療機関に掛かり、自分の特性を知ることに踏ん切りがつきました。
とは言え就労移行支援を探し始めた当初はまだ障害者手帳を取得していなかったので、一般雇用枠で、クローズ(障害があることを就職先に開示しないこと)での転職を目指していました。
そんな中、KBCのホームページでカリキュラムの内容や就労実績を見て、「仮に障害者手帳を取得したとしても、オープン(障害があることを就職先に開示すること。障害者雇用枠での就職を指すことが多い)でもクローズでも転職を狙えそうなKBCは自分に合っている」と思い、悩まずすぐにKBCを選びました。
コミュニケーション講座や就活戦略ゼミなど実践的な講座が印象的
KBCの面談の前に「会計」の体験講座を受けました。私は商学部の出身ですし、前職で携わっていた企業の統合報告書の中に財務データが含まれていましたので、会計の体験講座は興味深く楽しかったです。
KBCの講座で印象に残っているのは「英語」です。偶然ですが、今の会社の公用語が英語なので、英語に抵抗感がなくなってよかったと思います。
英語の授業は、本来は集団授業なのですが、私が利用していた時期には参加者が少なく(※)、講師とマンツーマンとなることもありました。そんな時期は、「私が寝坊して休んだりすれば先生が一人になってしまうな」と思い、参加のモチベーションが上がっていました。講師は、国連で働いていた女性の方でした。
(※KBCの講義・授業は、参加したいものだけに参加できます。)
その他、「コミュニケーション講座」はとても印象に残っています。私の苦手な「口頭での指示」を克服する訓練の一つになると思って受けました。
当時、私は自分のことを人見知りだと思っていたので、「人とコミュニケーションを取ることに慣れていかなきゃ」と思って受けたことを覚えています。
「就活戦略ゼミ」では、お題に対してグループワークをした後に発表します。練習した内容が本番の面接でも聞かれ、面接でうまく話せることにつながったと思います。
資格取得にチャレンジ。6つの資格を手に入れた!

前職では、PowerPoint(以下PPT)を使う機会が多かったんです。「コミュニケーション講座」の中でPPTを使えることを話すと、「今のゲームの資料を、(実践的な業務の練習として、)わかりやすくなるように変えてほしい」とお願いされました。いろいろなゲームの資料を作らせていただき、PPT作成スキルが身に付きました。
また、それまでの私は資格を取得したことがありませんでした。そこで、「せっかくKBCに入ったのだから、御苑校での活動以外にも、対外的な自分の努力の跡を残したい」と思い、いくつかチャレンジしてみることにしました。
KBCに通いながら資格の勉強をして、1か月に1度くらいのペースで資格をとりました。簿記3級、MOSのExcel、Word、PPT。それから、FP3級、ITパスポートです。
MOSの各種資格とITパスポートを取得できた際に、初めて1社目のIT企業に入社できたことに感謝しました。
オープン就労で大手グループ企業に入社。仕事で失敗したときこそKBCの学びを生かせる
ITパスポートに合格したのを皮切りに転職活動を行おうと決意したのが、KBCに入所して8か月のときでした。
8か月の仕事のブランクが就活の結果にどのくらいマイナスの影響を及ぼすかがわからなかったので、まずはオープンで受けてみて、その結果次第でクローズを狙ってみようと思いました。
オープン就労では、せっかくなので新卒やクローズでは手が届かないであろう有名な大企業で働いてみたいなという思いがありました。
これまで経験した仕事内容と取得した資格の種類を鑑みて、基本的には事務職希望で、有名な大企業のみ受けました。
9月のハローワーク合同企業説明会を経て何社か選考を進めつつ、10月の終わり頃、東京の大手町で開催されたスマイルフェア(※)に参加しました。(※障害のある人たち向けの、就職・転職フェア)
ハローワーク合同企業説明会もそうでしたが、このような転職フェアでは書類選考と一次面接を同時に行ってくれる企業が多いです。スマイルフェアでも、ブースで書類選考兼一次面接がありました。
選考に通過し、zoomで面接を2回ほど受けました。どちらも面接官が複数いらっしゃる面接で、選考結果を待つ間にPCスキルチェックシートの提出も求められました。MOSの資格取得の努力が報われた瞬間でした。
結果的には11月の終わり頃内定をいただき、オープンでの就活をすることなく12月15日に入社しました。KBCの利用から就職決定まで10か月くらいでした。
現在、大手企業のグループ会社で契約社員として働いています。オープン就労枠で障害者雇用となります。
グループ各社の事務手続きを代行する、BPO事業を司るグループ内の特例子会社という位置づけです。グループ企業の一員なので、本社と同じオフィスで、同じ福利厚生を利用しています。
職種は事務です。具体的には、稟議サービスチームに所属しており、本社とグループ会社に入社してくる人たちの入社手続きと退職される正社員・契約社員の退職手続きを、人事システムを使って行っています。
入社と退社という重大な手続きを担う関係上、当人から日本人のみならず、外国の方からも頻繁にTeamsで問い合わせが来るので、翻訳システムで翻訳して自分の目で確認して違和感のある単語を修正しています。
入社して1年ちょっと経ち、手続き処理や問い合わせ対応をスムーズにこなせるようになり、携わることのできる業務範囲も増えたことから、仕事にやりがいを感じていますし、毎日充実しています。
仕事でミスをして叱責を受けたときには、KBCの講座「ビジネスシーン失敗回避術」で学んだことを思い出しています。うまくいったときよりも、失敗したときにこそ、KBCで学んだことが生かせるのかなと思っています。
自分のことだけでなく、チーム全体のことを意識するようになった
入社当初から週5日フルタイムで働いています。今後は、雇用形態を正社員に変更できるくらい頑張りたいなと思っています。
入社して1年間は、正直自分が仕事できていればいい、自分がスキルを上げて、一社会人として立派になれたらいいと思っていました。
しかし、同じチームに1年以上いると、だんだん周りも見えるようになってきて、チーム全体のことを少しずつ意識するようになりました。
チーム全体として生産性を上げたり、誰かが困っていたらサポートをしたり、1人が深夜まで残って、残りのメンバーは定時に帰宅するよりも、全員で頑張ってそれなりの時間に終われるようなチームでありたいなと、意識が変わってきたように感じています。
長い目で総合的にものごとを捉えて、耐えしのぐ勇気を持って!
今、週5日フルタイムで働けているのは、間違いなくKBCで週5日、ほとんどすべての講座を受け続けたから。極力、社会人時代と変わらない生活ができたのは大きかったと思います。
また先述したコミュニケーション講座の資料作りと、単発の土曜日講座の開講を任せていただけたのも大きいです。自分も捨てたものじゃないと思えました。
今の会社はKBC以上にいろいろな事情を抱えた人がいるので、KBCでさまざまな人と関わることができたのが役立っています。新宿御苑校で人付き合いのイロハを学べたことが、自分の一番の財産になっています。
KBCに通い始めた当初は常に漠然とした不安感を抱えていましたが、こうして再び社会復帰できた現在では、一番大切なことは長い目でものごとを見てみることだと思っています。
すぐに答えを出すことも時には必要ですが、長い自分の人生の岐路に立った際は、今この場で100%納得せずに、踏ん張って5年先、10年先を見て、この1、2年は耐えしのぐ時期だと思って、ものごとを長期的な目線で見てほしいなと思います。
自分の置かれている立場・状況に対して前向きに行動を起こすことも大事です。いろいろなことをやらせてもらい、地力がついたおかげで、今無事に1年以上働けています。将来のことも考え、資格取得も継続しています。
ほとんどの方にとって、病気・障害・仕事のことは、人生で常に向き合わなければならないテーマだと思います。
一人で結論を出すのが難しいときや、出した結論に自信の持てない方は、結論を急がずに、長い目で総合的に考えることが大切なのかなと思います。
自分にとってKBCとはそのような問いに対して一緒に考える仲間たちと出会い、長い時間を掛けて納得のいく結論を出せたかけがえのない場所となりました。