合理的配慮とはどこまでを指す? 基礎知識と申請する流れを解説

こんにちは。就労移行支援事業所・キズキビジネスカレッジ(KBC)利用者の福澤です。
あなたは合理的配慮という言葉を知っていますか?
合理的配慮はその言葉の意味はもちろん、取り組みの内容自体もまだまだ認知度が低いように思われます。
このコラムで ADHD・ASD・双極性障害の当事者である筆者と就労移行支援事業所・キズキビジネスカレッジ(KBC)の知見に基づき、合理的配慮の概要や対象者、適応範囲、わがままとの違い、求めるときの注意点などについて解説します。
今まで自分の障害の特性を理由に諦めていたことも、もしかすると合理的配慮が認められ、あなたらしく働くことが可能になるかもしれません。
ぜひ最後までお付き合いください。
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目次
合理的配慮とは?

合理的配慮とは、障害のある人が障害のない人と同じように生活し、活動できる均等な機会を確保するために必要な配慮のことです。障害のある人が業務上で支障があったときに改善するための措置を取ることも合理的配慮に含まれます。(参考:e-Gov法令検索「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成二十五年法律第六十五号)」、厚生労働省「合理的配慮指針」、政府広報オンライン「事業者による障害のある人への「合理的配慮の提供」が義務化」、内閣府「合理的配慮の提供が義務化されます!」)
合理的配慮という言葉は、障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)および障害者雇用促進法(障害者の雇用の促進等に関する法律)に規定されています。
障害のある人が希望した場合に、その人にとっての職務上の制限や困難を負担が過重でない範囲内で取り除くため、事業者が講じることを義務付けられた合理的な対応。これが合理的配慮です。
合理的配慮の概要や関連する法律、具体的な内容、合理的配慮を提供するためのポイント、相談先などについて、以下のコラムで解説しています。ぜひご覧ください。
合理的配慮は2024年に義務化
事業者による合理的配慮の提供は、2024年春に義務化されました。(参考:e-Gov法令検索「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成二十五年法律第六十五号)」)
みなさんが気になるのは、「以前とどう変わったの?」という点だと思います。
今回の法改正が行われる前までは、事業者の合理的配慮の提供は努力義務でした。
しかし、今回の改正により、その努力義務が義務へと変わったのです。
- 改正前:企業には努力義務であったことから、なかなか合理的配慮が浸透していない状況だった
- 改正後:一般雇用で働く人に対しても、障害がある場合には適切な配慮を提供する義務が生じた
合理的配慮を申請できる対象者
この章では、合理的配慮を申請できる対象者について解説します。
障害者手帳の有無は問われない

合理的配慮は、障害のある人のための配慮であるため、「障害者手帳を取得していないと受けられない」と考えている方も少なくないのではないでしょうか?
しかし実際は、障害者手帳を取得していない人でも合理的配慮を受けることが可能です。
障害者雇用促進法(障害者の雇用の促進等に関する法律)において、合理的配慮の対象となる障害のある人は、以下のように定義されています。(参考:e-Gov法令検索「障害者の雇用の促進等に関する法律」)
障害者身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。第六号において同じ。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者をいう。
(引用:e-Gov法令検索「障害者の雇用の促進等に関する法律」)
これは、合理的配慮が、様々な障害の特性や症状から仕事において制限や困難を抱えている人を対象としていることを意味しており、必ずしも障害者手帳が必要というわけではない、ということです。
障害者手帳の有無だけで、合理的配慮の必要性が一概に判断されることはありませんのでご安心ください。
ただし、長期にわたりという点がポイントです。一時的な病気や怪我などで職業生活に困難を抱えている人に関しては、合理的配慮の対象外となります。
一般雇用のままでも合理的配慮は受けられる
合理的配慮を受けるには障害者雇用でないと難しいと考え、さまざまな理由から申請をためらっている人もいるかもしれません。
ですが、一般雇用のままでも合理的配慮を受けることは可能です。
障害者雇用で働くほどではないと感じるものの、実際に障害があり、その特性や症状によって業務に支障をきたしている方は、一般雇用のままで合理的配慮を受けることも検討してみてはいかがでしょうか。
合理的配慮はわがままなのか?:具体例を紹介
この章では、合理的配慮がわがままかどうかについて、具体例をもとに解説します。
ただし、合理的配慮とわがままの線引きは明確に決まっているわけではありません。ここで挙げる具体例は、合理的配慮とわがままを分ける絶対的な基準ではないことをご承知おきください。
前提①:合理的配慮はわがままではない

もしかしたら、『障害のある人だけが特別な配慮を求めるのはわがままではないか?』と考える人もいるかもしれません。しかし、結論からお伝えすると、合理的配慮は決してわがままではありません
障害のある人は、障害の特性や症状によってハンディキャップを背負っていることがあります。そのため、仕事が円滑に進まない場合もあるでしょう。
つまり、ある側面において、常に不公平を強いられているのです。それらの不公平を取り除くことは、平等な対応では叶いません。そのために、合理的配慮は存在しているのです。
障害のある人も、環境さえ整っていれば、ご自身の障害の特性や症状による困難に妨げられることなく、職務上の能力を十分に発揮できるはずです。
今の環境で働きにくさを感じているあなたのために、可能な限り個々に合わせて工夫された環境を調整し提供する措置こそが、合理的配慮なのです。
前提②:合理的配慮の範囲を超えた要望はわがままである
ただし、合理的配慮の範囲を超えた過度な要望は、わがままとみなされてしまう可能性があります。
障害のある人の理想は、ご自身の障害の特性や症状による困難などに邪魔されることなく、のびのびと働ける完璧な環境が用意されることかもしれません。
しかし、事業者側にも事情や限界があります。そのため、どうしてもどこかで折り合いをつける必要が出てくる場合があります。したがって、合理的配慮は、事業者が実施可能な範囲で、過重な負担にならない範囲で行うものとされています。
合理的配慮を申請する際に、わがままと捉えられかねない内容を提出すると、相手に悪い印象を与える可能性もあるでしょう。
それを避けるためにも、あらかじめ合理的配慮とされるものの範囲を把握しておくと、合理的配慮を申請する際にスムーズに通る可能性が高まります。
合理的配慮の具体例

合理的配慮の具体例は、以下のとおりです。
- 視覚過敏で蛍光灯の光が眩しいので、色の薄いサングラスの着用を許可してほしい
→個別の対応を許可することで解決可能であり、合理的配慮の範囲内と言える - 聴覚過敏で救急車のサイレンなどが聞こえると疲労を感じるので、耳栓の着用を許可してほしい
→個別の対応を許可することで解決可能であり、合理的配慮の範囲内と言える - 車いすユーザーなので、自分の席までのルートを段差のないものにしてほしい
→費用や負担の程度から考えても問題なく、合理的配慮の範囲内と言える
わがままとみなされる可能性が高い具体例
わがままとみなされる可能性が高い具体例は、以下のとおりです。
- 視覚過敏で蛍光灯の光が眩しいので、会社内の全ての照明を今より暗くしてほしい
→事業活動への影響の程度から、わがままとみなされる可能性が高い - 聴覚過敏で救急車のサイレンなどが聞こえると疲労を感じるので、会社の窓を防音窓にしてほしい
→主に実現困難度、費用や負担の程度の観点から、わがままとみなされる可能性が高い - 車いすユーザーなので、会社内のありとあらゆる段差をなくしてほしい
→実現困難度、費用や負担の程度の観点から、わがままとみなされる可能性が高い
合理的配慮の範囲

事業者は、以下の要素を踏まえて、合理的配慮の提供義務があるかどうかを判断します。(参考:厚生労働省「合理的配慮指針(概要)」)
- 事業活動への影響の程度:合理的配慮の措置をとることによって、事業所における生産活動やサービス提供、その他の事業活動にどの程度影響を及ぼすか
- 実現困難度:合理的配慮の措置をとることで、事業所の立地状況や施設の所有形態等によってどの程度機器や人材の確保、設備の整備等が困難か
- 費用・負担の程度:合理的配慮の措置をとることによる費用・負担の程度はどのくらいか
- 企業の規模:企業の規模に応じた負担の程度
- 企業の財務状況:企業の財務状況に応じた負担の程度
- 公的支援の有無:合理的配慮の措置に係る公的支援を利用できるかどうか
事業主によって合理的配慮の提供義務があると判断された場合、申請内容が一部または全部許可され、申請したとおりの合理的配慮を受けることが可能となります。
なお、事業主によって合理的配慮の提供義務がないと判断された場合でも、事業者は話し合いの機会を設ける必要があるとされています。そのため、改めて事業者側と話し合い、お互いの意向を尊重した上で代替の措置を講じてもらうことになります。
合理的配慮をを求める際に意識すべきポイント
この章では、合理的配慮をを求める際に意識すべきポイントについて解説します。
前提:合理的配慮は自ら申請する必要がある

合理的配慮を受けたい場合は、ご自身から職場に申請する必要があります。
職場側から障害のある人へ合理的配慮を提案する義務はないため、必要性を感じたらまずはご自身で上司などに相談しましょう。相談相手としては、上司や人事部、企業の産業医などが挙げられます。
ポイント①合理的配慮を申請するタイミングを検討する
合理的配慮の申請は、採用時に申し出るのが良いでしょう。
働き始める前の採用が決定したタイミングで申請すれば、合理的配慮が準備された状態で就労できる可能性が高まります。
就労後に申請すると、職場側が合理的配慮を提供できるか判断する期間、合理的配慮を受けられないまま働くことになったり、企業が準備態勢を整えるまでに時間がかかったりする可能性があります。
しかし、就労後に合理的配慮を申請することが悪いということではありません。ご自身が伝えやすいタイミングで、合理的配慮の申請や相談をしてみてください。
ポイント②配慮してほしいことは具体的に提示する

合理的配慮を申請する際には、ご自身の希望する配慮の内容について具体的に提示することが大切です。
「もっと自分の意を汲んでより気の利いた配慮をしてほしかったのに…」といった、「きっと察してくれるはず」という考え方は通用しません。そういった事態を避けるためにも、具体的に提示することがやはり重要となります。
希望する配慮の内容については、あらかじめ以下の点について、メモなどにまとめておくと良いでしょう。
- これまで感じた、または現在感じている仕事上の困難さ
- その際、どのような対応や工夫があれば、本来のパフォーマンスが低下しなかったか
メモしておくことで、ご自身の考えを整理でき、本当に必要としている配慮に気づくことができるでしょう。
ポイント③一般雇用の場合は障害者雇用に切り替えることも視野に入れる
こちらで解説したとおり、合理的配慮は一般雇用のままでも受けることができます。
しかし、今よりさらにご自身に合った細やかな配慮を受けたい場合には、障害者雇用に切り替えることも検討すると良いでしょう。
障害者雇用に切り替えることで、より手厚いサポートを受けることができるかもしれません。まずは、ご自身の現状の合理的配慮では不十分だと感じる点をメモなどにまとめた上で、上司に相談してみることをお勧めします。
ポイント④自分に合った合理的配慮について誰かと相談する

ご自身に合った合理的配慮がどのようなものか分からなくなってしまった場合、誰かに一度相談するのも良いでしょう。
ただし、ご自身の障害について他者に話すということは、センシティブでありプライバシーにかかわる内容です。そのため、相談する相手は慎重に選ぶ必要があるでしょう。
相談相手として、直属の上司や自治体の相談窓口、職場の産業医、信頼できる第三者の支援者などが考えられます。
上司は、合理的配慮を受けるにあたって最終的に相談する必要がある相手であり、あなたの仕事ぶりをよく見ている一人でもあります。
自治体の相談窓口や職場の産業医は、合理的配慮に関する相談を受ける専門家であり、支援機関です。知識のあるスタッフが専門性を活かして対応してくれるでしょう。
第三者の支援者、具体的には民間NPOやピアサポーター(ご自身も病気や障害の経験がある人)などがいる場合には、まずはその方に相談すると親身に対応してくれるでしょう。
ご自身の相談相手として最適な人を選び、有益なアドバイスを受けましょう。
まとめ:合理的配慮は事業者の義務であり、障害者のための調整である

合理的配慮は、障害の特性や症状に伴うハンディキャップをできる限り解消し、障害の有無を問わず、誰もが公平に働くことができるようにするものです。決して『わがまま』ではありません。
長期にわたり職務において制限や困難を抱えている人は、遠慮なく、まずは上司や専門窓口などに相談してみましょう。
合理的配慮とは何ですか?
合理的配慮とは、障害のある人が障害のない人と同じように生活し、活動できる均等な機会を確保するために必要な配慮のことです。障害のある人が業務上で支障があったときに改善するための措置を取ることも合理的配慮に含まれます。
詳細については、こちらで解説しています。
合理的配慮をを求める際に意識すべきポイントはありますか?
以下が考えられます。
- 合理的配慮は自ら申請する必要がある
- 合理的配慮を申請するタイミングを検討する
- 配慮してほしいことは具体的に提示する
- 一般雇用の場合は障害者雇用に切り替えることも視野に入れる
- 自分に合った合理的配慮について誰かと相談する
詳細については、こちらで解説しています。
監修キズキ代表 安田祐輔

発達障害(ASD/ADHD)当事者。特性に関連して、大学新卒時の職場環境に馴染めず、うつ病になり退職、引きこもり生活へ。
その後、不登校などの方のための学習塾「キズキ共育塾」を設立。また、「かつての自分と同じように苦しんでいる人たちの助けになりたい」という思いから、発達障害やうつ病などの方々のための「キズキビジネスカレッジ」を開校。一人ひとりの「適職発見」や「ビジネスキャリア構築」のサポートを行う。
【著書ピックアップ】
『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(2021年12月、翔泳社)』
Amazon
翔泳社公式
【略歴】
2011年 キズキ共育塾開塾(2025年6月現在17校+オンライン校)
2015年 株式会社キズキ設立
2019年 キズキビジネスカレッジ開校(2025年6月現在8校)
【その他著書など(一部)】
『学校に居場所がないと感じる人のための 未来が変わる勉強法(KADOKAWA)』『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(翔泳社)』『暗闇でも走る(講談社)』
日経新聞インタビュー『働けたのは4カ月 発達障害の僕がやり直せた理由』
現代ビジネス執筆記事一覧
【メディア出演(一部)】
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