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「子どもが幸せになる近道とは」100人を超す不登校の子どもと向き合ってきた専門家が語る子どもに必要な実感とは【全文公開】

フリースクールを運営する土橋優平さんはこれまで100名を超す不登校の子どもたちと向き合ってきました。そうしたなか、子どもが幸せになる近道にはある経験が大事だと語ります。その経験とは。

* * *

新年度になりました。子どもたちから「〇年生になったら学校へ行く」という言葉を聞いて、期待を抱いている親御さんも多くいらっしゃるのではないかと思います。

 私は子どもたちが言うその言葉は本心ではないと思っています。でも嘘でもありません。子どもたちは「自分ではない何か」になることで不安から逃れようとしているのだと私は思います。

 私はこれまで100名を超える不登校の子どもたちと関わってきました。そのほとんどの子が、心のどこかで「学校へ行くこと」を望んでいました。でもそれは何か自分なりの目的があって行きたいのではなく、「学校へ行ける自分でありたい」という世間一般の「ふつう」を追いかけた結果の願いでした。「ふつうでありたい」という欲求は子どもだけでなく、大人にもあるものです。それは「まわりの人と同じであることによって安心したい」という気持ちですし、逆に言うと「まわりとちがうことから生まれる不安感から逃れたい」ということでもあります。

「ふつう」と安心 

 子どもが不登校になると99パーセントの親御さんは「どうしてうちの子が」と思いますし、「ふつうに学校へ行ってほしい」といった言葉を漏らす方も多くいます。誰しも無意識のうちに「ふつう」であることを望んでしまうのだと思います。 

 でもこの「ふつう」は、生きていればどこかで崩れるタイミングと出会うはず。その度にまわりに合わせて「ふつう」になることで安心する人生が本当に幸せなのかというと、答えは明白です。ではどうすればいいのか。まわりとちがう自分を見つけ、表現し、それをまわりに受けとめてもらうこと。それをできるだけ小さいころから経験していると、自然と自分らしさを受けいれられるようになりますし、よく言われる「自己肯定感」というものを養うことにもつながります。どんな自分もまわりに愛されるのだという実感が何より大切です。これを読んで「もっと早くそれに気づいていれば」と思われる親御さんもいらっしゃいますよね。いいんです。今それに気づいたのなら、今から改善していけばいいんです。

 私は20歳をすぎて「死にたい」と思うようになった若者と大勢出会ってきました。彼らは学校に通い、ある程度勉強をし、ある程度友だちもいる「ふつう」の若者です。でも彼らは口々に言いました。「自分が何のために生きているのかわからなくなりました」と。

 学校や勉強は関係ないんです。どんな人と関わり、その人にどんな自分を表現し、それを受けとめてもらう経験をしてきたかどうか。その経験値の有無で、生きることへのモチベーションは大きく変わってきます。「ふつう」ではない自分は、つねにここにいます。それを表現しても受けいれてもらえる相手が身近にいるか。どんな自分であっても愛される実感を持てることが、子どもが真に幸せになるための近道なのだと私は考えています。とくに不登校という状態は、今の社会ではまだまだ受けいれられづらいものです。だからこそ「いいじゃん、あなたはあなただよ」と認めてもらえたら、子どもたちはそこから新たな自分を育んでいくスタートに立てるのだと思います。

■執筆者/土橋優平(どばし・ゆうへい)
NPO法人キーデザイン代表理事。不登校支援のほか保護者向けLINE相談「お母さんのほけんしつ」を開設中。

(初出:不登校新聞626号(2024年5月15日発行)。掲載内容は初出当時のものであり、法律・制度・データなどは最新ではない場合があります)

【連載】出張版 お母さんのほけんしつ
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