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「ふつうの人生」から落ちこぼれないために必死だった俺の高校時代【全文公開】

進むも地獄、戻るも地獄だった――。そう語るのは、高1で不登校になった古川寛太さん。毎年のように留年の崖っぷちにいたという古川さんに当時の葛藤を率直に書いていただきました。

* * *

俺は日本海に面する雪国の出身だ。「今年は12月に入ってもあまり雪が降らないな」と油断していると、たいてい年明けには大雪になる。朝や夕方になると道が大渋滞するのも、小さいころから見慣れた光景だ。

地元の高校で3年間不登校していた俺のところにも冬はやってきた。布団から出たくない理由が1つ増える季節。寒いのはきらいだ。いつまでたっても適応できない。学生の冬といえば、進級や進学に向けてラストスパートのかかる時期である。同級生が新たな環境を目指して駆け出していくなか、俺はいよいよ迫りくるリミットから逃げ隠れていた。

進級の条件や卒業後の進路など、親や担任からの耳をふさぎたくなる話が時を経るごとに大きくなってくる。校内に貼ってあった「センター試験まであと84日!」という紙を見て、そのまま家に帰ったこともある。

社会全体が寄ってたかって俺の首を絞めてくる。直視したくないし、してみたところで10代の未熟な俺には能力的にも精神的にも、大したことはできない。進むも地獄、退くも地獄だった。問題が身体を押しつぶすように膨張している感覚を、俺は今でも寒さとともに思い出す。やはり、寒いのはきらいだ。

「ふつうの人生」から落ちこぼれないため

そもそも、毎年留年の崖っぷちにいたため、その先の進路なんて夢のまた夢の話だった。学校から何かを得ようとする余裕もなく、好きなものや目指すものも見いだせず、ただ「ふつうの人生」から落ちこぼれないことだけを考えて、必死でそこにしがみつくように通っていた。寒さで手がどれだけかじかんでいても、「それ」から手を放すことは文字通り「死」を意味する。冷たい校舎を俺は、絶対につかんでいなければならなかった。

冬がつらい理由はこれだけではない。ふだんは自転車に乗って登校していたのだが、雪が降ってしまうとそれができない。氷でタイヤが滑ってしまうからだ。氷壁によって狭くなった車道に落ちてしまうと一巻の終わりである。

地域の学生は降雪の時期になるとそろそろとバスや電車、車送迎での登下校に切り替える。家から学校まで7キロほどあった俺も、リミットから逃れるためにしぶしぶ登校していた。近所の停留所から駅までバスで20分、そこから徒歩5分で学校へと着く。この「季節限定」の通学路もまた、俺にとって大きな冬の難敵となった。(つづく)

(初出:不登校新聞621号(2024年3月1日発行)。掲載内容は初出当時のものであり、法律・制度・データなどは最新ではない場合があります)

【連載】前略、トンネルの底から
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