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「親がしてはいけないことが2つあります」『不登校新聞』編集長が語る「不登校きほんのき」【全文公開】

 夏休み明けに増加する、不登校。子どもから突然「学校へ行きたくない」と言われ、とまどってしまう方も多いと思います。そもそも「不登校」とは、一体どのような定義なのでしょうか。不登校の現状や考えられる要因、学校へ行かない・行けない子どもの気持ちから親にできることまで、本紙編集長の茂手木りょうがが解説します。

* * *

――まずは、不登校の定義や現状について教えてください。

 文部科学省は不登校児童生徒の定義を「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」と定めています。つまり、病気や経済的な理由以外で、年間30日以上学校を休むと「不登校」となるわけです。欠席数が年間30日以上となっているため、継続的な休みはもちろん、断続的に30日以上休んでも不登校になります。

 不登校の数としては、2012年以降、増加の一途をたどっています。最新の2021年度の文部科学省の調査データをみると、小中学生で24万4940人の子どもたちが不登校になっています(下記図参照)。2020年度の調査では19万6127人でした。つまり1年のあいだに、4万8813人もの子どもたちが新たに不登校になったということになります。割合に換算すると、前年比24・9%増となり、不登校は大幅に増加していると言えます。

「令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」より編集部作成

 

取材で見えた不登校の理由

――子どもの不登校のおもな理由はなんなのでしょうか?

 これまで何人もの当事者・経験者の方を取材してきた実感として、不登校は人それぞれなので、一概に原因や理由を定義することはできません。

 その前提のうえで、事例をいくつか挙げるのなら、みんなと同じことをやらされることに苦痛を感じるなど学校環境そのものが要因となっているケース。クラスメイトからのいじめなど人間関係に苦しんだケース。それ以外にも、体罰や叱責など先生との関係がつらかったり、とくに理由はないというケースもあります。

 個人的には、近年学校が子どもたちにとってストレス過多の場になってきていることも理由の1つなのではと感じています。昔よりも子どもたちがストレスを感じるタイミングが早まっているように思うんです。いじめが低年齢化し、今もっともいじめが多いのは小学2年生というデータもあります。

 また、学習スピードが加速している側面もあります。小学校では入学の約1週間後から、平仮名の書き取りから算数の足し算・引き算などの宿題が毎日出るところもあります。「脱ゆとり」という情勢も重なり、詰め込みで学ぶ場面が増えてきていると思います。

 ここ数年はコロナ禍の影響で一斉休校やオンライン学習など学ぶ環境の変化もありましたし、親も余裕がないなかで、子どもたちにストレスが降りかかる機会が増加しているように思います。

――子どもが学校へ行きたくないと思っているときのサインはありますか? 不登校になったときの子どもたちの気持ちも併せて教えてください。

 目に見えるサインとしては、身体症状が挙げられます。具体的には、登校時間が近づくと腹痛・頭痛が起こる、日常的に食欲が無くなる、吐き気や下痢を慢性的に引き起こす場合もあります。また、身体症状でなくても、しょっちゅうイライラしている、勉強が手につかない、口数が減る、自室にこもりがちになる、朝が起きられないなども、「学校へ行きたくないサイン」になります。

 不登校になったとき、子どもが一番に感じるのは罪悪感です。学校へ行くことが当然とされているなかで「自分は価値がない人間だ」、「歩むべき道を逸れてしまった」と自分を卑下し、学校へ行けている子と比べ、自分に自信を無くしてしまう子は多くいます。「学校という行くべきところに行けていない」、「子どもとしてやるべきことをやれていない」と感じることで、子どもは自分の存在や行ないに罪悪感を持ち、自尊心や自己肯定感がいちじるしく下がってしまうんです。
特有のつらさ 選択肢が見えず

 また、「選択肢がない」という子ども特有のつらさも存在します。たとえば、大人が会社でつらい思いをした場合、担当替えや休職、転職など、パッと選択肢が浮かんできますよね。でも、大人ほど多くの情報に触れていない子どもの場合は周囲のサポートがないと、学校以外の場へ行くことや家で休むことなどの自分のための選択肢を見つけるのは難しいです。つらい状況なのに、選べる選択肢やできることがわからない。その状況は、よっぽどの苦しさと不安があると思います。

――子どもに「学校へ行きたくない」と言われたら、親はまずどのように対応すればいいのでしょうか?

 子どもが小学校高学年から高校生の時期か、小学校低学年の時期かで、わけて考えることができると私は考えています。

思春期の子 一旦休ませて

 まず、小学校高学年から高校生、つまり思春期の子は、そもそも苦しい状況を親に相談しにくい子が多いです。身体や心に変化がある思春期特有の難しさもありますし、学校へ行かないことが悪いという認識が本人にあればあるほど、その気まずい状況を友だちにも親にも相談できず、ひとりで抱え込んでしまいます。私自身、思春期のころは、つらいことがあっても親にはいっさい相談しませんでした。なので「本人はつらくてもなかなか相談できない」のが前提だということをまずは理解する必要があります。

 そして、その相談しづらい状況の子がそれでも「学校へ行きたくない」と親に言ってきたとしたら、それは限界を越えているサイン、赤信号です。気持ちがすでにあふれてしまっている、命のSOSだと捉えたほうがいい。なので、学校へ行きたくないと言われた場合は、ひとまず「わかった」と気持ちを汲んで、一旦休ませてあげる選択が必要だと思います。

低学年の子 軽く会話を

 小学校低学年の場合は、思春期の子どもとちがい、思ったことを比較的素直に伝えてくれる場合が多いです。私自身、小学1年生の娘がいますが、「朝起きるのが遅れたから行きたくない」、「今日は好きなお友だちが旅行で居ないから行きたくない」など理由を含めて、気持ちを隔たりなく話してくれます。学校へ行きたくないと親に話すことのハードルが低いわけですね。

 なので、小学校低学年の場合は、学校へ行きたくないと言われたら、軽くコミュニケーションを取ってみてもいいのかなと思います。「どうしたの、何かあった?」、「そっか。イヤなんだね」と子どもの気持ちを聞いていただけたらなと。

 この年齢の子どもは自分の気持ちを言語化すること自体が難しい場合がありますから「なんでなの?」など子どもを問いつめたり、否定したりするような話し方はやめてあげてください。気持ちを話してスッキリすれば「やっぱり行く」とか「ママといっしょなら行く」など気分が変わることもあります。

 この年齢の子どもたちに関しては、「行きたくない」と言われた際に「絶対休ませる」などの決まった対応をするというよりは、目の前の子どもの状況を見極め、柔軟な対応ができるとよいですね。

ダメなのは 否定と先回り

――子どもが不登校になったとき、親にできること・してはいけないことはなんでしょうか?

 親がしてはいけないことは、2つあります。子どもを否定すること、そして、先回りをすることです。子どもにとって、親から否定されることは行き場がなくなることを意味します。幼少期は、学校と家が子どもにとっての世界のすべてです。学校へも行けない、家にいても親に否定されるとなると、子どもの心は本当に孤立してしまいます。傷ついている子どもの心をさらに追いつめるきっかけにもなり得るので、頭ごなしに否定をすることはやめてあげてください。

 してはいけないことの2つめは、先回りをして子どもの歩む道を舗装することです。親に先回りされると子どもは自分で道を選択することができなくなってしまいます。自分で考えられる余力があるのに、先の道を提示され決められても、それは子どもの助けにはなりません。子どもは自分で考え、失敗と成功をくり返すことで学び、成長することができます。だからこそ、子どもを失敗しない道に導くのではなく、親御さんには子どもが失敗したとき、迷ったときにこそ頼れる存在で居てほしいと思います。

 最後に、苦しむ子どもに親ができることはなんなのか。それは「家を子どもにとって安心できる場にすること」です。将来のことや勉強のことなど、親としての心配はたくさんあるかと思います。でも、そのすべては子どもの心身の健康があって成り立つことです。なので、まずはお子さんが気力・元気を蓄えられることに目を向けてもらえたらと思います。

 家を安心できる場にするには、低学年のお子さんであれば、わかりやすく愛情を伝えること。たとえば、毎日抱きしめてあげたり、いっしょに寝るときに「大好きだよ」と伝えたりすることで、子どもは安心を感じます。

 高学年のお子さんの場合は、親御さんが子どもに余裕を見せることが、安心につながると思います。「大丈夫だよ」、「学校へ行かないからって死ぬわけじゃないんだから」と、たとえ虚勢でもよいので、子どもたちに伝えてあげてください。

子育てに何より必要なことは

 とはいえ、子どもに対してどっしり構えるのは、かんたんなことではありません。どっしり構えるためには、親が趣味の時間などを通して「自分の人生を生きること」が欠かせません。

 ぜひ、1日数時間でもいいので親御さんは自分のやりたいこと・好きなことをやってください。不登校になったからといって、お子さんの人生は終わりませんし、何より子どもは親の笑顔を望んでいます。冷たく聞こえるかもしれませんが、子どもの人生はあくまで子どものものです。だからこそ、つねに一心同体なのではなく、親が子どもを自分の人生から切り離す瞬間があってもいいと思います。

 親御さんは、いい子育てをしなきゃ、いい親でいなきゃというプレッシャーにつねにさらされていますよね。私自身も1人の親として、いい子育て、いい親とはこういうもの、子は宝というメッセージが世のなかにあふれすぎて、重く感じるときがあります。でも、ときにはそういうメッセージや価値観をスルーしていいと思うんです。

 まちがいのない子育て、失敗のない道、完璧な親、そういうメッセージから距離をとって、大人も自分を大切にしてほしいな、と。大人だって子どもと同じくらい大切な存在です。子どものために自分を犠牲にする必要はないと思うんです。親が自分を犠牲にしなくとも、大人も子どももそれぞれのやり方で、楽しんで生きていきたいですね。自分を大切にする親の姿を間近で見ることで、子どもも自然と自分を大切にすることの意義を学んでいけるはずです。

――ありがとうございました。(聞き手・遠藤ゆか)

【プロフィール】茂手木りょうが(もてぎ・りょうが)
1981年、東京生まれ。オルタナティブスクールを卒業後、広告会社と図書館勤務を経て、2008年より当法人に勤務。2019年に「不登校ラボ」責任者、2022年より『不登校新聞』編集長を務める。

(初出:不登校新聞610号(2023年9月15日発行)。掲載内容は初出当時のものであり、法律・制度・データなどは最新ではない場合があります)

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